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映画・演劇のレビュー

『人生はビギナ-ズ』

2013-03-28 08:33:01 | 映画
 父が死んだ。これはただ、それだけのことを描いた映画である。そんな気持ちが、ただそれだけで、1本の映画になる。なんだか凄い。

 母親が亡くなり、その後、父が自分がゲイであることをカミングアウトした。父はガンに侵され、後いくらも生きれない。だから、自分の心のまま生きる覚悟をした。70代になり、初めて若い恋人(もちろん男)を作り、幸せそうな老後を送る。息子であるユアン・マクレガーは、そんな父親を見守る。やがてたくさんのゲイ仲間に見守られて逝く。


 父親の人生はなんだったのだろうか、と思う。母親とは決して不仲ではなかった。だが、自分の性情を隠して、ずっと生きた。最期は本当の自分として、生きて、死んでいった。そんな父を失い、彼はひとりぼっちになる。父の残した犬(先に読んだ『旅猫レポート』のナナと同じように、この映画の犬も、主人の言葉がわかる)を引き取り、彼と暮らす。

 やがて、好きな人が出来る。(もちろん女性)でも、彼女と一緒にいてもさびしい。自分はどう生きればいいのか。よく、わからない。もうすぐ40歳になる(いい年した大人なのに!)。誰にも心を開くことが出来ない。これは『サムサッカー』のマイク・ミルズ監督の自伝的作品らしい。こんな個人的な内容を、普遍的なものへと無理なく昇華している。人生の最後になって、自分らしく生きようとした父を見守りながら、その自由奔放さを戸惑う。でも、父の晩年の時間を見ながら、そこに勇気を貰う。

 でも、自分はそうは生きられない。父の喪失感から逃れられない。淋しくて、なのに、というか、それゆえか、恋人とも距離を取ってしまう。自分は父のようにはなれない。そんな男の姿がプライベート・フイルムのような親密さとひ弱さを秘めた文体で語られていく。

 監督の趣味のような遊びの描写を幾つも挟みながら、そこに主人公の内面が自然に描かれる。最後に下す決断はありきたりかもしれないけど、心地よい。おずおずしながら、歩み寄る2人(主人公とその恋人)の姿が胸に沁みる。

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