豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』を途中から断念して、(僕にはこれは無理だった)口直しには少し甘い作品を読みたかったからこの文庫本を手にした。いやぁ、甘い。思った以上に。まるで砂糖菓子のような小説だ。だから少し胃にもたれる。仕方ない。
4話の中編連作。アパート・メモアールの4人の入居者たち。彼らが抱える悩み,苦しみ。管理人(大家)の坂下さんはイヤイヤ彼らと向き合う。彼女は人見知りで他人とコミュニケーションが取れない人だから、かなり無理してる。だけど、お節介にも、彼らのトラウマになっているものを取り除く。彼女はすべての記憶を忘れないという特異体質である。記憶障害を抱えた住人たちを助けることで彼女自身も自分を取り戻していく。
最終的には4話からなる連作長編になっていた。しかも最終話は坂下さんが主人公になりこのお話全体をまとめていく、という王道の展開でめでたしめでたしとなる。幾分安易な気もするけど、これはこれで悪くはない。ダラダラと安易な話を続けるよりしっかりお話を完結させる方が潔い。4話完結という構成もわかりやすい。
人間は80%の記憶を忘れてしまうが、残り20%を積み上げて生きる、ということを繰り返し語る。この記憶を巡る物語は描きたいことが明確だ。何度も言うが、シンプルだけど悪くはないと思う。だけど、そこまで。