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映画・演劇のレビュー

『夜の上海』

2007-10-02 00:31:43 | 映画
 夜の上海で迷子になった日本人のカリスマ・メイクアップ・アーチスト(本木雅弘)が主人公。言葉も通じないし、今自分がどこにいるのかすら、定かではない。地理感もないし、スタッフと連絡を取るためのケイタイもない。自分が泊まるホテルも覚えていない。お金も一元すら持ってない。

 そんな時、タクシーに轢かれてしまい、体は無事だけど、パニックに陥る。こういう設定は必ずしも悪くはない。彼を轢いたタクシーの運転手がヴィッキー・チャオで、彼女と共に異国の町をさすらう1夜が描かれる。彼女の好意に甘えて夜の上海を浮遊する。まぁ甘いけど映画だから許す。しかし、ここから(ここまででも大概だが)さらに許しがたい展開になる。

 全く誰一人知る人もいない上海の町で、行き場を失くして、流れに身を任すように一夜を過ごすことを通して、自分は一体何者なのか、自分は何がしたいのかを考える。彼は実は、わざと迷子を楽しんでいるように見える。ぬるま湯に浸かったような毎日に刺激を与えたかっただけなのかもしれない。偶然出会ったタクシードライバーの女性におせっかいする。彼女の大好きだった男が明日結婚する。最後の夜に、彼女が彼に気持ちを打ち明けるのを手助けしようとする。

 ストーリーの組み立て方があまりに安直で、バカらしくてついていけないのだが、その全てに目を瞑って、異国の町でのセンチメンタルな一夜の物語という設定だけを受け入れたなら、これは面白い映画になる可能性は充分あった。刻々と移りゆく夜の上海の表情、ロケーションがいいだけに、もったいない。どうしてこんな映画にしてしまうのか、情けなくなる。リアリティーの全くないドラマ作りしか出来ないのはなぜだ。竹中直人にいまさらブルース・リーの物まねなんかをさせてしまうことや、サム・リーのへんな通訳も単なるコメディ・リリーフにすらなってない。最悪だ。設定以外に見るべきものがないなんて、悲しすぎる。

 監督は『アバウト・ラブ』上海編のチャン・イーバイ。この人は他に一体どんな映画を撮ってるんだろう。彼女は日中合作御用達監督なのだろうか、謎だ。

 実は僕も上海で迷子になったことがある。初めての街で、地図は頭に入っているけど、どうしても方向感覚が上手くつかめず(まぁ当たり前だ)こちらだと思い歩いていくうちに、一体どこを歩いているんだか分からなくなる。どんどん時間は過ぎていく。目的地にはいつまで経っても、辿り着かない。何とかなるから、という前提で迷子を楽しんでいる。少し余裕のある迷子はほんとうは楽しいことかも知れない。

 この映画の主人公の気持ちはほんの少し解る気がする。こういう旅の甘えを、もう少し繊細に描いてくれたならコピーにある「旅恋」気分が描けたのではないか。『ローマの休日』とまではいかなくていいけど、ああいう甘い感傷を心地よく描いてくれたなら、良かったのだが。

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