
先日の『裸に勾玉』に続いて今期2本目の近大生の実習作品。エイチエムピーシアターの笠井さんの指導により安部公房作品に挑むのだが、これはいささか厳しい仕上がりになった。
まず作品自体が古くなっている。今こんな話では驚かない。この喜劇を成立させるには役者たちにかなりの力量がなくては不可能である。しかもアンサンブルプレーだから、ひとりふたりで引っ張っていくわけにも行かない。これは個性的な面々がまさかの話にリアリティを与えることでなんとか成り立つ劇である。
役者はかなりの力量が問われるのだが、若い学生たちにそれを望むのは酷であろう。ひとりひとりは精一杯この世界を体現する努力をしているだけに残念だ。彼らはまず自分たちの役を演じるだけで手一杯。そこまでで芝居にはまるで余裕がない。
先にも書いたが、安部公房のこの不条理劇はもう今の時代に通用しない。この喜劇が成り立つためには(嘘くさいこの話にリアリティを与えるためには)訪問者を受け止める男の恐怖が体現できないことには不可能。これは彼の孤独が産んだ幻である。恋人からの電話を断ち切らせる8人の訪問者たちの圧倒的な厚かましさが恐怖になっていく過程にリアルが必要。
今回この主人公の男を演じた今井理子(ダブルキャストのA組)はよくやっている。まるで話の通用しない面々と渡り合い、気がつくと取り込まれていく。自分の部屋なのに居場所を無くしていく。そんな男をサラリと演じる。
だけどやはりいろんな意味で難しい。やはりこれには怖さがないと成り立たない。