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映画・演劇のレビュー

恩田陸『木漏れ日に泳ぐ魚』

2007-09-08 09:50:28 | その他
 恩田陸は今回も仕掛けに失敗している。もういいかげんこういう小さな話はやめにすべきだ。例えば100歩譲ってこの話でもいいとする。その場合でも、もう少ししっかりと人間を描くなり、背後の世界を描くなりしてくれないと、あまりに説得力がなさ過ぎて、しらけてしまうばかりだ。

 お話の辻褄あわせなんて、いいからもっとしっかり世界観を見せるなりして欲しい。絵空事の世界ではなく、血の通った人間世界を、である。ミステリなんてこの程度の人物描写で充分なのだ、なんていうつもりではあるまい。そこまで彼女がバカだとは思わない。

 幼い頃別れ別れになった二卵性双生児の男女が、偶然出逢い恋に落ちてしまうなんていう安物のTVドラマのようなラブストーリーを、2人が別れていく最後の一夜、という時間に集約して描こうとする。

 1年前、彼らの目の前で、死んでしまった2人の父親。その死の謎を解いていくことで、2人の間にあった秘密も解けていく。その時、彼らはお互いをどう感じ、今までの人生をどう受け止め、向き合うことになるのか。

 ストーリー自体の仕掛けはまぁ、それなりによく出来ている。なるほどね、と想い本を閉じれば2時間ほどの娯楽小説としてすぐに忘れられるだろう。だが、そんなものを期待しているのではない。たとえ、小説としてのバランスを著しく欠いても、その想いが痛いほど伝わってきた『夜のピクニック』のような感動が欲しいのだ。

 ここに何が足りないのかは、明確である。主人公2人には、それぞれ人としての息吹が感じられない。20年以上生きてきて、何を想い何を感じ、今ここに居るのか。それが描ききれてないから、彼らはこの小説のための操り人形にしか見えない。

 2人の父親の死にしたって、事故なのか、自殺なのかなんてどうでもいい。生まれる以前に2人の前から姿を消して、それ以降一切接触のなかった父との三日間の旅。この旅を通して3人の人生がどう変わって言ったのか、それこそがこの小説が本来描くべきものだったのではないか。

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