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映画・演劇のレビュー

『バジーノイズ』

2024-05-12 23:03:00 | 映画

大ヒットしたテレビドラマ『silent』(僕は見ていないが)が評判の風間太樹監督作品。朝井リョウ原作で横浜流星が主演した『チア男子』は見ていた。あれは悪くない映画だったけど、今回あれから5年、新たな挑戦である。ただ、甘い恋愛映画なら嫌だな、と思ったけど、大丈夫だった。いやそれどころか予想外の作品で驚きの一編に仕上がった。

ただの「音楽もの」の恋愛映画ではなく、これは音楽を通して生き方を描く力作。人と上手く付き合えない男、清澄(川西拓実)が主人公。彼は部屋にこもり自分だけの音楽を作る。若いのにマンションの管理人の仕事をしている。ほとんど人と接する必要がないからだ。だけど、夜中に音を出して曲作りに没頭して周りから苦情が殺到しているみたい。非常識なのか、それとも周りの住人が過敏過ぎるのか。まさか大音量ではないだろうから。ただ夜中の3時とかに音を出すのはあり得ない。

自分の世界に引きこもり生きていた彼を外の世界へ引き出すのは下の階の部屋で彼の音楽に魅了された潮(桜田ひより)。彼女が彼を見つけて、彼の音楽を応援する。清澄の才能を引き出す。清澄は少しずつ周りに心を開く。

これはサクセスストーリーではない。恋愛映画でもない。自分の音楽が誰かに伝わって受け止められる喜び。だけどそれが商業ベースに乗って認められたとき、同時にそれは消費されていき、やがて枯渇していく。楽しかったことは過去になる。ひとりだけで楽しんでいた音楽が、ふたりだけど幸せなことになる。やがて一握りの理解者を得て、ようやく世間に出て行けるようになった。その先は何?

作曲家としてメジャーになるのが望みではない。「楽しい」が仕事になるといいけど、「楽しい」は仕事になったらやがて苦痛にもなる。どこで折り合いをつけるのが、ベストなのか。

この映画では仲間たちが清澄を迎えに行くけど、現実はそんなに甘いものではないだろう。これはある種の夢物語だ。だけど現実でもこういうことはある。

夢破れて去っていく人もいる。それでも音楽が好きでしがみついている人(奥野瑛太が素晴らしい!)もいる。この映画は音楽を通してある種の普遍的な生き方探しのドラマを提示する。

ある種のパターンではあるから、つまらないという人もいるだろう。だけど、彼らの生き方を応援したいという気持ちになる。誰かがいて、信じてくれる仲間がいる。だからこの先に進められる。



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