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映画・演劇のレビュー

奥田英朗『我が家の問題』

2012-02-11 23:20:14 | その他
 6つのエピソードにはそれぞれ切実な「我が家の問題」が綴られている。人からすればささやかでどうでもいいような話ではないか、というものも含まれるが、当事者にとってはたいへんなことばかりだ。なんだか訳知り顔で鼻につく、という人もいるだろうが、単純に、わかる、わかるで、読み流すのがいい。作者である奥田さんは上から目線でこれを書いているのではないのだから、素直に読むのが一番なのだ。ただ、読んでいてあまりに上手くて、手練れの仕事だから、そこが気になるのも事実で、読みながら、おもしろいのに、なんだかなぁ、と思ったのはこの僕です。これが重松清なら、もっと素直に受けいれられるのだ。それは重松さんがあまりに表裏のない人だから、勘ぐるのがバカバカしくなるからだ。じゃ、奥田さんはそうではないのか、と言われると、どうしても伊良部先生のシリーズとかにしてもそうなのだが、ちょっといじわるな視線を感じてしまう。シニカルに世の中を見ているのが、気になる。でも、本当は優しい。それもよくわかっている。だが、後一歩踏み込まないから、そう感じるのだ。でも、そこが彼の良さなのだからなんとも言いようがない。

 主人公と適切な距離感を保つ。それがもどかしさにもつながる。だが、こういうフラットな視線が、彼の小説の魅力なのかもしれない。これ以上踏み込んだら、ごちゃごちゃになる。それはここで描かれる家族のそれぞれの関係にも言えることだろう。親しき仲にも礼儀あり、である。たとえ家族であっても踏み越えてはならない一線がある。そこをちゃんと理解してつき合うから上手くいくのだ。なんでもかんでも、言えばいい、やればいい、という問題ではない。知っているけど敢えて言わない、そういうスタンスが大事なのだろう。

 かわいい話から、シリアスなものまで、バラエティーに富んでいる。さすがである。サービス精神旺盛だ。敢えてひねりを作らない『絵理のエイプリル』は一番シリアスで意外性があった。泣けたのは最後の『妻とマラソン』。マラソンはあかんわぁ。ついつい泣かされて、あちゃぁ、と思う。スポーツものに弱い。妻が夫に対してちゃんと気を遣い、知っているのに知らんふりする。その匙加減で勝負する作品が多い。いずれも面白いが、敢えて1本、と言うなら『夫とUFO』を推す。あのラストには参った。


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