「還暦を迎えた女性が、生き別れた息子との再会をきっかけに、自分の人生や他者とのつながりを考え直す物語」らしい。還暦過ぎの先輩として、還暦芝居を見るのはなんだか楽しみ。まだ若い(40くらいかな?)四方京が作・演出。
劇団フジは1960年4月の創立。「ひぇっ! 僕と同い年じゃん」と驚く。そんな老舗劇団の芝居を初体験させていただく。劇団員は若い人が多い。大阪と東京に劇団を持ち活動しているみたい。まるで今まで知らなかった。もしかしたらタレント事務所みたいな感じか。よくわからないけど。
還暦を迎える女性が第二の人生を生きるために東京から地方に移住してくるのだが、そこで偶然34年前に棄ててきた息子と夫に再会するというお話を、彼女視点からすべてを描いていたなら面白い作品になったのかもしれないが、四方はそれを群像劇にしてしまった。
だいたいまず、舞台となる喫茶店から始まるのがまずい。そこに彼女がやって来るというよくあるパターンだ。お話を説明から始めるからお話に緊張感が生まれない。安心からスタートする。主人公はアウェイに置かれるお客さん状態。もちろんここではお客さんだが、この芝居においては主人公だし、彼女が何をどうするのかがお話の焦点となるはずではないか。60歳になる女がこれからの人生をいかに生きるかを問いかける作品のはず、と僕は思って見たから少しガッカリした。
結局ただのよくある人情劇で終わる。息子との和解は構わないけど、お話を盛りすぎてそこにはリアリティがない。偶然は再会だけでいい。後はリアルに展開して欲しい。いろんな事件はいらないから、しっかり彼女の生き方を見つめる芝居であって欲しかった。
別れた夫とやり直すのはいいけど、彼をいきなり死なせるのはNGだし、詐欺の芸能事務所のスカウトもいらない。彼女が役者を諦めスナックをしていたこと、知らなかった彼女の34年の人生を息子はどう受け止めてこれから先の人生に活かすか。偶然同じように役者を目指している彼が母の失敗を知り、自分の今と重ね合わせることから見えてくるもの。それを描くことが大事だと思う。それが結果的に彼女の今後の人生を描くことに繋がるといい。ストーリーばかり見て、人間を描けないのではつまらない。