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映画・演劇のレビュー

スケッチブックシアター☆プロジェクト『世界中アイスランド』

2019-02-15 18:22:30 | 演劇

 

劇団大阪に所属していた武藤さんが再び個人商店に舞い戻ってスケッチブックシアター☆プロジェクトとして放つ最新作。台本は伊地知克介に依頼した。伊地知さんの独自の世界観が前面に出る作品を、ちゃんと武藤色に染め上げる。お互いが遠慮するのではなく自分をちゃんと押し出しながら共同製作ならではの新鮮さでこのほのぼのとしたささやかなお話を形作る。

 

これはちょっとしたユートピア伝説。この島から出たくない男と、ここから出て行こうとする少女の旅立ちまでの物語。小さな島の郵便配達。バイクで手紙を届ける男は、外の世界からやってきた。彼は広い世界では生きていけない。でも、ここのように小さな世界の中でなら、自分の居場所を見つけられた。だから、ずっとここに居たいと願う。毎日顔の見える人たちに手紙を届けることで、自分の存在意義を感じられる。アイデンティティーを保つ。ここで生まれ育った少女は大学に合格してこの島を出て行く。優しい両親のいるここでの生活は好き。だけど、もっと広い世界を知りたい。このふたりが主人公だ。

 

いつまでも、この小さな幸せが続くわけでもない。再びここから出て行かなくてはならない日がやって来る。ぬくぬくとこの小さなコミュニティで暮らせたならいい。でも、世界は変わっていこうとしている。そんな世界と向き合わなくてはならない。少女のまっすぐな姿勢と彼の下を向いた姿が交錯する。そこに劇中劇として少女の書く漫画が挿入される。昔、世界中がアイスランドだった頃のお話である。そこでは2人のカップルの日々が描かれる。

 

作品があまりに一本調子で単調になりすぎたのが残念だ。それは台本の問題でもあろうが、もっと世界を立体的に見せる工夫があってもよかった。ふたつのふたりのお話がどうリンクしていくかも明確ではない。彼らの未来の提示が欲しい。古代人が見た夢が今の自分たちの生き方とどうつながり、関わるのか。そこから僕たちはどこに行こうとしているのかが見えてきたなら、この作品のメッセージはもっと心に沁みてくるはずだ。優しさだけでは芝居は成立しない。

 

 


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