ぽちごや

FC東京のディケイドSOCIOです。今シーズンは丹羽ちゃんとともに闘います。

2016ACLラウンド162ndレグ上海上港vsFC東京@上海体育場20160524

2016-05-28 15:47:44 | FC東京

すっきり晴れる日が少なくなって、そろそろ梅雨っぽくなってきました。

オリンピックイヤーといえば東京のACL出場。4年ぶりの舞台に臨む東京は、間によっちと宏介とミステルが駆け抜けて、すっかり様変わりしました。正直に言うと、今年のACL出場権の獲得経緯が他力本願的なものだったし、第二次ヒロシ東京初年度ということもあって、それほど期待してませんでした。2013~15年の豪華布陣を経験していますから、タラればな気持ちもありますし。

なので、東京はよくやったと思います。この編成でグループステージ突破は立派だと思います。でも、ここまで来たらもっと上を観たかったのも、矛盾するようですけど一方の正直な気持ちです。だから、今日の試合はテレビ観戦すらできなかったけど、結果を知ってから立ち直るのに二日かかりました。ショックでした。

この振り返りは自分のための行です。記録しないと前に進めない気がするから。終了間際、アディショナルタイムに入ってすぐの失点で、トータル2-2。アウェイゴールルールでラウンド16敗退です。

東京は1stレグとまったく同じ布陣です。シフトは4-3-2-1。GKは秋元。CBはモリゲとカズ。SBは拳人と徳永。3CHは右から羽生、秀人、ヨネ。WGは右に宏太左に慶悟。1トップは遼一です。

上海上港は布陣をほんのわずかにアジャストです。新しくキャプテンが入っているので、もしかしたら、ギャンの不在を除くとこれがベストメンバーなのかもしれません。シフトは1stと同じく4-2-1-3。GKはイエン・ジュンリン。CBはキム・ジュヨンとシー・クー。SBは今日はワン・シェンチャオが右で左にキャプテンのスン・シアン。ボランチはツァイ・フイカンとユー・ハイ。トップ下はダリオ・コンカ。WGは左右入れ替わり、右にルー・ウェンジュン左にウー・レイ。1トップはエウケソンです。

内容に関して1stとの違いは、東京が攻撃権を持つ時間がとても少なかったことです。1stでは、ボランチとCBの間のバイタルエリアにWGがダイアゴナルに入ることで一次基点を作ることができていました。上港の守備陣はポジション移動に対するケア、とくにアジリティに難があるのかなと思っていました。布陣にほとんど変更がないので、この傾向は2ndも続くだろうと予想していました。

今日の試合の内容を形作ったのは、まずこの予想が外れたことです。試合を通じて東京が満足な攻撃のかたちを作れたのは、ホントに数えるほどでした。これは高い位置での一次基点作りができていなかったことが原因です。ラウンド16の東京の攻撃パターンはサイドアタックで、とくに左右のSBが積極的にフィニッシュに絡むことを志向しています。高い位置で基点が作れないので、SBを引っ張り上げることができません。ゆえに攻撃はアタッカー陣の単発に限られます。1stではパスをつないだ、本来のヒロシ東京が目指すポゼッションスタイルを見せられていたのですけど、今日はほぼ完全に鳴りを潜めました。

この要因は上港の守備にあるのかなと思ったのですけど、そうではありません。布陣のアジャストは守備的な選手なのですけど、守備のやり方が変わったわけではありません。むしろ攻撃のやり方を変えたことのほうが影響度が高いと思います。上港の攻撃プランの変更は、布陣に一部垣間見られます。ウーとルーを左右入れ替えたことです。この二人はキャラクターが異なり、それが上港の攻撃に特長を生み出していると思います。どちらかというとルーがチャンスメーカーでウーがフィニッシャーアタッカーです。なので、ウーを左に持っていったということは、右で作って左で仕掛けるサイドアタックを志向することは、この時点で分かります。

でもこれだけだと、左右入れ替わっただけで1stと大きな違いはありません。変更の理由をあえて探すと、徳永の密着マークをウーが嫌ったと見ることもできると思います。でも必ずしもそうとは限らないと思います。むしろ、東京対策でアジャストしたというよりかは、スンの復帰が契機で自然な流れで左右入れ替えただけのような気がします。なので、どちらかというと1stのほうがイレギュラーだったのかもしれません。考えてみれば東京の左サイドを狙うことは洋の東西を問わず常套ですから、上港にとっては徳永が左に回ってきたことがびっくりだったかもしれません。

というわけで、上港の攻撃プラン変更のポイントはWGだけではありません。むしろ他の三つのアジャストが、この試合をかたち作るのに大きな影響をもたらします。ひとつは大エースコンカの役割です。1stのコンカは中盤を広範囲に動き、チャンスメーカーを担っていました。プレーエリアの重心は比較的低かったと思います。あまりペナルティエリア内にいた印象がなく、バイタルエリアから後ろ、ときにはボランチよりも後ろに来るほど、中盤に頻繁に顔を出していたと思います。ビルドアップも、ほとんどがコンカを経由し、後方からの最初の預け処となっていました。コンカがすごいのは、中盤の低い位置にいたとしても、そこから前線に有効なパスを供給できることです。これはパススピードと精度が高くないとできないプレーです。よほど筋量があってかつ体幹も安定しているのでしょう。ただし、サッカーはあくまでもチームスポーツですし、相対的な営みです。中盤でプレーするコンカの有効性は、東京守備網を崩せてこそ初めて評価できるものです。確かにコンカを含めて、ルーとウーの特長を活かした1ゴールを生み出せましたけど、結果的には負けたので、コンカ大作戦は対東京に向けては評価に値しなかったということなのかもしれません。

コンカはテレビ画面にほとんど映りません。今日のコンカはエウケソンと並ぶほど最前線にはります。シフトで表現すると4-2-3-1、あるいは4-4-2でもいいかもしれません。1stの東京はマンマーク気味の守りかたが機能していました。とくにエウケソンをほぼ機能不全にすることができていて、故に上港の攻撃がウーのアタックに偏重していたと思います。今日、コンカをエウケソンと並べることで、東京のマッチアップの様相を、上港が主体的に変えることに成功します。コンカはモリゲ、エウケソンはカズにつきます。これはおそらく意図した並びだと思います。2トップとCBのマッチアップを鮮明にすることで、エウケソン対策でもっとも機能していた秀人をエウケソンからはがします。これでエウケソンが基点としてプレーできるようになります。

コンカに変わって一次基点を担うのが、右から中に入ってくるルーです。ここにも工夫があります。二つ目のポイントはワンです。上港のSBはどちらかというと右が攻撃過重で左がバランサーのようです。左にスンが戻ったことで、バランスの安定性が増したことが前提としてあるのでしょう。ワンは、とても積極的に高い位置をとります。この辺りは、東京のSBがラインに押し込められていたことと対比して、今日の内容を象徴するようで興味深いです。ルーが中に入るのと同時にワンが右サイドのアタックゾーンに入ります。これで、3+2の攻撃陣形が作られます。

さらには、序盤はバランスを重視していたスンが、時間の経過とともに高く位置取るようになってきます。おそらくポゼッションの状況が安定したときのかたちなのでしょう。この場合、上港が志向する攻撃のベストプランを垣間見ることができると思います。上港のおもしろさは、アタッカー4人のコンビネーションです。アタッキングサードの中央付近に、前に二人後ろに二人の四角形を作ります。ポジションはとくに決まってなく、ウーとルーが前、コンカとエウケソンが後ろの場合もあります。サイドには高く位置取るSBが入ります。レーシングカーのフロントを真上から見た時のダブルウィッシュボーンサスペンションのような構造になります。中央後ろに位置する二人が要となり、守備側の状況を見て、縦もしくはサイドにパスを供給する作戦だと思います。とくにボールを持てるコンカとエウケソンが後ろに入ると効果的で、守備陣の意識をボールホルダーに向けることができます。

上港のウィッシュボーンシステムを有効足らしめるのは、静と動のコラボです。上港の三つ目のアジャストは、ボランチのユーの役割です。ユーはFW登録なのですけど、その理由がわかりました。攻撃権を持つと、ユーは前線に顔を出します。前線どころか、場合によってはエウケソンと並びます。広貴投入前後の時間帯は、ユーはほぼ最前線にはりついていて、中盤はツァイをアンカーにコンカとルーの三人で担っていました。パワープレー時のパターンなのだと思います。このユーの動きは、秀人と羽生をひきつけます。このことは、中央のボックスに局面的な1on1の状況や、守備陣のバランスが崩れることによるスペースギャップを誘引する要因となっていたと思います。

結果的には、この三つのアジャストが奏功してウーのゴールが生まれますから、上港のコンビネーションが東京のゾーンを最終的に上回ったと言えると思います。試合の趨勢はここにあったと思います。そしてこのかたちは上港が主体的に作り上げたものですので、結果の妥当性はさることながら、作戦面でも東京は後手に回りました。もしかすると、1stのアドバンテージが綾になったのかもしれません。

長々と上港のアジャストを見てきましたけど、ようするにこれらの作戦がはまって、上港が攻撃権を持つ時間が1stに比べて格段に長くなります。ポゼッションするとラインを高く上げて陣形をコンパクトにしますので、中盤でのイーブンボールの競り合いでも優位に立てますし、仮に前線でターンオーバーがあっても、中盤ですぐにトランジション返しができます。これが連鎖し、東京の中盤から後ろの選手に守備バランスを意識させることになり、結果的に攻撃を単発にさせることにつながります。1stではエリクソンさんのマジックをまったく感じられず、そんなもんかと思っていたのですけど、ちょっとしたアジャストで見事に上港を様変わりさせました。ユーロで実績のある監督は、やっぱり凄いのかもしれませんね。

というわけで、東京の攻撃はほぼ機能不全となります。可能性があったのは、セットプレーからの流れで慶悟が抜け出した一回、徳永と拳人の攻撃参加からでそれぞれ一回、それから羽生から遼一への絶妙スルーで一回、その四回くらいだったと思います。もっと攻めよという意見が、試合中もジャーナリストさんなどからありましたけど、それにはプロセスが必要です。おそらく現場の感覚では、中盤を上港に支配されていては、とても攻撃に重きをおく感覚にはなれなかったんじゃないかと思います。

さて、われらがヒロシ。ヒロシの作戦には大きな意味で矛盾があったと思います。これも流れなので致し方ないですけど。それは布陣の考え方です。ヒロシが今日のスターターを1stとまったく同じにした背景にはセオリーがあると思います。勝っている時は布陣を弄らないということです。自分はそこにも疑問があるのですけど、それよりももっと不思議だったのは、最後のヒロシの選択です。最終盤にまるを投入しシフトを5バックに変えたことは、このセオリーに反します。もしかすると、よく言われる勝っている時は布陣を弄るなという格言は、試合の当初プランではなく、ギリギリの最終局面のことを言っているのかもしれません。今日の試合を観て、そんな気がしました。

ぼくら素人はタラればで酒を飲むのが大好きで、そのために生きているようなものですけど、この試合で一番おいしいタラればは、なんと言ってもあの5バックでしょう。みなさんはどう感じられましたか?。あのシーンだけで2時間はいけるでしょう。飲む酒のチョイスで捉え方が違うかもしれません。自分は熱燗。

推測すると、伏線は広貴投入の時にあると思います。前述しましたけど、その前辺りから上港はユーを最前線に上げてパワープレーに出ていました。広貴投入自体はタイミングを含め、慶悟のコンディションを考慮した既定路線だったと思います。その前に拓馬を入れて、前線に預け処が増え、多少基点ができるようになっていました。一方慶悟は前半から守備に忙殺され、後半は次第に存在感を消していました。広貴は前線と絡めて基点になることを期待したのでしょう。つまり、ヒロシの狙いはイニシアチブを取り戻すこと。

ところがエリクソンさんがパワープレーを選択したことで、東京の意識が大局を変えることよりも、守備の局面に傾倒します。したのだと思います。テレビ画面からの客観的な見た目はそれほどでもなく、ユーが前線に固定的に絡むことで、むしろコンカ、エウケソン、ルー、ウーのボックスのコラボレーションに妙味を失わせているように感じました。つまり単純なクロスからの攻撃に偏ったような気がします。モリゲもカズも中央で落ち着いていたし、拳人と徳永もサイドの1on1を耐えていました。とくに拳人は対峙するのがウーですから大変だったと思いますけど、マッチアップのリズムをつかんでいたと思います。なので、4+3で十分安定していたように見えました。

でも、現場の感覚はまったく違っていたのでしょう。マッチアップをより明確にして、少しのほころびも起こさない細心の注意を必要と感じたのだと思います。まるをリベロに置いて、モリゲにエウケソン、カズにユー、徳永にルー、拳人にウーをそれぞれマークさせようとしたのでしょう。

ところがここでさらなる誤算が起きます。もしエリクソンさんが意図してやったのなら、すごいの一言です。ユーを定位置に下げ、ふたたびウィッシュボーンシステムに戻します。さらにルーをリー・ハオウェンに代えて、より攻撃姿勢を鮮明にします。そして、悲劇的結末へのエンディングシナリオが始まります。

ぼくらは何度も何度も、最終盤にシフトを守備的に変えるリスクを見てきました。主因はマッチアップのバランスが崩れることです。もしも上港がパワープレーを維持していたら、アジャストに苦労はそれほど無かったかもしれません。でも上港がウィッシュボーンシステムに回帰したことで、ふたたびゾーンディフェンスを強いられます。耐えに耐え、絶妙にバランシングしていた守備網が、一瞬方向性を見失ったんじゃないかと思います。

でもこれは、無理もないことだと思います。結果論ですし。勝敗は時の綾ですから。なので、結果を問う必要は無いと思います。たとえば失点シーンはたしかに拳人のミスなのですけど、ミスを誘引したのはマンマークの指示があったからかもしれないし、コレクティブなプレッシングをし難いと言われる5バックが影響したかもしれません。もっと言うと、拳人がSBに入ってなければもっとはやく失点したかもしれません。5バックにしなくても負けていたかもしれませんし。ようするにこれらはすべて、居酒屋トークの域を越えないことですし、結果自体を問うのは、その性格上あり得ません。

それよりもむしろ、ぼくら素人よりも遥かに豊富なサッカー知識と経験があるプロが、なぜあの局面でシフトを変える選択をしたのか、その心理と論理に興味があります。オルタネイティブな他の選択肢もあり得たし、もしかしたら現場も迷ったんじゃないかと思います。そこにこそ、自分が常に意識している人間の営みとしてのサッカーの真理があるような気がします。

というわけで、悲劇の時が訪れます。

後半アディショナルタイム。3分の掲示があってすぐ。拳人の自陣深くからのクリアが中途半端で、インプレーが続きます。最終盤の時間帯に、東京が5バックにしたことが裏目に出て上港が波状攻撃を仕掛ける状況になっていたので、しっかり上港の攻撃リズムを切っておきたかったところです。ただし、東京はゴール前で守備網を中央に絞り、とてもコンパクトにしてスペースを消しています。上港はCB間でパスを交換しチャンスを伺いますけど、入れ処がありません。業を煮やしたようにシーがゴール前に放り込みます。これはユーと競ったカズがクリア。このボールがやや下がり目にいたエウケソンの前に落ちます。ヨネが寄せますけど、ツァイをスクリーンに使ってエウケソンが右足でシュート。これは秋元が弾きます。このシュートの前にまるがトラップをかけるべくラインを上げようとしますけど、リーのマークを意識していた拳人が残ります。このため、ゴール正面のウーがフリーで抜け出すかたちになります。秋元が弾いたボールをウーが押し込みました。上港1-0東京。

東京の2016ACLの冒険はこれで突然の終幕を迎えました。あと一歩が及ばなかった幕切れをもって、Jリーグと中国の実力差を象徴するという考えは、サッカーらしいと言えますけどナンセンスだと思います。結果は、おそらく運と作戦の綾でしょうから。ラウンド8に行っていても全然おかしく思えない二試合の内容でした。1stは明らかにヒロシの作戦が上回っていましたから、今日のエリクソンさんの巧みな采配をもって、おあいこ。

これまでは海外クラブとの対戦はスーパースターの格の違いを見せつけられていたような気がしますけど、作戦で勝敗を分ける程度にJのレベルが上がっているんだなとなんとなく思いました。4年間って時間は、日々ぼんやり過ごしているとわからないけど、案外中身が濃いもんなんだなーって思いました。今日はとても悔しかったけど、また次ACLに出たときに、もっと進化した東京を観られるかなとポジティブに切り替えたいと思います。次は東京オリンピックイヤー??。