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映画・演劇のレビュー

『最初の恋、最後の恋人』

2023-10-17 13:51:28 | 映画

これは2022年の韓国映画。とんでもない映画である。いろんな意味で呆れてしまう映画だけど、究極のラブストーリーだ。とことん極めている。

もちろん究極のラブストーリーの最高傑作は、同じく韓国映画のクァク・ジェヨン監督『ラブ・ストーリー』であろう。それと恋愛映画であり同時に難病映画の最高水準の映画はホ・ジノの『八月のクリスマス』だと思う。この二本の傑作を掛け合わせたくらいに強烈な映画が生まれた。それがこの映画なのだ。でもそれなのに、この映画はとんでもない失敗作である。参った。

これは若年性アルツハイマー病と診断され記憶を失っていく男性と、末期ガンにより余命宣告を受けた女性の恋物語。ありえないような設定だ。高校生の時つきあっていた二人。だけど突然彼から別れを告げられて8年。

彼女は故郷を離れてソウルで働いていた。だが2年前に癌にかかり手術を受けたが再発する。生きる望みを絶たれた彼女のもとに大好きだった彼から誕生日ケーキが贈られて来た。

彼女は最後の時間を穏やかに暮らすために帰郷する。そしてパティシエになっていた彼と再会する。やがて彼が遺伝性のアルツハイマーだったことを知る。彼女と別れたのもそれが原因だ。彼女を悲しませたくないかったから。

病いに侵されたそんなふたりの愛の物語が描かれる。何なんだ、このお話は。ありえないほどのベタさ。しかも細部まで嘘くさい。リアリティゼロの究極のラブストーリー。

だけど、とても美しい映像で、これでもか、という勢いでラブストーリーは爆走する。彼女の死までの残された時間を精一杯ふたりで生きようとする過程が描かれる。彼女の癌の進行と同時に彼の認知症も進行していく。結婚して、きれいなお家で暮らす夢のようなお話。ある雨の日に彼は彼女のためアイスクリームを買いに行くが、、、

見せ方は大事だ。先に書いた2本の傑作映画は恋愛映画の範疇を超えた歴史に残る傑作だったが、これは誰にも知られず一瞬で消えてしまう映画だ。その差は微妙だけど、とてつもなく大きい。廃墟となった駅舎。線路が象徴的に捉えられる。そのきれいな光景が映画全体を包み込む。そこだけ見てよかったと思うことができる。


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