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映画・演劇のレビュー

『虐殺器官』

2017-02-12 22:07:18 | 映画
この圧倒的な情報量、その知的刺激の洪水。目まぐるしい展開。今と言う時代の怖さ。描かれるものは、テロ、戦争ということにとどまらない。2020年という時代設定も危うい。ほんの少し先の未来。いや、未来というより今の続きでしかない。というか、水面下で今起きている現実といっても誰も疑わない。



ラストの2022年の告発シーン(冒頭でも、ちらりと描かれる)もリアルだ。それにどれだけの意味があるか、なんて関係ない。そこにほんの少しでも可能性があるのなら、告発する。それが未来のためだ。そういう力強いメッセージがそこにはある。それはそのシーンがただのきれいごとではなく、そこまでのリアルな描写の先にあるから信じられるのだ。この世界をなんとかしなくてはならないという想いがちゃんと伝わる。



テロとその報復。この世界では常にテロは起きているし、それはとどまることを知らない。戦争を続けること。内乱を誘発して世界を恐怖に叩き落すこと。特定の言語体系内による思考を呼び覚ます。殺戮本能を刺激する。



アメリカの正義はテロを許さない、というお題目を素直に信じるわけにはいかない。お話は、ある危険人物を暗殺するミッションを受けた特殊部隊のメンバーの戦いを描くというよくあるストーリーなのだが、そこにさまざまな要因を示すことで、単純にはいかない現実を見せていく。冒頭、サラエボの内乱を通して、多民族国家を民族間の憎しみを煽り分断させてしまうという図式が示される。どうしてそうなるのかが、映画のテーマだ。



テロの首謀者を追い詰めて未然に防ぐというアメリカの正義は果たして正義なのか。そうじゃない。犯人である彼はテロに巻き込まれて妻子を喪っている。そんな個人的な私怨からお話はスタートするが、それは単純な復讐ではない。個人と国家、という視点がこの映画の根底にはある。



この映画は一貫してアメリカ人という立場から描く日本映画というスタンスを保ち、そこから世界の在り方を描こうとする。ワールドワイドな視点から2020年以降という極めて近い未来のリアルを描き、この世界がどこに向かっているのかを明示する。そして、そこで我々は何を為すべきなのか、その指針を示す。アニメーション映画だけど、いや、それゆえに、実に生々しい現実を見事に描き切っている。
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1 コメント

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参考になりました (ハットリです!)
2017-02-18 23:05:01
すごい題名で気になっていた。

アニメという事で見るのをやめようと思ってた。

でもこの感想みたら見たくなってきた。やばい!

まだ上映してるかな?

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