家族ではなく家庭。これは家と庭という場所を巡る物語。もちろんそこに住む人たちの物語なのだが、家族(人々)を描くのではなく、人が場所に拘ることに重心をスライドさせている。ここで生まれ、ここで暮らす。ずっとここから出たことがなかったけれど、ここは当たり前にずっと今のままあるわけではない。いつか変わっていく。場所は同じでも、人は変化していく。家族だからと甘えていたら、いつのまにか、ひとり取り残されることになる。
24歳のフリーターである主人公、望(もうすぐ25歳なる)は、下北沢の家から出ることなく、今まで生きてきた。7年間バイトする漫画喫茶で、今もバイトチーフとして過ごしている。将来の夢とか希望なんてものもない。焦りがないわけではないけど、家があるから、住むところがなくなるという不安はない。
4人姉弟の3番目。下は妹なので、家には女しかいない。父は海外勤務なので不在。結婚した上の姉が娘とともに帰ってきたから、母を含めて、女ばかり6人。何も望まない望が、何かを望もうとするまでのお話。
ずっとこのままではいられないことはわかっている。しかし、変われない。変わらずにいた。甘えているだけなのかもしれないが、この心地よさを失いたくない。みんながみんな今のままを望んでいるわけではないけれど、この幸福な状態を大切にしたいのは確かで、(彼だけでなく)でも、このままじゃだめ、ということもわかっていて、えいやぁ、とここから出て行こうとする。そんな中、彼は敢えてここに踏みとどまることで変わっていこうと決意する。これは今までとは違う想いで彼がここからスタートを切るまでの物語。
他人事ではなく、僕たち誰もが彼と同じように思っているから。僕だって、いつまでも今のままでいいとは思っていない。この本を読んで、仕事も家も含めて、何を大切にしなくてはならないのかをしっかり考えなくっちゃ、という気にさせられた。