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映画・演劇のレビュー

『SUNNY 強い気持ち、強い愛』

2018-09-02 17:07:43 | 映画

感傷過多にも必要以上のコミカルにもならない。とてもバランスよく、冷静に作られている。この作品に対する大根仁監督の想いがちゃんと伝わってくる。原作である韓国映画があまりに素晴らしいから普通なら二の足を踏むところだろう。「じゃぁ、日本人でも、同じようなのを作ろう!」という安易さからは程遠い「いや、それに負けないような映画を作ってやろうじゃないか!」という強い気持ちが込められた。

これは安易なリメイクではない。世界中どこにだってある気持ちを映画にする。同じお話を下敷きにして、いいところはとことん正確にトレースして、でも物まねではないオリジナルな輝きを伝える。90年代後半の日本を舞台にして、どこにでもいた6人の女子高生たちのキラキラした青春を20年後の今と対比させて描く。あれから20年以上の歳月が経ち、自分たちの夢はどこにいったのだろうか、という青春回顧映画ではない。ノスタルジアとは無縁(ではないけど)の、今を生きる女の子たち(もう40代だけど、だから「おばさん」と分類されても文句は言えないけど)のお話。

 

篠原凉子を初めとしてサニーのメンバーたちがみんな確かにくたびれている。(演技ではなく、もちろん演技でもあろうが)それは残酷だが、加齢による自然な老いである。映画は彼女たちをわざとメイクで若々しく魅せるなんてことはしない。素顔のまま、登場する。だからちゃんと化粧もするし、年相応の身だしなみである。だからこそ、そこには老いがある。バカバカしい若作りはない。綺麗な役者たちにここまでありのままを演じさせる。そこだけは嘘をつかない。

 

それ以外のところはたくさん映画らしい嘘がある。というより、映画ならではのロマンがある。20年振りに再会した友だちは末期がんで余命1ヶ月。彼女の願いは高校時代の仲間ともう一度逢いたい、ということ。忘れていたあの頃の想い出がよみがえる。同時に今の過酷な現実とも向き合うことになる。

 

映画は冷静に今の自分たちをみつめていく。あの頃のバカ騒ぎってなんだったのだろうか、ということを(一応、回想シーンで)同時に見せながら、あのハイテンションだった日々が再現される。バカだったとは思わない。あの頃の自分たちは最強だったと思う。とても愛おしい。そんな気持ちがしっかりと伝わってくるから、この映画は素晴らしい。

 

センチメンタルな映画ならいくらでもある。でも、それだけではつまらないし、意味はない。あの頃の自分たちを大切にして、今を生きていこうとする。決して幸せではないけど、不幸だなんていいたくない。あの頃は輝いていたなんてことも言わない。あの頃も今も、一生懸命にいきているという意味では変わることはない。

 

映画としての脚色はたくさんある。それを見て嘘くさいというのではなく、それがなくては映画ではない、というふうに大根監督は描く。でも、ここに描かれる気持ちには一切嘘はない。とても丁寧にあの頃の気持ちを切り取っていく。タイトルにある『強い気持ち、強い愛』がちゃんと描かれてある。そこだけは譲らない。

 

冒頭のミュージカルシーンが圧巻である。篠原が母校を訪ねていくシーンだ。今の自分が、一気に90年代に戻っていく。あの掴みがあるから、ラストのダンスシーンまで映画はぶれることはない。今の私が、あの頃に入っていき、ラストでは、あの頃の自分と一緒にスクリーンの中で生きる。とても素晴らしいエンディングだった。

 


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