この世をば加賀世とぞおもふ推し月の欠けたることもなしとおもへば
今年もやってまいりました。加賀さん生誕祭でございます。
第一週の相手は、生誕祭開幕にふさわしく、ぶっちぎり首位の柏です。二位以下はおだんご状態ですから、チームをいきおい付かせるためにも大事な一戦です。
直接観戦している試合で加賀さんが傷むシーンを目撃することは、とても心臓に悪いものですね。平静ではいられなくなります。最初によぎるのは、過去のイメージからやっぱり足です。今回は指のようですけど、加賀さん自信もまだまだ全然全開じゃないなか、徐々にコンディションを上げようとしているところでしょうし、なによりチームが自動昇格権に向けて大切な時期ですから、プレーへの影響がないことを願います。
そんなこともあり、指を傷めて以降はどことなくコンサバティブにプレーしている雰囲気があってかならずしも本調子ではなかったと思います。それにしても、今日は攻撃陣が好調だったので、加賀さんのプレー機会は、柏相手に意外だけど、顕著なシーンはほとんどありませんでした。もっともDFとしては、そういう試合こそベストかもしれませんね。
というわけで、攻撃に絡む機会はほぼ無し。守備機会をみてみます。前半は柏が1トップでしたので、数的優位から加賀さんのクリティカルプレーはほとんど無し。後半からサントスと1on1でマッチアップする機会が増え、件の怪我をはじめ、対応が忙しくなります。加賀さん自身が失点に直接関わることはなかったけど、右サイドで二失点ですから、右サイドチームとして課題が残りましたね。
一失点目は、クリスティアーノのトリックプレーがスーペルですから、どうしようもありません。二失点目は、サヴィオに対するやっちのコース切りが甘かったです。おそらくクリスティアーノと両方意識してたのでしょうけど、クリスティアーノには加賀さんがついていたので、お互いのマーキングをはっきりすべきでした。それから、再三バイタルスペースをドリブルもしくはタベーラで狙われていたにも関わらず対処できなかったことも課題だと思います。三失点目は、やはりサントスがバイタルエリアを狙ったドリブルのコース取りがきっかけですけど、これはただただクリスティアーノのスーペルゴラッソ。
これからの勝負処に向けて、チームが攻撃オプションを増やそうと取り組んでいくのだと思いますから、右サイドチームもいつまでも守備優先というわけにはいきません。加賀さんが攻撃に関わる比重が増えることになるでしょうし、逆に加賀さんの主戦である、広大なスペースケアが必要になってくるでしょう。そのためにも、とりもなおさず今日の怪我が大事ないことを祈りますし、万全なコンディションを維持してもらいたいと思います。
さて、再会戦だったヴェルディ戦は、ただただ加賀さんだけを観る贅沢な時間を過ごしたけど、今日は試合自体が楽しみなので、普通に観戦します。サマリーとしては、ストックを使いきってもお釣りがあり、予想外の点の取り合いを逃げ切りました。
モンテは上位直接対決を分けた前節のオーダーに、山岸が加入後初スターターとして加わります。GKは櫛引。3CBは右から加賀さん、栗山、熊本。WBは右にやっち左に拓己。CMは本拓と駿。2シャドウは右に坂元左に山岸。1トップは大槻です。
柏はオルンガが代表で不在。ブラジリアンで補うスクランブルオーダーです。シフトは4-2-3-1。GKは航輔。CBは次郎と染谷。SBは右に瀬川左に古賀。CMは大谷とヒシャルジソン。WGは右にクリスティアーノ左にマテウス・サヴィオ。トップ下は江坂。1トップはジュニオール・サントスです。
モンテの試合前のプランが先行逃げ切りだったのかはわかりません。でも結果的に、モンテの仕掛けによって先行逃げ切りが成立します。と同時に、柏の目利きの甘さがモンテに大きな貯金を許すことになります。
まず柏は、攻撃力を落とさない選択をし、オリジナルの攻撃に偏った布陣をしきます。ネルシーニョ柏伝統のサイドアタックです。右はクリスティアーノと瀬川、左はサヴィオと古賀。とくに右サイドは、わざわざ変態なまでに攻撃特性なコンビで臨みます。当然のことながら、ワイドに速く、かつ多重のアタックを繰り返し繰り出すことで、山形を守勢に回らせる意図です。つまりむしろ柏こそ、先行逃げ切りを狙っていたのでしょう。
モンテは周知のとおり、加賀さん復帰以降四試合連続クリーンシートを継続中で、二勝二分の無敗。一方得点は平均1点/試合で、スコアレスも二試合。いうまでもなく守備加重の状態ですから、ネルシーニョさんがキックオフからカチコミを狙ったのは当然です。ところが木山さんは、加賀さん生誕祭をターゲットにしていたのか、今日を逆襲の機会ととらえていたようです。むしろ柏のストロングの向こう側に存在するウィークポイントを狙います。柏の勇猛果敢な両サイド布陣は、自信なのか過信なのか、攻めていさえすれば安定するという思想です。攻め過重になるばかりに、攻撃的なサイドのウィークポイントであるSBの背後だけでなく、そのインサイド、つまりSBとCMとCBの間のトライアングルに安易なスペースを作ってしまいます。これが通常の布陣であれば、コンビネーションの高さからフォローができるのだと思いますけど、いかんせん急造ですからバランスが保てません。
モンテはおそらく、スカウティングで最初からそこを柏の狙い処と定めていたのでしょう。バイタルエリアに大槻もしくはシャドウを入れて基点とし、サイドに縦にはやい仕掛けをほどこします。のみならず、左右シンメトリーにクイックアタックを繰り出すことで、柏に対処の方向を定める余裕を与えません。それでもなお、柏は愚直に攻め手を保とうとしますから、サンドバッグ状態に陥っていきます。
モンテ攻撃陣の逆襲を支えるのは、堅実な守備です。柏は、攻撃特性を活かそうとするわりに、おさめ処に難儀するほどに攻撃のバランスが整いません。これはもちろん、四戦クリーンシートを支える、モンテの強力なディシプリンが成せる技にほかなりません。下支えするのは3トップの献身的なファーストディフェンスです。ネガティヴトランジションの局面で、守備態勢にすぐに切り替えることができているので、柏に有効な攻撃開始を許しません。そして、加賀さんをはじめとする、栗山、熊本の3CBのコンビネーションです。柏が1トップというミスマッチもあるにせよ、多重防御網が柏の強力アタッカーの進撃を拒みます。
もちろん、モンテの作戦を好結果に結びつけたのはゴールです。10分に駿の右FKからの山岸の先制弾にはじまり、20分に同じようなシチュエーションでの大槻の追加点と、立て続けに得点できたことで、逆襲へのたしかな自信を得たと思います。前半はリードしたまま終了。
勝負師、ミスタービトーリアのネルシーニョさんがこのままで終わらせるはずがないなと思っていた注目の後半のアジャストは、案外と実にシンプルでした。シフトをスクウェア型の4-4-2に変更。クリスティアーノと江坂のポジションを入れ替えます。ところが、たったこれだけで柏が激変します。ネルシーニョさんの抽斗はどうなってるのでしょうか。あらかじめプランをいくつか用意しているのでしょうね。
素人目には、柏の問題は守備にあると思ってました。でもネルシーニョさんの狙いは攻守両面です。キーマンは江坂。江坂を一枚下げることで、中盤に目標ができ、右サイドに攻撃ルートが確保されます。さらに守備時に4+4の2ラインを形成できますから、山形にさんざ狙われていたバイタルエリアをクローズできます。さらに柏は、トップを二枚にすることで最前線の納め処を増やします。だけでなく、クリスティアーノを中央寄りに置くことで、江坂による右サイドのみならず左サイドの活性化にも成功します。つまり、サントスを加賀さんにマッチアップさせることで、サヴィオを引っ張り上げることに成功します。おそらくネルシーニョさんのホントの意図はこっちでしょう。前半も、サヴィオのスピードだけはモンテに通用していましたから。
この柏のアジャストが二つの事件を誘因します。ひとつ目は49分に起こります。瀬川のクロスからのこぼれ球をクリスティアーノが右足ソールで押し込みます。柏の追撃がはじまりました。短時間のうちに、あっという間にチームをリビルドし、追撃態勢を整えてしまうのですから、やっぱりネルシーニョさんは策士ですし、リスペクトすべき素晴らしい監督ですね。
ここからは、ネルシーニョ柏が繰り出すマジックを木山さんがどう受け止めるのかが試合の鍵となります。そしておそらく、木山さんのチョイスが逃げ切りを果たした主要因だろうと思います。モンテは、最恐柏に対しガチンコのオープンファイトを挑みます。柏が激変したとはいえ、基本的なチーム資質が変わるわけではありません。なので木山さんは、サイドに依然ウィークポイントが残るとみて、まだまだストックを増やす余力があると踏んだのでしょう。そして読みが当たります。58分。拓己の折り返しを受けた駿が、山岸とのタベーラのいきおいのままに一気にシュートまで持ち込みます。実質、このゴラッソが勝敗を分けました。
ところが、直後に二つ目の事件が起こります。加賀さんがサントスとハードにコンタクトして倒れたときに、着地で左手の指を傷めます。後半の加賀さんはバックスタンド側でプレーしていたので遠目だったのですけど、倒れた直後、痛そうに足をばたつかせていて、しかもあたまを抱えているように見えたので凍りつきました。テーピングをして試合に復帰しましたけど、以降は、正直心配で心配でなりませんでした。メインスタンドからは表情まではわからなかったのですけど、ときおり手を気にしていたので、間違いなく痛みを感じながらのプレーだったと思います。試合のなかで最重要な局面に入ったところでしたから、加賀さんもチームの流れを変えたくなかったのだと思います。直前に秀仁が準備していたこともあり、加賀さんが下がると手札が一枚減ってしまいますから。結果的には、以降加賀さんサイドから二失点することになるのですけど、逃げ切りに成功しますから、加賀さんの献身が報われたと思います。
ここから両ベンチがあわただしくなります。先に木山さんが動きます。山岸に代えて秀仁を同じく左シャドウに投入します。これを受け、ネルシーニョさんが動きます。大谷に代えて祐介を同じくCMに投入します。ただし大谷が担っていた役割はヒシャルジソンに変わります。この両監督の作戦の成否を確認する前に、坂元の超低空直接FKゴラッソが決まります。このゴールが決勝点になりました。
ただ、ここからオープンファイトの代償を払うためにストックを切り崩す時間になります。73分。左サイドでのクリスティアーノとのタベーラから、サヴィオがゴール。続けざまに76分。サントスがドリブルで作ったチャンスを受けたクリスティアーノが、豪快なスーペルゴラッソミドルをたたきこみます。
ストックが尽きかけてきたことを受け、木山さんが動きます。大槻に代えてバイアーノを同じくトップに投入します。ここでついにモードチェンジです。考えてみればモンテは、超攻撃プランを加えることでダブルスタンダードを手にいれることになりました。一枚で体をはれるバイアーノに最前線を任せ、5+4の堅陣を敷くクローズドモードに移行します。ベースロードとして高い守備力を持つチームならではのポジティブな二枚舌。
モンテベンチの動きをみたネルシーニョさんがすぐに反応します。染谷に代えて山下を同じくCBに投入し、バイアーノを軸としたカウンター対策として備えます。ただ柏は、押せ押せの状態にすべきときに守備のカードをチョイスするわけですから、攻撃の機運に確実に影響しました。ネルシーニョさんが堅実を好むがゆえの落とし穴、なのかもしれませんね。と同時に、ネルシーニョさんをしてカオスよりリスクヘッジを選ばせた木山さんの仕掛けが奏功したともいえます。そして木山さんが〆ます。坂元に代えて古部を同じく左シャドウに投入します。守備網の強度を整え、柏のカオスを封じました。逃げ切り成功。柏3-4モンテ。
木山モンテの予想外なリスクテイク大作戦が、残暑の日立台に極上のエンターテイメントを呼び寄せました。サッカーを観る機会はそれなりに多いけど、これほどの好マッチはそうそうお目にかかれません。もしかするとモンテにとっても、今日の試合を観ずして今シーズンを語ることはできないと言えるほどではないかと思います。終盤戦にむけて、確実に勢いをつけてくれることでしょう。
ファンゆえに左手の怪我の状態が最優先で気になります。でもそれだけだと前進にはなりません。良きにつれ悪きにつれ、結果に光明が宿ります。クリーンシートでは見えなかった、自動昇格権に向けたチーム強化の課題を実感できたと思います。加賀さんにとって、右サイドをモンテのキーポジションとすべく、プランが芽吹く試合になったらいいなと思います。そしてやはり、まだあの輝ける躍動感が戻っていませんから、一歩ずつでいいので、ベストパフォーマンスができるコンディションをつくっていってほしいと思います。