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映画・演劇のレビュー

墨谷渉『パワー系181』

2008-03-25 20:35:00 | その他
 このへんてこな話って何だ?それをこんなにもあっさり見せて、さらりと終わらせる。それってとても面白い。(『ダージリン急行』よりずっと凄い)

 この短さもいい。全体が130ページしかない。(本編が80ページで、外伝50ページ)これ以上やったらきっとぼろが出てくるか、しつこくなる。あれっ?って思わせといて、すぐひいていく。何が描かれていたのかよくわからないくらいに。そこがいい。

 一瞬の出来事として見せる。考え込まさない、ということだろうか。もちろんぼろが出てくるなんていうのは言葉の綾だ。これはとても上手い小説だ。思いつきではない。

 身長181センチの女リカ。体を鍛えて密室格闘系クラブを始める。デリバリヘルスのようなスタイルで、男たちを誘う。スリーパーホールドを決め、それでソフトコース60分、1万8000円。ハードコースは2万1000円のギャラをもらう。マンションの一室で、投げられ、絞められ、それを喜ぶ男がいるらしい。それって変態だろ、と思うが必ずしもそうではない。普通のちょっとへんなこだわりのあるマニアックな男たちである。

 そんなことを商売に出来るという彼女も充分にへんな奴だが、それはお互いさまだ。性的な関係を期待してくる男たちは一応いない。だいたいムラムラしてきても、リカの鍛え抜かれた体の前ではおとなしくするしかない。たとえ男であろうとも彼女の力に勝ることは出来ない。

 彼女は変態男たちを締め上げる正義のヒーローではない。ただ単純に自分の趣味で、お金儲け(というかギブ・アンド・テイクだが)しているだけだ。

 7章構成で、リカの話と、リカとは反対に背が低い男(身長160センチ。コンプレックスの塊り)瀬川の話が交互に語られる。奇数章がリカ。偶数章が瀬川。そして、最後の章で2人は出会い2人のバトルが描かれる。

 外伝は、本編のサブキャラである測量男の話。こいつは女の体の測量をすることに喜びを感じている。特に大きい女が大好きだ。だから、リカと出逢う。

 この小説は、この2つの贅肉をとことんまで削ぎ落とした無駄のない中篇小説から構成されている。高橋源一郎ではないが、「墨谷大丈夫か?」と言いたくなる。それくらいにキレた傑作である。

 今年この小説と同時にすばる文学賞を受賞した原田ひ香『はじまらないティータイム』も前後して読んだが、こっちも負けず劣らずの怪作である。本間洋平『家族ゲーム』の昔からそうだが、すばる文学賞はいつも斬新でキレのいい小説が多い。時代の先端を行く作品の宝庫だ。

 『はじまらないティ-タイム』は主人公が4人。中年女のミツエと、彼女の甥博昭の元妻、佐智子(彼女は離婚後、昼間に人のいない家に鍵をあけて勝手に上がり込み、まどろむことを趣味にしている。もちろん盗みなんかはしない。まるでキム・ギドクの『うつせみ』である。)博昭と「できちゃった不倫婚」をした相手である里美(「なせばなる」と一途に信じ込み、妻のいる女から夫を奪い取るような勘違い女でもある。)と、ミツエの娘奈都子。この4人のエピソードを交互に描いていきながら、ラストで4人がついに顔を合わせるという静からバトルへと突入していくエンディングまで。一気に読ませる。

 あれっ?こうして書いていくと今回の墨谷作品と原田作品って構成がとてもよく似ている。すばる文学賞ってこういう作品が好きなんだなぁ、きっと。

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