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映画・演劇のレビュー

『ラスト・コーション』

2008-03-10 22:37:40 | 映画
 ようやく『ラスト・コーション』を見てきた。公開から1ヶ月も経ち、この日で上映が終了するというまさに「ラスト」でようやく見ることが出来た。本当は何よりもまず、この映画を先に見るべきであった。そんなこと言われないでもわかっている。

 『ウエディング・バンゲット』で初めてアン・リーを見た時から彼の映画の虜だ。『恋人たちの食卓』が僕にとってのベスト・ワンである。あれだけ繊細に人の心を描とった作品は他にない。とても微妙なところを微妙なまま、ほぼ完璧に見せてくれる。

 活躍の場をアメリカに移してからも期待を裏切られることはない。(たとえ『ハルク』であったとしてもあれはあれなりに彼らしい。評判になった『ブローバック・マウンテン』よりも『楽園をください』を買う。)とはいえ、出来ることなら中国語圏でもう一度映画を映画を撮ってもらいたいと密かに願っていた。その願いが叶ったのだ。これを見ずして何を見るというのか!

 アイリーン・チャンの短編(『色・戒』)の映画化である。2時間38分という上映時間はとても長いはずなのに決して長さを感じさせない。悠々としたタッチでこのサスペンス映画は綴られている。

 登場人物は基本的に2人きりだ。この男女の禁断の愛が、身を削るような性描写と、身を切るような緊張感の中で描かれている。まだ童顔の若い娘であるタン・ウェイが、とても危険な中年男である少しくたびれかけたトニー・レオンを誘惑する。冷静で残虐な男に対して、すべて偽りの女を演じながらも見破られることなく、彼を虜にする。まだ、20歳過ぎの女子大生が、妖艶な人妻を装い、40過ぎの崩れかけた中年男の心の中に忍び込む。

 こんなにも危険な行為に彼女を駆り立てたのは、幼い正義感である。大学生6人組は日本軍に通じるこの男を殺すために彼に近付く。彼女は自らの身を犠牲にして、囮となり、彼を引き込む。彼は簡単に心を許すことはない。それでも彼女はすべてを犠牲にしても祖国を救うために命を賭ける。

 嘘で塗り固めた2人の愛の物語である。ここには本当のことは何もない。だけれども、彼らは身も心も許しあい、お互いのことを愛してしまう。こんなふうに書くと何だか陳腐でつまらないメロドラマになってしまう。これは自分の目で見てもらうしかない。確かにお話は陳腐かもしれない。だが、ここにある緊張感は本物である。この映画の全てはこのヒリヒリするような2人の愛の衝動を描くことのみにある。そこではストーリーとかテーマなんか、そんなものはもう意味を持たない。

 

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