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映画・演劇のレビュー

『ガールフレンド・エクスペリエンス』『バブル』

2011-07-27 20:35:14 | 映画
 とてもいい映画だった。エスコートガールの話なのだが、キワモノでもいやらしい映画でもない。ソダーバーグの映画なのだから当然のことだろうが、それどころか、とても誠実で、生きていくことって何なのか、なんていう普遍的な問題を考えさせられる映画になっている。

 彼女はクライアント相手にセックスもするけれど、ただの高級娼婦なんかではない。(しない場合もあるし)それ以上に相手をリラックスさせ、プレッシャーのかかるストレスも多いセレブの精神的な負担をやわらげることのほうの比重が大きい。セラピーのような仕事で、プロでなくては務まらない。性を売っているのではない。だいたい高い教養がなくては彼らの相手は出来ないし、ただの聞き上手でも無理だ。

 不思議な映画である。こんな仕事はずっと続けられるはずもない。しかも、若くてきれいで、頭がよくなくては不可能だ。でも、ふつう「若くてきれいで頭がいい」女が、こういう仕事に就くかなぁ、と思う。そんな女ならどんな仕事でもあるはずだ。なのに、そんな女がプライドを持ってこういう仕事をする。そこがおもしろい。

 彼女にはなんだかやけに理解のある恋人もいる。それってなんか不思議だ。自分の女がこういう仕事をしていてもそれをきちんと認められる。心の広い男ってことか? もちろん映画の終盤では揉めるシーンもあるが、それでも穏やかだ。冷静に自分たちの現実を受け止める。事件はあるがそれでドラマは起きない。日常は続く。これは特殊な仕事であることは認める。だが、そこを殊更追求しない。彼女の日常を淡々と追いかけるだけだ。ラストのそっけなさも素晴らしい。

 もう1本の『バブル』もおもしろかった。こんなこともある。そう思わせる説得力がある。工場で単純な仕事を繰り返す日々。ここには何一つ刺激はない。主人公はここで働く中年女と若い男。この2人と、新しく職場に入ってきた若い女性とのやりとりが描かれる。それだけ。

 事件は唐突に起こる。そして、あっけなく幕を閉じる。このいきなりさがいい。74分という中編映画だから可能なストーリーテリングだ。3者のそれぞれの感情が静かに描かれ、それが事件につながる。アメリカのワーキングプアである労働者層の実情が見事に表現される。こんなにも激しい感情がそこにはあったのだと思うと震撼させられる。でも、それを感情的に描くことはない。突き離すでもなく淡々と見せる。

 ソダーバーグのこの2本の実験的中編映画が、劇場公開され、2本セットになりDVD化されてよかった。これは拾い物である。


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