また小野寺 史宜を読んでいる。先日のエッセイ『銀座に住むのはまだ早い』からまだ1週間も経っていないというのにもう新刊が出ているからだ。だから、「今回の主人公はどこに住んでいるのかな、」なんてどうでもいいことを気にしながら読み始めた。だが、すぐにそんなことどうでもよくなる。お話に没入してしまったからだ。特別なことは何もないのに、とても面白い。だから読む手が止まらない。(僕はつくづく何にもない話が好きみたいだ)
泉ちゃんの小学生の頃の話からスタートして30歳までの20年間が他者の目から語られる。近所のコンビニのお姉さん、中学のクラスメイト、バイト先の店長、恋人(元カレ)。4つの時代、4人の視点。最後はようやく本人になる。5つのエピソードの主人公は必ずしも泉ではなく、語り手本人だ。だけど、そこには確実に泉がいる。まぁ最後は自分だけど。
小野寺 史宜の文体は軽い。だけど、浅いわけじゃない。さらりと深い。他者の目に映った彼女を見守ることで、客観的に見ることになる。泉ちゃんって何なんだろ、と興味が湧く。なかなか彼女が登場しないエピソードも交えて彼女の人生が見えてくる。
だからすべてを回収する最後の本人の話が面白い。そこからは改めてこれまでの彼女の生き方、これからの人生がはっきり見えてくる。まず結婚式のエピソード。式を背景にして彼女目線で語られるこれまでのこと。さらには30歳から33歳までを4年、4章にして描く。結婚から出産までが短いエピソードにして語られる。
生きるってこういうことなのか、なんて少し大袈裟なことまで考えてしまう。これはさりげない傑作。