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映画・演劇のレビュー

小路幸也『壁と孔雀』

2014-12-03 21:37:00 | その他
ハヤカワ書房から出版される小路幸也作品は、他の出版社から刊行される彼の作品とは一味違う。まず、当たり前のことだが、これはミステリーだ。なんでも書ける彼だが、得意技は『東京バンドワゴン』シリーズに代表される家庭劇だろう。ミステリーをしても、その根底にはそれが流れている。本作もそうだ。

SPを主人公にした。要人警護で負傷した彼が、生まれて初めて故郷に帰る。母親の実家である北海道の田舎の村を訪れることから始まる。両親の駆け落ち、さらには離婚以降まったく関係を絶っていたそこを訪れたのは、3年前死んだ母親の墓参のためだ。今まであったこともない祖父母と会う。さらには母親が産んだ異父弟の存在を知る。やがて、事件に巻き込まれる。

ストーリーは書かないけど、安心して読める。もちろん、小路幸也なのだ。よく出来ている。どんどん読ませる。400ページ近い長さなのに、あっというまで読める。読み始めたら止まらない。これならエンタメとして及第点だろう。ただ、それだけだ。それ以上の「何か」を期待すれば肩透かしを食う。ただ、面白いだけではなく、そこにテーマのようなものを期待する向きには勧めない。でも、とても気持ちよく読めるし、満足感はある。それで充分ではないか。それすらないような娯楽小説は枚挙にいとまがない、はずだ。まぁ、普段こういうものはあまり読まないから比較にしようがないけど。

わざわざ読まなくてもいい。でも、たまには息抜きとして、こういう小説も必要に思う。ラストの急転直下は、いささか肩透かしだが、そこで派手な見せ場はいらないという判断だろう。そこのところは、作者の美意識か。話をどんどん膨らませるのではなく、程よいところで、ちゃんと収束させる。でも、物足りない。



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