優柔不断な台風がウロチョロしてるせいか、8月のおわりは天候不順な東京です。子どもたちは宿題ができるから良いのかしら。
雨の東京を抜け出して、名古屋です。
名古屋はサッカー観るだけと思っていたのですけど、ドラゴンズvsカープのチケットがまだ売ってたので、日曜日にハシゴしました。
名古屋に事件です。もはや東京戦前の監督交代は恒例行事ですから事件というほどでもないかも。小倉監督が解任されました。今節からコーチのジュロヴスキーさんが指揮を取られます。新生ジュロヴスキー名古屋の様変わりを観る楽しみが加わりました。小倉名古屋は吹スタオープニングマッチ以来見ていないので問題点を把握していませんけど、チーム内のイザコザは聞こえてこなかったので、選手の責任感と闘いかたの工夫にポイントがあると思いました。本日のYou'll Never Walk Alone♪。
名古屋が徐々に気迫と集中を高まらせて築いた堅城に手を焼きましたけど、翔哉の起死回生のゴラッソで勝ち点を分け合いました。
東京は前節と同じ現時点のベストメンバーです。シフトは4-2-3-1。GKは秋元。CBはモリゲとまる。SBは室屋と徳永。ボランチは秀人と草民。WGは右に広貴左にムリキちゃん。トップ下は慶悟。1トップは遼一です。
注目の名古屋は、布陣はそれほどドラスティックな変更はありません。シフトは最近4-4-2だったようですけど、シモビッチが離脱したこともあって、今日は4-1-4-1です。GKは楢崎。今日のCBは竹内と酒井。SBは右に今日は磯村左はミチ。アンカーはイ・スンヒ。IHは右に佳純左に田口。WGは右に堅碁左に永井。今日の1トップは龍之介です。
前述の通り、小倉名古屋をまったくフォローしてなかったのでギャップはわかりません。なのでジュロヴスキーさんのサッカーの特長を探ってみます。といっても、スクランブルな試合ですから、本来のジュロヴスキーさんのサッカーを見られるとは限りませんけど。ただ、なんとなくテイストのようなものはわかりました。名古屋は今日の試合のなかで、一気に成熟した感があります。約束事の確認はトレーニングのなかでやってきたのでしょうけど、実戦はまた別。まず、実戦の場で名古屋がコンペティティブなレベルまで今日のプランを成立させたことが素晴らしいと思います。
精神論は嫌いなのですけど、今日の名古屋には責任感を強く感じました。誰にはばかるのかわからないけど、体制を変えることになった要因の一端は確実に選手にありますから、その決定を今度こそ実のあるものにすべきという意欲でしょう。メディアは今ごろ小倉体制を批判していますけど、少なくとも現場はそんなことにはおかないなく、目の前の試合を全力で勝つことしか考えてなかったと信じます。それほどのオーラを名古屋の選手全員から感じました。
ジュロヴスキーさんはピクシー体制で守備を担当されていたとのことですので、てっきりゾーンを固め易いシフトを取るのかなと思ったら、そうではなかったですね。いうなれば、攻守のモードを切り替え易いかたちといいますか。新生名古屋の目指すサッカーにはそんなビジョンが内在すると思います。シフトはともかく、名古屋はやっぱり超守備重視です。ひとつには極端な低重心です。もうひとつは5人並ぶ中盤の分厚さです。最大の特長は、中盤だと思います。
名古屋が引きますので、試合の様相は自ずと東京が攻め名古屋が守るかたちになります。つまり、東京が名古屋の守備網を時間内に攻略できるか否かが勝敗を分けると言ってもいいでしょう。守備的なチームに往々にしてあることですけど、序盤の名古屋は、中盤のコンタクトがそれほどタイトではなく、東京がアタッキングサードを良いかたちで使えていました。結果的には、序盤のカオスを乗り切った名古屋が徐々にイニシアチブを握っていきます。
象徴化すると、ジュロヴスキー名古屋はIHの位置で攻守のモード切り替えをします。守備の第一防波堤は中盤のサイドです。3センターですから相手にもっとも狙われ易い場所でもあります。守備を重視する場合の名古屋は、アンカーの脇のバイタルエリアで、アンカー、IH、WGの三人が網を絞るようにして相手の進撃を阻むとともに、トランジションポイントとしているのだと思います。ただし、守りかたは選手の距離感とタイミングが整う必要があります。序盤の名古屋の中盤がむしろルーズに見えたのは、守備のバランスが整ってなかった故だと思います。
東京は、名古屋の堅城を崩すためにあの手この手を繰り出します。まず狙ったのは、名古屋のウィークポイントの一つ、SBです。とくに、今日スターターに入ったばかりの磯村をターゲットにします。ムリキちゃんをサイドにはらせます。中盤でチャンスメークしてムリキちゃんと磯村の1on1状態を作り出す意図だと思います。何度かペナルティエリアに迫りますけど、最終局面での名古屋の守備網が堅く、なかなかそこから先に効果的に入ることができません。
なので前節と同じアジャストを試みます。ムリキちゃんと慶悟を入れ替えます。これで中央で基点ができるようになりますけど、前節と違って名古屋がリトリートしますので、縦への推進力が生まれません。せっかく基点ができてもスペースがないので、結局核心部に入れないことには変わりありません。
そこで次は右を使います。広貴が中央の組み立てに絡み、空いたスペースを室屋に狙わせます。室屋を高くはらせ、いつでもアタッキングサードに飛び込ませる準備をします。ただし室屋に預けるというよりかは、可能な限り効果的なかたちで室屋に渡せる状態を作ろうとします。なので東京は、左を伺いながらこのタイミングをはかります。でもこの辺りですでに名古屋の守備のコンビネーションが整いはじめていました。東京のあの手この手が良いスパーリングになったのかもしれません。結局室屋も活かすことができません。そうして東京の攻撃は名古屋に見切られる範囲におさまっていきます。
ジュロヴスキーさんの作戦はここまでだと思っていました。実際、守備のリズムをつかむまでの名古屋は、ロングボールを左右に散らして堅碁と永井を走らせるくらいしかできていませんでしたから。それでも堅碁と永井には一発がありますので、十分な脅威になり得ると思いました。
でもジュロヴスキーさんは先を見据えた作戦を練っていました。名古屋は単調なロングカウンターのチームではありません。ポイントは、ですからIHです。名古屋のストロングポイントが堅碁と永井、つまり類い稀なスプリンターであることは周知です。龍之介を使ったのも同様の理由だと思いますから、一面にはその通りだったのだと思います。ただ室屋と徳永の落ち着いた対処を見ていると、もはや名古屋の高速アタックの対策は方法論ができているんじゃないかと思います。何度か堅碁と永井のポジションを入れ替えても効果がなかったのがなかば証明している気がします。
そこで、もしかしたらジュロヴスキーさんは、自らチームの最大の特長をブラフとしたのかもしれません。最初にロングボールを多用したのは、東京の最終ラインに名古屋のスピードをすり込む意図もあったのではないかと思います。今日の真の作戦は、佳純と田口でしょう。攻撃に入ると名古屋は変態します。ビルドアップの起点では、スンヒが下がり酒井と竹内が開く3バックのかたちになります。SBを押し上げてポゼッションを高める意図です。前線では、堅碁と永井が内に絞り、SBのためにスペースを空けます。東京はコンパクトな守備網を維持しますので、磯村とミチは比較的容易に高く位置取れます。ここで、堅碁と永井がサイドに開く動きをします。東京は速いサイドアタックをすり込まれていますから、サイドに展開するものと、モリゲとまるがフォローします。こうして佳純と田口の前がぽっかり空く状況が生まれます。
とくに田口のサイドが効果的でした。やはり名古屋のエースは田口ということなのでしょう。もちろん流れのなかのことですからそう頻繁に起こることではないのですけど、田口サイドでは少なくとも三回は田口がシュートするかたちに持ち込めていました。そして、そのうちの一本が結果を見せます。
45分。楢崎のFKから。名古屋は自陣でパスをゆったりと回します。酒井から磯村に入り、攻撃スイッチが押されます。 磯村はなかにしぼった永井にパス。永井は草民の寄せを見て後方の佳純に戻します。この時、秀人も永井の近くにいます。さらに中央に移動してきた田口に広貴がついていきます。なので左サイドには広大なスペースがあります。佳純はそこにフリーでいたミチにサイドチェンジを送ります。ミチはドリブルイン。アタッキングサードに入ります。ミチには室屋がつきます。さらに広貴もボールを見ています。ただ田口だけがジリジリ下がって広貴と距離をあけます。これを感じたミチはフェイクで室屋と広貴をおびき寄せ、やおら田口にパス。田口は、ペナルティエリア外からでしたけど、勢いをつけて右足ダイレクトでシュート。これは秋元がはじきますけど、こぼれ球が龍之介の前に転がりました。龍之介は左足で流し込みました。名古屋1-0東京。
前半はほぼ、名古屋が描いた通りのシナリオで進行しました。選手には手ごたえがあったと思いますけど、ジュロヴスキーさん自身がチームのクオリティに一番びっくりしたんじゃないでしょうか。名古屋リードのまま前半終了。
前半でコミットされた名古屋のイニシアチブは後半になっても揺るがないかと思いました。でもさにあらずです。サッカーは実に繊細なスポーツです。攻撃のかたちが機能した名古屋は、過信したのではないでしょうけど、いくぶん攻撃過重になります。そのリスクが中盤に表れます。佳純と田口の位置が徐々に高くなり、スンヒとの距離が開きはじめます。そもそも3CHの距離感で守備の安定を保つ前提を、名古屋は自ら崩すことになります。
これを見た篠田さんが動きます。広貴に代えて翔哉を左WGに投入します。慶悟が右に回ります。ムリキちゃんがトップ下に入ります。当然スンヒの脇のバイタルエリアを狙う意図です。ムリキちゃんと翔哉にボールを集め、ドリブルでゴリゴリと裸になった名古屋守備陣を攻め立てます。
これに対するジュロヴスキーさんのアジャストは、まず攻撃でした。堅碁に代えて貴章を同じく右WGに投入します。左に比べて堅碁のサイドで有効な攻撃がありません。堅碁と永井を入れ替えても状況は変わらず、堅碁はフラストレーションをためていきます。そこでシンプルなスプリンターを投入して、左右をシンメトリーにしようという意図だと思います。さらに翔哉の背後にフレッシュなアタッカーを入れることで、翔哉のフォロワーである徳永の攻撃参加を阻む意図も含んでいたと思います。その上で、あらためて守備を本来のかたちに戻します。リードしていることもあって、必要以上の前がかりは回避します。
そこで篠田さんが動きます。遼一に代えてインスを右WGに投入します。ムリキちゃんがトップ、慶悟がトップ下に回ります。左だけでなく右にも独力ドリブラーを入れ、名古屋の守備のクリッピングポイントを分散させる意図だと思います。
でも名古屋は十分に対応します。貴章投入でカウンター体制を整えて、次は守備のバランスを回復します。佳純と田口をスンヒに近づけて、バイタルエリアの囲い込みを復元させます。これで翔哉とインスは止まります。
さらにジュロヴスキーさんの策が続きます。篠田さんのインス投入と同タイミングで、龍之介に代えて和泉を右WGに投入します。貴章がトップに回ります。中央と左にロングスプリンターを置き、右にはテイストが少し異なるドリブラーを置きます。カウンターだけでなく、最終盤になった時にポゼッションを高める意図も含んでいたと思います。
ほぼ完璧なシナリオで進行する名古屋にアクシデントが起きます。酒井がコンタクトで痛めて下がります。代わって大武が同じくCBに入ります。結果に影響したとは思えませんけど、同点ゴールが大武サイドでの磯村の対応ミスですから、なにがしかバランスに狂いがあったかもしれません。
このタイミングで篠田さんが動きます。秀人に代えて梶山を同じくボランチに投入します。起死回生を狙います。
この作戦は、名古屋がリトリート気味になったので、ポゼッションが高まることを前提としています。さらに梶山のある程度のパスミスは織り込み済みで、カウンターの脅威はありつつも、梶山独特のリズムで名古屋の守備バランスを崩し、さらに梶山自身の一撃必殺パスによるチャンスメークに期待したのでしょう。そしてギリギリの最終盤で、篠田さんの願いは成就します。
後半アディショナルタイム+1分。秋元のモリゲへのパスから。東京は左サイドの梶山、モリゲ、室屋の大きな三角形でボールを回します。これは田口とスンヒをおびき寄せる罠です。梶山がちらちらとチャンスを伺って、ようやく田口とスンヒがちょっと前に出たとき、細かくスペースメイクしていた慶悟がフリーになります。梶山は機を逃さず慶悟に縦パス。攻撃スイッチが押されます。難なくターンした慶悟は、梶山の縦パスと同時にライン際を上がる室屋にスルー。室屋は寄せてきたミチをかわすために右足でトラップをしますけど、これが大きく流れます。ここからの室屋がすごいです。ミスに動じずすぐに反応。竹内とスンヒより先にボールに絡みます。そこにムリキちゃんがフォローして、慶悟に収めます。ボールをかき出した慶悟は左に流れながら前方ペナルティエリア内の翔哉にパス。さあ翔哉の翔タイムが始まります。慶悟のパスを右足で受けた翔哉は、このトラップ一発で磯村を振り切り、ボールを軸にして回転しながらクルッと右足を振ります。シュートは楢崎の指先を越え、右上隅に決まりました。ゴラッソ。名古屋1-1東京。
梶山と慶悟と翔哉の技術と室屋の執念が呼び込んだアクシデントが生んだゴラッソです。梶山が名古屋のバランスを崩し、室屋が竹内とスンヒとミチを消し、慶悟がキープで大武の意識を引きつけた結果、翔哉と磯村のマッチアップになりました。結果的に室屋のトラップミスが名古屋の堅城にほころびをもたらしますから、つくづくサッカーはミスのスポーツだなと思います。
終盤は、お互いの勝利への欲求というか、情念が選手ひとり一人の背中から煙立つのが見えるかのような気持ちのこもった好試合になりました。新体制で結果を残したい名古屋はもとより、名古屋の事情に関係なくどうしても勝ちたいんだという闘う姿を見せてくれた東京が誇らしく思えます。一試合ずつ絶対勝つという姿勢で臨めば、たぶんきっと、近い未来に最上の結果が待っていてくれると思います。ぼくらも些末事にこだわらず、ゆっくりと見守れたらいいなと思います。
執念も時がなく、このまま試合終了。名古屋1-1東京。
名古屋が思い描いた通りの試合に持ち込んだので、正直負けたと思いました。それを追いついたのですから、勝ちに等しい結果だと思います。なによりも、ままよどうにかなりまっしゃろなゴールではなく、篠田さんのベンチワークが奏功したものであり、かつ選手たちがひとり一人の成すべき使命に応えた結果でもありますから、確実に次につながる試合だったと思います。
名古屋は、残留争いするチームにありがちななりふり構わないガテン系サッカーで臨まなかったことが好感です。そもそも名古屋にはガテン系が似合いませんし、そういう選手もいません。とくに守備の部分であと一歩のコンセンサスが足りないような気がします。闘莉王が戻ってきたことで、現場レベルでの守備の微調整ができるのなら、しっかりと今日のサッカーを組み立てさえすれば来年もJ1の舞台で会えると思います。
とうとう8月もおわり。8月最後の日は、改名したリーグカップ、ルヴァンカップベスト8の1stレグです。今日の執念を年内に最上の結果につなげる絶好の機会ですから、まずは先勝したいですね。