習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

太陽族×光の領地『イエロースプリングス』

2021-06-30 16:02:30 | 演劇

これこそ演劇だ。こういう緊張感が持続可能な表現が、小劇場演劇の魅力だろう。たっとふたりの役者たちが真正面から向き合いぶつかりあう。90分間、彼らはずっとバトルを繰り広げる。実際殴り合うシーンもある。肉体と肉体はぶつかり合い、骨が削られ軋む。緊張が持続する。弾ける。息苦しい。だから、途中で換気休憩が入るのにはほっとさせられる。これはそれくらいにキツイ芝居だ。だから、素晴らしい。そうすることで、彼らが抱える痛みや辛さがここからはひしひしと伝わることになる。

逃げ場のない芝居だ。彼らと向き合うしかない。なぜ、こんなことになったのか、ではない。この事実を目撃せよ、という。作者のくるみざわしんは怒りの塊にような芝居を書いた。演出の岩崎正裕はそれを正面から受け止めきれない。だから、距離を取る。そして役者たちに委ねる。でも、それは逃げたのではない。戸惑いだ。信頼のおける優れた役者たちはこの台本を素直に受け止める。当然だろう。演出はきっと僕たち観客と同じ目線で芝居を見つめる。そこに生じる距離感がこの芝居には必要だった。台本と同じように怒りに駆られてこの芝居を演出したならきっと空回りしたはずだ。これは岩崎さんらしい芝居ではない。だから、これは成功した。

描かれるのは強制収容所に入れられた日経アメリカ人たちとその家族の物語だ。戦後、イエロースプリングスで彼らはどう生きたのか。4人家族の絆が描かれる。だが、それはいたわりあう家族の姿ではない。どうしようもない怒りを抱え込み、抑えられず、ぶつけあう。ここには登場しない兄と母親の怒りを受け止める父(保)と弟(森本研典)の姿が描かれる。そんな彼らふたりが繰り広げる二人芝居だ。

最終章はほんの少しほっとさせられる。岩崎さんらしいセンチメンタリズムが仄見える。兄と母親を失い、父と残された息子(弟)はここを去ることになる。そんな別れの情景が描かれる。そこまでの激しいバトルの幕引きだ。ここからどこに向かうのか。そこに何が待ち受けるのか、もちろんそれはまた別のお話だ。

ここに描かれた家族の姿、こんなにも過酷で理不尽な毎日であっても彼らはここに留まった。ここには何があったのか。この芝居が描くのはそこだろう。日本を離れて、遠くアメリカにやってきて、苦難の日々を過ごし、やがてはここから旅立つ。もう今はアメリカに夢を抱く時代ではない。でも、これは過去の歴史の一幕ではなく、生々しい今につながるドラマだ。だからこの90分は記憶に残る。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ARK アーク』 | トップ | 2021年上半期ベストテン ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。