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映画・演劇のレビュー

『運命のボタン』

2013-12-16 20:32:50 | 映画
 映画の原題は『THE BOX』と、とてもそっけない。でも、この日本語タイトルの方は、もっと味気ない。どちらもそのまんま。ある箱の話で、そこにはボタンが入っている。そのボタンを押すと、運命が変わる。ミステリーなのか、と思い見始めるのだが、話は意外な方向へとスライドしていく。啞然とするけど、それでも惹きつけられる。リチャード・マシスンの短編小説『死を招くボタン・ゲーム』(原題は『 Button, Button』で、これもなんだか、です)が、原作ということらしい。このタイトルのほうが、それらしいけど、でも、なんか、それも単純すぎて、この映画の内容を的確に指し示さない。

 『ドニー・ダーコ』の監督リチャード・ケリーの作品だ。それだけでレンタルしてきた。というか、劇場公開時、も気になっていた。彼の描く作品世界が好きだ。今回も「いかにも、」って感じ。最初はリアルな話だった。そのはずが、いつの間にか、とんでもない方向へ向かい、でもシュールな話ではなく、基本は理屈で攻めてくる。でも、設定自体がほとんどSFファンタジーなんですけど、って感じだ。

 そのボタンを押すと人が死ぬ。見知らぬ人がどこかで死ぬのだから、自分のせいではない、と逃げることもできる。しかも、それだけで100万ドルもの大金を手にすることができる。さぁ、どうする。

 サスペンス映画か、と思う。押すべきか、辞めるべきか。でも、主人公のキャメロン・ディアスが、結構簡単にボタンを押す。えっ! いいの、それで。いや、話はそこではなかったのだ。ここから始まる。

 時代設定は1976年。こういう設定にわざわざしなくても、いいじゃないか、と最初は思う。(だって、それだけで美術とか衣装とか小道具も含めてそれだけで、映画製作は大変になるからだ)だが、この設定が実はとても大事な部分になる。アポロが月に降り立ち、次は火星に、と夢が膨らんでいた時代。でも、僕たちは分かっている。この後、宇宙開発は思ったようには進展しない。アーサー・C・クラークの『2001年宇宙の旅』を視野に入れている。そうくるか、と思う。SFなんだ、実は。でもね、必ずしもそうではないけど。

 このとんでもない映画の帰着点が、途中から繰り広げたスケールのわりに、あまりにちまちましている。そこですか、と思う。自分がしたことの責任は自分で負うしかない。そんなレベルでいいのか? でも、そこなので、仕方ない。そのことを、かなり切実に描いてくれるのだけど(『ソフィーの選択』レベルの選択を迫られる!)でも、背景にあるのは、人類の存亡なんですけど。

 こんなことで、いいのか、と思う。面白い映画だし、先が読めない(読まさない!)展開にはドキドキさせられた。だが、大きな話と、小さな話の折り合いが悪すぎ。どちらも大事なことなので、どちらかを描け、とは言わないけど、そのふたつを同居させることに問題があるような気がするけど、どうなのか。アンバランスで、問題点や突っ込みどころは満載の映画である。でも、僕は好きだ。いろんなところに張り巡らされた伏線もよく出来ているし、それがちゃんと緊張感を持続させるのもいい。

 思いがけない映画で、たまに見逃していた映画の中で、こういう新鮮で不思議な発見があると、なんだかうれしい。得した気分だ。要するに、いろいろあるけど、この映画は面白いということだ。

 この映画と同時にレンタルしてきた、マニアの間でそこそこ評判になったホラー映画『REC』は、僕にはだまされたとしか、言いようのない駄作だっただけに、この映画の健闘は嬉しい。


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