これはある少年が花火職人になるまでのお話。だからこのタイトル。17歳の少年が補導委託で煙花店にやってくる。アルバイト先で暴力事件を起こし、家庭裁判所に送致されたのち試験観察処分となった鳴海円人だ。昨日読んだ『ヨルノヒカリ』に続いて、これも子供の頃に母親を失いひとりぼっちになった少年の再生までのお話。
優しい人たちに導かれて、頑なだった心がほぐれてくる。そこから生きていく力が生まれる。花火作りに関わっていく中で、たった6秒のために何ヶ月も掛けて慈しみながら作り上げる時間を見つめ、保護観察中のこの一時期、彼らに見守られ大切にされることで、自分もまた花火のように育てられていたことに気づく。人を信じることで、初めて彼は生きる力を身につける。そして彼は花火職人になる。
彼を受け入れた親方は交通事故で幼かった息子を失い、家庭まで崩壊した過去を持つ。円人を受け入れることを通して失った息子を取り戻したような気分になる。もちろんそんなことは誰にも言えないし、言わないけど。見守ることで、自分もまた守られていく。そんな関係性がなんだか心地よい。これは『ヨルノヒカリ』のような傑作ではないけど、とてもいい小説です。