ぽちごや

FC東京のディケイドSOCIOです。今シーズンは丹羽ちゃんとともに闘います。

2017J1リーグ第1節鹿島アントラーズvsFC東京@カシマ20170225

2017-02-26 17:57:56 | FC東京

梅の頃が過ぎ、早咲きの桜が見頃です。

沈丁花も少しずつ春の香りを届けてくれています。まだ冬冷えの名残りがありながらも、早春の空気がどこからともなく流れてきます。

開幕ましておめでとうございます。2017年Jリーグの開幕でございます。本年もぽちごやをどうぞよろしくお願いいたします。

とても多くの魅力的な選手が加入したリニューアルの2017東京ですので今年のユニは悩みましたけど、ありったけの期待をこめて、13番とともに闘います。

開幕戦の相手は、レギュレーションの綾で2016年のJリーグチャンピオンとなった鹿島。年間勝ち点の実質は3位で東京との差は7。近年は、タイトルがかかる試合だけ集中が倍増する不思議ちゃんチームになっていますので、ノーマルモードのリーグ開幕戦でいかばかりか、興味深い相手です。

FXSCとACLの連勝で好調なスタートをきっている鹿島をがっぷり四つから圧倒し、内容、結果とも快心のスタートとなりました。

2017篠田東京、スタートを迎える日の注目のシフトと布陣を確認します。シフトは昨シーズンと同じく4-2-3-1。GKは彰洋。CBはモリゲとまる。SBは右に室屋左に宏介。ボランチは梶山が直前に負傷したことを受け、洋次郎と拳人のセット。WGは右に広貴左に永井。トップ下は慶悟。1トップは嘉人です。実に5人の新加入選手が名を連ねていますので、シフトは同じでもテイストはまったく異なるはず。

鹿島はすでにFXSCとACLをこなしていますけど、おそらく今日が当面のベストメンバーでしょう。シフトは鹿島伝統の4-2-3-1ではなく、ニュースタイルの4-4-2。GKはクォン・スンテ。CBは昌子と直通。SBは右に大伍左に脩斗。ボランチは満男とレオ・シルバ。メイヤは右に康左に聖真。2トップは夢生とPJです。こちらも新加入選手がさっそく三人。

今年は公式な対外試合がなかったので、自分にとって今日が初見になります。あらためて今年の編成は、東京はじまって以来の本気モードになりました。偶然お買い得が重なったのかもしれませんけど、長年の懸案の縦ラインにきっちり補強がはまり、少なくともスタート時点では、欠ける部分が見当たらない編成です。この点は、同様に積極補強が言われる鹿島を上回り、それが今日の彼我の差を生みました。

とくに軸となる彰洋、洋次郎、嘉人の加入効果は、さっそく開幕戦にして発揮されました。短時間でフィッティングできたことは、新加入の選手たちの個々のクオリティが高いことだけでなく、既存の選手とフィーリングが合う選手をチョイスしたためでもあると思います。嘉人の存在ゆえ、篠田東京はサッカーそのものをドラスティックに変えるのかと思っていたのですけど、そうでありません。なんでもできる嘉人さんを、川崎のプレーの延長線上ではなく、東京の闘いかたに柔軟にフィットできるという期待で選んだのでしょう。

というわけで、2017ニュー篠田東京は、昨年の闘いかたをベースにしています。ただ、テイストはかなり異なります。昨年の振り返りで述べましたとおり、スクランブル登板を乗り切るため、対処療法的な選択をしたのだと思います。それが結果を伴いましたけど、あくまでも仮の姿。

では、昨年と比較したニュー篠田東京の違いを見ていきましょう。ベースとなるサッカーのスタイルは変わりませんので、違いといってもとても微細なものです。まず守備。基本的な守備の仕組みは変わっていないと思います。篠田東京の守備の特長は、前線からの積極的かつ粘り強いフォアチェック、中盤のタイトコンタクト、4+4の2ラインをコンパクトに整えるゾーンの三つです。この基本プラン自体は変わっていません。補強によってこのプランのクオリティが高まりました。

前線の広域粘着マークと言えば広貴。今年は左に永井が加わったことで、左右の守備の強度が高まりました。永井の攻守にわたるスプリントの多さは既知でしたけど、走ることだけでなく、守備の巧みさと献身性は把握できていませんでした。永井の足は、むしろ守備範囲の広さにこそ活かされているのかもしれません。鹿島が右で作ろうとすると、その基点には必ず永井の姿を観ることができました。もっと驚いたのは、永井の体力の持続性です。守備を固めた最終盤でも篠田さんがカードを使わなかったことを考えると、永井を含む90分間闘った選手は、守備面でもプライオリティが高いと見て良いと思います。

中盤のタイトコンタクトは正直心配していました。広島時代の洋次郎にはタイトマーカーのイメージが無いためです。これはまったくの懸念でした。今日は相手側にレオというリーグ屈指のハードマーカーがいましたけど、今日の東京の中盤は、洋次郎も拳人も見劣りしないほど強く、はやく、そして巧みでした。

今日の内容に、今年の東京への期待感が大きく膨らんだのはぼくだけではないと思います。それは洋次郎の群を抜く存在感が理由だろうと思います。東京にかつて、これほど中盤に安定感と安心感をもたらすミッドフィールダーはいませんでした。ヤット、俊輔、憲剛、満男など、対戦相手として偉大なオーガナイザーを観てきましたけど、比較材料として東京に置き換えることはできていませんでした。三つ目の守備の特長であるゾーンディフェンスですけど、その要は洋次郎でしょう。洋次郎のプレーで印象深かったのは、インアウト両面でのコミュニケーションです。流れのなかでは、ボールフォルダーへのマークとスペースのケアの出し入れを味方の選手にボディアクションで指示し続けます。これ一つを見ても、東京が守備に関して取り組んでいる課題が分かる気がします。プレーが切れている間は、周囲の選手と積極的に会話していました。これらのことは、もちろん以前から東京のなかで見られたことですけど、洋次郎のコミュニケーションは、より具体的で高次元なのではないかと想像できます。

それでも、ゾーンの受け渡しやオフサイドトラップのかけ損ないなど、いくつかのミスが見られました。今後の課題はまだまだあると思います。概ね、最終防御壁である彰洋を含め、コレクティブに細心のケアを90分間持続する集中力は、とても良い印象が残りました。鹿島のチャンスがほぼカウンターに限られたことを見ても、基本的な守備の仕組みは上位争いができるクオリティに届いていると考えて良いと思います。

攻撃についても、基本的な闘いかたは変わっていません。サイドアタック基調です。昨年はドリブルやショートパスからのゴールが例年よりも多くなっていました。これは、得点源が広貴や翔哉といった二列目の選手になっていたことが理由だろうと思います。今年は、最前線の選手のゴールが増えそうな予感がします。左右にクオリティの高いクロッサーが揃ったためです。なのでサイドの使いかたも少し変わっています。昨年はアタッキングサードに入る前にSBで基点を作り、そこからショートパスをつないで崩すかたちが良くみられました。今年は、SBをできるだけ最終局面まで引っ張ることを志向しているようです。変わって基点になるのは、バイタルエリアでスペースメイクする慶悟、広貴、永井です。

嘉人を含めたアタッカー四人は、とてもフレキシブルです。ときに永井が最前線に出る4-4-2のようなかたちにもなります。永井と広貴が同サイドに被ることもあって、これも意図だろうと思います。流動的に動くことで守備網のギャップを生み出す作戦だと思います。この四人は、いずれも足元が巧みでボールを持てるので、どこに出しても基点に成り得ることでしょう。こうして中央に守備網を寄せておいて、SBが最深部を一気に狙います。

もう一つ印象深かったのは、最終ラインの裏を狙う頻度が上がっていることです。嘉人の役割に起因していると思います。嘉人は川崎のプレーとは大きく異なり、意図的に消えていることが多いと思います。東京のサッカーが川崎よりも縦にはやくワイドですから、嘉人も自らをはめ込む作業をしたのでしょう。後述しますけど、翔哉と遼一が入って東京はモードチェンジします。すると嘉人もプレーをアジャストします。中盤サイドで基点になって、翔哉のアタッカーを活かすプレーや、遼一とのコンビネーションを意図したスペースメイクを見せるようになります。なんでもできる嘉人の凄さを開幕早々確認することができて、とても興奮しました。

鹿島と東京はとても良く似たチームスタイルです。近似する特長は、守備に重点を置いていること、サイドアタック基調でること、ハードマークのストロングスタイルであることです。なので、鹿島に勝つことの意味は、東京が自らのサッカースタイルに内在する壁を超えることです。今日の勝利の喜びは、昨年のリーグチャンピオンに勝ったことでも、鬼門を破ったことでも、ましてやレアル・マドリ―に肩を並べることでもありません。東京が東京の甘さを克服できたことに尽きます。似たもの同士の闘いは必然ガチファイトになります。それを征した理由は、皮肉でもなんでもなく、練度の高さと編成の厚さでしょう。

アイロニーに聞こえるのは、練度も選手層も今年の鹿島の自慢だからです。昨年の実質は年間通じて3位の勝ち点数でしかないにも関わらず、メディアが鹿島の復権や成功をもてはやしました。その文脈は伝統賛辞でくくられて、少なからず鹿島自身もそう自負しているでしょう。でも考えてみると、昨年の鹿島の成功は、短期決戦の成果でしかありません。コンセプトから具体的な作戦、個々のプレーに至るまで、おそらく鹿島イズムのガイドラインがあるのだろうと思います。でもその実現は、毎年表現者である選手が入れ替わっていますから、一朝一夕にできることではありません。その意味で、現時点の鹿島は満足するクオリティに達していないといっていいと思います。

守備に関しては、今日も事故による失点のみですからさすがのクオリティです。問題は攻撃。本来の鹿島はカウンタースタイルですけど、今年は試合を支配することを目指しているように見えます。鹿島らしくなく見えるほど、ボールを持つ時間が長く感じました。そのため、アタッキングサードに入ってもペナルティエリアにボールを供給できない、侵入することすらできないシーンが何度も見られました。それにしても、今日のスターターはほぼ昨年と同じ顔ぶれですから、今更コンビネーションが確立できないというのも妙に聞こえます。それほど新戦力のフィッティングが出来ていないということだと思います。レオとPJとスンテ。

とても鹿島らしくないことですけど、スンテとCBが被るシーンが何度もありました。プレー中のコミュニケーションがまだ十分にできていないのではないかと思います。フィードミスもありましたし、失点につながったプレーも、スンテと雄斗の感覚の問題かもしれません。韓国代表経験のあるGKの日本での成功は近年顕著ですから、スンテも時間が解決すると思います。

レオは、中盤の守備では圧倒的な存在です。東京の攻撃ルートには必ずレオがいて、危険の芽を予防し続けます。東京の攻撃が機能するアタックは、すべてレオがかかわらなかった、言い換えるとレオを排除できたときに限りました。これはレオの価値を逆説的に表わしていると思います。一方で、鹿島は中盤からのパス供給の安定感が特長ですけど、レオからのパスの散らしは時折ミスになります。リズムは良いのですけど、有効な攻撃につながっていない気がします。より攻撃特性の高い岳や永木とのギャップはまだありそうです。

PJはレオ以上に時間がかかりそうな気がします。東京にいた頃と神戸のプレーを比較の素材にすると、PJはサイドアタッカーのほうがフィットすると思います。今日の鹿島の有効な攻撃は、PJがスプリントで絡んだカウンターだけでした。それを見ても、PJを活かすのであれば、ビルドアップではなく縦にはやい闘いかたのほうが良いでしょう。

それから、サイドの崩しも、トップとメイヤとSBが連携することはできているのですけど、肝心のアタッキングサードに入ってから芸がなく、なにもできないシーンが目立ちました。まだまだ4-4-2での闘いかたを作っている段階のように見えます。PJと夢生の絡みもほとんどありません。ACLとの両立でタイトなスケジュールをこなさないといけないことも加味して考えると、少し鹿島が心配です。

鹿島を低調にした理由は、このように鹿島自身の練度と東京のニュースタイルに起因します。もう一つ作戦面で見ることもできます。序盤、鹿島は前線からのフォアチェックの強度を高め、主導権を取りにきます。東京は焦らずボールを散らすことでこのオープニングブローをかわします。鹿島が落ち着くと、今後は東京が仕掛けます。狙い処は両SB。密度の濃いガチファイトの流れを作ったのは、広貴です。鹿島は、満男を中心に精神的な優位性を作る作業を仕掛けてきますけど、今日は広貴が先陣を切ります。修斗に対しハードにケアすることで鹿島の選手の視線を一身に集めます。その上でコアの満男自身に精神戦を仕掛けます。こうすることで、鹿島の意識から綺麗に勝つことを排除し得たと思います。結果的に、鹿島の生命線であるSBの攻撃参加の威力を削ぐことができました。

このように予想を大きく上回る上々の出来を見せてくれたので、後半に、そしてシーズンへの期待を抱かずにいられません。前半はスコアレスも、東京がイニシアチブを握って終了。

後半も鹿島の温い攻撃は変わらず、東京のイニシアチブは変わりません。そこで、鹿島がアジャストします。まず石井さんが動きます。大伍に代えて雄斗を左SBに投入します。修斗が右に回ります。前半こそ、低めに置いた康にボールを集めることで大伍を積極的に仕掛けさせることができていたのですけど、東京の圧力に次第に頻度も威力も低下します。雄斗を入れることで、個人技による直接的な仕掛けを意図したのだと思います。

ここで、偶発的な打開策が鹿島にもたらされます。東京に押し込まれた状態からトランジションし、PJを走らせるロングカウンターが二発ほど決まります。さすがリアリストの鹿島。このロングカウンターの有効性を確認するや、ポゼッションを取りやめ縦に急ぐサッカーに切り替えます。こういう懐の深さは、伝統と実績の強みです。この二つのアジャストで、鹿島がようやく攻撃を活性化できるようになります。

そこで篠田さんが動きます。広貴に代えて翔哉を左WGに投入します。永井が右に回ります。

これに対し石井さんが動きます。満男に代えて永木を同じくボランチに投入します。

石井さんが続きます。康に代えて優磨を同じく右メイヤに投入します。

今度は篠田さんが動きます。慶悟に代えて遼一を投入します。同時にシフトを4-4-2に変更します。

この15分間に渡る、一連の作戦の仕掛け合いが、今日の結果を左右したもう一つの理由です。鹿島は、雄斗も含め三つのカードはいずれもほぼ同ポジションの交代です。つまり、基本的なプランを変えることなく、テイストのアジャストとコンディションの維持が主眼です。これも鹿島の伝統で、小さなアジャストで最大の効果を得ることを意図しています。それほど伝統の方法論が具体的なレベルまで確立されているということでしょう。でも今日は、マイナーチェンジ程度では打開できないほど、鹿島の出来が良くなかったですし、東京の守備が安定していました。

対する東京は、前半とは大きくテイストが異なるモードチェンジを施します。遼一と翔哉が攻撃の軸に座ります。このかたちは、ぼくらには見慣れたものですけど、前半の比較的コンサバティブな闘いかたを踏まえると、そのギャップから相手にとっては非常に脅威だろうと思います。結果論だけど、この超攻撃モードをコレクティブなレベルに引き上げるために昨年の2ndステージ後半はあったと言っても良いと思います。

あらためて詳しく観るまでもなく、超攻撃モードの特長は遼一の安定感あるポストと翔哉の積極的な仕掛けです。遼一が輝いています。東京に来て一番良いと思えるほど、身体も頭もクリアな状態なのかもしれません。ポストプレーが安定しているだけでなく、攻撃に繋げるシナリオが、ポストを受ける前からイメージできているように見えます。嬉しい悩みというか、当面のスターターは今日のメンバーになると思いますけど、遼一の充実を観ると、別の組み合わせも見たくなりますね。

昨年の終盤は翔哉にかかる負担が増して、それが翔哉からシュートを奪った印象があります。シュートを積極的に狙う翔哉が戻ってきました。良い意味で独善的な翔哉を許容できる包容力が、今年の東京のアタッカー陣にはあります。遼一と同様に嘉人も永井も慶悟も、翔哉の仕掛けに続く攻撃シナリオをイメージしているのだと思います。だから翔哉の攻撃が単発になることなく、チームとしてゴールに向かうプレーに繋げることができていました。そして、超攻撃モードへの主体的な転換が奏功します。

82分。直通の自陣のFKから。直通は最前線右サイドにはる優磨にフィード。これを宏介が競り勝って前線にフリック。このボールが、絶妙なタイミングとコースで遼一へのポストとなります。FKのためマーカーの直通が外れていた遼一は、かなりの余裕で、ポストからチャンスメークを試みます。直通が遅ればせに寄せてくるのをお尻で感じながら、右足アウトで軽く前方にトラップ。この一発で直通を振り切ります。この時遼一の前では、嘉人がフェイドアウェイで右に流れ、昌子を引きはがします。直通の寄せに耐えた遼一は嘉人にパス。嘉人のイメージは、一瞬のタメを作って昌子を引き付けつつ遼一の上がりを待つタベーラだったのでしょう。でも遼一は逆に左に流れます。この辺りのコンビネーションは課題ですね。ただ、これが奏功します。嘉人のパスは修斗がカット。一連の流れで鹿島は、最終ラインもボランチも全員が下がり基調になっていて、修斗のカットはボランチが下がったことによって開いたスペースに落ちます。これを拳人が拾います。ちょうど修斗がポストをしたようなかたちになり、連続攻撃に繋がります。拳人は左サイドに上がっていた翔哉にパス。翔哉は、マーカーの修斗が距離を開けているのを見て、シュートを選択します。ペナルティエリア外から思い切って打ったシュートはスンテがはじきますけど、このボールがクロスのケアに入った雄斗の足元深くに入ります。雄斗はインコントロール状態になり、ボールはゴールに吸い込まれました。鹿島0-1東京。

伝統を受け継ぐピースの選択肢を増やした鹿島と、ダブルスタンダードをチーム内に積極的に取り入れた東京。今日は東京に軍配が上がりました。このまま試合終了。鹿島0-1東京。眠らない街♪

スコアも内容も、一見すると地味な試合でした。でも、試合を観た誰もが、たぶん満腹の充実感を感じたと思います。相手が鹿島だったという条件だけではない、もっと根源的な理由で。それは新加入選手への期待が、希望から現実になる予感がするからでしょう。東京のなかで何かが変わり、ひと皮むけそうな気がしてなりません。

東京の本気をリアルに魅せてくれて、最高のシーズンスタートになりました。今日がベストではなく、まだまだ課題はあると思います。選手間の狙いが合わないシーンは随所にありましたので、コンビネーションが出来てくるともっともっと良くなると思います。難しい相手が続く序盤の闘いですので、ひとつずつしっかり試合をこなしてほしいと思います。


FC東京2016シーズンレビュー

2017-02-05 18:16:23 | FC東京

穏やかな小春日和の如月。長いウインターブレイクだなあと思っていても、もう開幕月になりました。

2016年はホントに苦しいシーズンで、振り返りをするモチベーションがなかなか出ませんでした。ようやくのレビューとなってしまいました。というわけで、2017年シーズンを迎えるにあたって編成を中心に東京が大きく様変わりする橋渡しとなる、その意味でエポックメイキングな2016年シーズンを振り返ってみたいと思います。

シーズンイン時点の課題を大きく捉えると、ACL対策とフィッカデンティ体制からの移行でした。もう少し具体的に見ると、ACLは、成績の目標はいざ知らず、既にJリーグで一般化されているとおり日程の問題のクリアです。フィッカデンティ体制は、攻撃方法の方向転換です。この二つの課題は一見相いれないように感じますけど、元をたどるとひとつに行きつきます。それは編成。

まずはACL。一般化されているACLを闘ううえでの課題は日程です。多くのJリーグ関係者が指摘するように、ACLとリーグを両立するためには、同じ程度のクオリティを持つセットが二つ必要です。翻って2016年の東京を考えると、およそ満足な編成だったとは思えません。中途半端な時期にACL出場権を得たために、再編成は予算面でも実際の活動面でも不可能だったと思います。であれば、ACLを取るかリーグを取るか、二者択一を迫られるということになります。この点については、ヒロシから示唆するようなメッセージはありませんでした。ACLのグループステージの結果次第という考え方もあったろうと思います。それは結果的に、じわじわと東京を苦しめることになります。

それは、結局2016年シーズンを象徴するように最後までついて回った、コンディション不良による離脱者の続出です。実質2月9日から全開でシーズンインすることになりましたので、いずれペース配分が必要な時期が来るだろうとは思っていました。でもそれが、故障者リストのページを増やすという最悪な事態になるとは、さすがに想像していませんでした。ヒロシ東京の理想プランはチョンブリFC戦にあると見ていいと思います。その時のスターターでフルシーズン稼働できたのは、秋元、モリゲ、まる、遼一だけ。なかでも誤算だったのは、なんと言ってもハビでしょう。ハビは、ほぼこの初戦以降は戦線に名を連ねることがありませんでした。

ここで、フィッカデンティ体制からの脱却を目指す初年度として、ヒロシ東京が目指した編成が鍵を握ります。それは中盤に顕著です。東京のゴールパターンは、フィッカデンティ体制以前から似たような傾向にあります。セットプレーもしくはクロスからのゴールが50%以上を占めます。話は逸れますけど、Jリーグのなかで似た傾向のチームは、鹿島です。鹿島から連想するのは組織的な守備の堅実さとオープンワイドなサイドアタックです。鹿島はこの特長を、チーム草創期から積み上げてきています。東京は一見すると方針が紆余曲折しているようですけど、芯の部分は、案外東京スタイルというものを連綿と受け継いでいるのかもしれませんね。

ゴールパターンで、2015年と2016年を比較して最も大きな違いは、スルーパスあるいはショートパスからのゴールの割合です。2016年は18.6%のアップとなっています。これこそが、ヒロシ東京が目指したフィッカデンティ体制からの脱却の象徴だろうと思います。それは、基本的なスタイルを長所として維持しつつ、攻撃方法のバランスを良くしようというものだったのではないかと思います。

さて、フィッカデンティ体制の批判で特長的なのは、選手の固定、特に攻撃パターンの属人への依存でした。よっちと宏介。それで結果が残るのであればOKというのがリアリストの考え方。ところが、キープレイヤーがいなくなると、やおら問題が表面化します。実際にぼくらは、よっちと宏介が抜けた影響が長引いたことを肌身で経験しています。エンターテイメントとしては、スタープレイヤーが常に試合に出て、かつ活躍してくれることは大切なのですけど、チームのなかには不安が積もっていたのかもしれません。そこで、よりスターへの依存度が低い、人を動かすスタイルへの変革を企図したのだと思いますし、タイミングとしてもベターでした。

この方針を編成面で捉えるところに立ち戻ります。ACL出場が未確定だった編成の計画時で、クラブとおそらくヒロシを含めて求めた最小限の人材が、ハビと拓馬と宏太だったのでしょう。その上でチョンブリFC戦のスターターをもう一度見ると、ポゼッションスタイルへの変革のはじめの一歩を担うハビ、拓馬、宏太はいずれも名を連ねていますし、その後離脱した側の選手でもあります。変革という大事業に向かう指揮官として、その鍵を握ると期待していた選手が軒並み離脱するということは、大いなるエクスキューズとして見てあげるべきだろうと思います。

さらに悪いことに、キープレイヤーの離脱は一時に集中したのではなく、ダラダラと連鎖します。つまり、選手不在の影響が長く長く続くことになります。結果を言えば、最終的に河野の離脱が天皇杯を夢と消えさせましたから、ハビにはじまり河野に終わり、シーズンを通して影響し続けました。ハビは前述のとおり。拓馬が5月、ヨネが6月に離脱。宏介の補完として期待した駒野も早々離脱。主力の慶悟と宏太もフル稼働できませんでした。篠田体制に入っても、ムリキが8月、徳永と広貴が10月に離脱と、毎月のように主力の故障が続きました。天皇杯ベスト8でも、広貴不在のみならず、直前に慶悟と遼一が一時離脱していたことが少なからず影響したと思います。

スターターが安定しなかったこと影響を最も強く受けたのが中盤です。ハビとヨネのセットが早々と不能になると、中盤の構成力を維持する方針を守るために、ヒロシは5パターンのセットを試します。中盤の選手のスターターでの勝敗を見てみます。ヒロシ東京は7勝5分10敗と負け越しているので、当然ながらスターターで勝ち越している選手はいません。勝率が一番高い拳人でも38%。期待のヨネとハビのセットは1勝2敗。一番多いセットはヨネと拳人の組み合わせで8回。おそらくヨネ+ハビに準じる期待を帯びたセットでしょうけど、結果は3勝1分4敗。シーズンの流れを見ると、拳人起用で結果が伴わないと梶山もしくは秀人の安定感を求めた印象です。ヒロシ東京での梶山の勝ち点獲得率は50%、秀人に至っては71%。もしかすると、ヒロシ東京がやりたいサッカーとやるべきサッカーは少し違っていたのかもしれません。

ヒロシが東京を去ることになったホントの理由は分かりません。1stステージの失敗を取り戻すべく期待して臨んだ2ndステージでしたけど、いきなり第1節で躓き、浮上するきっかけを得ないまま2nd第3節からの三連敗は、外から見る以上に現場では行き詰まり感があったのでしょう。チームヒロシには流れを変えるプランがあったかもしれません。でも、ヒロシ自身には変えられなかったのだと思います。だからヒロシの後任は内部昇格だったし、チームヒロシの根幹はそのまま維持したのだと思います。

結局、ヒロシが残したものは、前任者と基本的に変わらない編成でやり方だけ変えても結果が伴わないという教訓だったと思います。その課題は2017年シーズンの編成計画に引き継がれ、今に至っているのでしょう。その意味では、ヒロシのチャレンジは十分な価値があったと思います。心に大きな傷を負ったと思いますけど、これからのヒロシのサッカー人生にふたたび光が灯ることを願ってやみません。ヒロシとご家族に幸いあれ。

というわけで、篠田さんと選手たちは、残ったものとしての責任を果たす大仕事に臨みます。結果は8勝2分2敗。10月以降は4連勝。現有戦力に合ったシンプルな闘いかたが、責任感という強いモチベーションを上手く引き出してくれたと思います。

篠田東京は、とてもリアリスティックでした。まがりなりにもACLに望むことができる戦力を持ちつつ、基本的には起用する選手を固定します。シフトも4-2-3-1にほぼ固定しました。ポジションの流動性もなく、各選手が与えられた役割を粛々とこなしていた印象です。もちろん役割は選手の個性に根差したものでしたけど、篠田さんが選んだ布陣は、個性がうまくはまりました。ヒロシ東京でフォーカスを当てた中盤の構成も同様に5パターンありましたけど、2nd第11節以降はほぼ梶山と草民のセットで固定します。6試合で5勝1分の勝率83%。とくに草民は、篠田東京船出の2nd第6節とサスペンションの2nd第12節を除く11試合にスターターとして出場。勝ち点獲得率82%と、成績の安定に貢献しました。

篠田東京も無風ではなく、危機がありました。前述のとおり、2016年シーズンの東京に妖怪のようにとりついた、故障による選手の離脱です。まず、攻撃パターンの軸となる左WGのムリキが8月に、続いて鉄人徳永が10月初旬に、最後は広貴が10月下旬にそれぞれ離脱します。結果的にムリキは翔哉が、徳永は拳人と諒也が、広貴は宏太がそれぞれフォローしてくれて、チームの総力でシーズンを乗り切ることができました。この点がヒロシ東京と篠田東京の大きな違いです。ヒロシには第一次政権時代からもってない感を感じていましたけど、言い方を変えると篠田さんは、もしかするともっている男、なのかもしれませんね。

とくに翔哉は、ムリキを補完するのみならず、9月以降の篠田東京の完全な軸となっていました。攻撃プランを組み立てる際、発想の原点はおそらく翔哉だったと思います。翔哉はスターターに入った2nd第6節以降ゴールこそ7試合で2つですけど、シュート数の多さは、これまでの東京のアタッカーに見られなかった特長です。攻撃的に見えて、リアリスティックで案外コンサバティブな篠田東京のなかで、翔哉のアグレッシブさがワクワク感を生み出してくれていたと思います。

篠田東京になってゴールした選手でヒロシ体制ではゴールがなかったのは、慶悟、インス、翔哉、草民、宏太です。みんな1.5列目以降の選手。変わって、篠田体制でゴール数を減らしているのが、拓馬、相太、モリゲ、バーンズ、拳人。トップの選手かセットプレー要員です。この点からも、篠田東京が東京の特長であるオープンワイドな闘いかたにシンプルに徹していたことが伺えます。

というわけで、ヒロシ東京の低空飛行を象徴するのが中盤だったのに対し、篠田東京の上昇を象徴するのはWGです。攻撃パターンは、左で作って右で仕掛ける。翔哉を陽とすれば広貴は陰。ドリブルとパスで積極的にボールに働きかける翔哉は、もちろん攻撃の軸です。でも、チームとしての攻撃の幅を広げるには、翔哉が作る時間を利用して忍ぶ役者が必要です。それが広貴でした。広貴は、フィッカデンティ体制と比べて、プレースタイルが大きく変わりました。以前は時間を作る側のチャンスメーカーでした。それが、今年は5ゴール。ヒロシ東京でゴールした選手のうち篠田東京でゴール数を伸ばしたのは広貴のみ。Jリーグ月間ベストゴールも受賞しましたし、広貴はすっかりゴールゲッターに変貌しています。広貴の眠れる才能を引き出したのは翔哉であり、翔哉の攻撃力を引き出したのも広貴なのだと思います。自分のなかで2016年シーズンのMVPは、広貴です。

 

来る2017年シーズンに向けて、最後に残る2016年の振り返りのテーマは、2016篠田東京は果たして真の姿なのか?です。比較材料がないので状況証拠でしかありませんけど、相次ぐ主力の故障離脱にも闘いかたそのものは変えなかったことから、形而上的には真の姿だと言っていいと思います。新シーズンの編成を見ても、なんでもできる嘉人と洋次郎を除けば、サイドのスペシャリストを中心に補強していますから。ただ、2016年がスクランブル登板だったということを考慮すると、新シーズンはもっと幅をもたせた闘いかたをすると思います。翔哉+広貴のセットと、それを活かす遼一と慶悟の安定感でいったんは成果を見ました。でもそれは、成すべくして成ったというよりかは、結果が出た流れに沿った、リアリストの王道に過ぎないと思います。その意味では、2017年シーズンのニュー篠田東京を想像する素材としては、不十分でしょうし、そうあってほしいと思います。

秀人が去りました。これは、東京が安定感を捨て、背水の陣を敷いて2017年シーズンに臨むことを意味します。これまでにない主力級の大量補強は、ちょっと何が起こっているのかついていけない感がありますけど、チームが変わろうとする宣言でもあると思います。とは言え、いつの間にか東京が身につけたスタイルは変わらないと思います。変えるのは、無冠。なにしろ経験がないだけに何をどうすればリーグ優勝に手が届くのかさっぱりわからないけど、補強がその解だったと最後に言えることを願います。2016年の失敗がそのための礎だったと信じています。

さあ、あと三週間でJリーグファンの春がきます。開幕です。今年も楽しみですね。