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映画・演劇のレビュー

濱野京子『その角を曲がって』

2014-12-03 21:36:08 | その他
濱野京子の、この初期作品をようやく読むことが出来た。バドミントン部の女の子が主人公のひとりだ、と知り、そこがどんなふうに描かれてあるのかも、興味津々。まぁ、別のこれはスポーツ小説ではないから、それほど期待したわけではないけど。しかも、バドミントンが、どうこうというレベルで小説は読まない。(自分がバドミントン部の指導をしているから、映画や小説で取りあげられると、ついつい気になるのだ)

中学3年生の3人の女の子たち(杏、美香、樹里)のお話だ。なかよし3人組。でも、受験を控え、それぞれ進路で心が揺れている。秋から春までの物語。クラブも引退して、今はひたすら受験勉強に励む。でも、なかなかそれだけに集中できるわけではない。悩み、苦しみ、不安を抱える揺れる心が描かれる。中3という時間はあまりに遠く、記憶の片隅にすら残らない。あの時の気持ちがリアルには実感できない。30年以上、ずっと高校生といるから、高校生ならリアルに実感できるけど、その直前である中学3年という特別な時間が体感出来ないのだ。想像ならいくらでも出来るけど。

まだ子供だが、でも、もう十分に大人のフリも出来る。そんな時間が、ここには描かれる。大人の恋愛だって大丈夫だ。でも、まだ、そんなことをする余裕はない。受験が一番のリアルで、そこを乗り切らなくては、未来はない。3人はそれぞれ違う進路を選択する。だから、高校に行くとどうしても疎遠になる。ずっとともだちだね、と確認しあう。でも、不安は拭えない。でも、そんなことは仕方ないことだ、とは割り切れない。それが14歳だ。お互いがお互いの夢に向かって羽ばたいていこうとしている。だから、今の時間はただ、受験の重さだけではなく、この友情に育まれた時間を失うという事実の前で、唖然としていることも、事実なのだ。毎日学校で一緒にいるのに、遠い。離れていく予感が彼女たちを苦しめる。

彼女たちの3者3様の「今」が描かれる。章ごとに主人公は変わる。3人のそれぞれの今はそこにある。濱野京子はそんな彼女たちを、愛おしむように、丹念に、丁寧に、描いていく。その筆致は見事だ。異性で、もう充分大人でしかないような僕が読んでいても、その震えるような想いは伝わる。こんなにも何もないようなお話をそれだけで綴りながら、特別な事件もなく、最後まで緊張を絶やさず描き切る。簡単そうに見えて、こんなにも困難な作業はない。よくある漫画や小説のように、ドラマチックな事件でも挿入すればメリハリが付いていいのだが、絶対にしない。これで充分なのだ。そんななんでもない時間を描くのがこの小説の目的だ。そして、それは達成された。

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