まだ雪の気配が残る春少し遠い3月末の山形。ホーム初戦以来の、4ヶ月ぶりの加賀さんとの再会です。独立系加賀さんファンとして最近のファンの空気感に戸惑いながらも、陰ながら応援し続けています。
口に出してははばかられることですので言わなかったのですけど、加賀さんが今年シーズン通して働けるとはあまり思ってませんでした。過去二年はブランクだったので試合体力をそう簡単には戻せないと思ってたからです。それになにしろ、強力だけど繊細な足とつきあってらっしゃいますから。加賀さんのプレーを観に行くならできるだけはやいほうが良いと思ってました。東京のスケジュールの綾でホーム初戦に行けたけど、その場でことし最初の足の違和感を目撃するとは思いもしませんでした。
四月に入ってすぐ、加賀さんは肉離れをきっかけに離脱します。公表はされてないけど、数週程度の肉離れだけでは無かったのでしょう。でもここからが加賀さんらしく、落ち着いていて賢明でした。チームに完全に貢献できるようなるまで、焦ることなくしっかりと治してくれました。ほぼ実戦の無かった浦和時代はともかく、東京で加賀さんと過ごした経験から、正直真夏くらいまでかかるかなと思っていたので、7月中の復帰は驚きました。怪我が比較的コントロール可能な程度でよかったし、加賀さん自身のケアとスタッフさんの仕事の成果でしょう。
復帰のタイミングも良かったです。離脱者が相次ぐ来るしいチーム状況がありましたから。さっそく守備の要としてフィットできたのは、離脱中もチームのなかで成すべきことを考えていたのだと思います。
前節、豪快な右足のドライブショットを決め、勝利に貢献しました。2011年7月27日以来、実にちょうど六年ぶりの公式戦ゴール。首位湘南を撃破する決勝ゴールでしたから、過去二年はファンとして観念的な進化を追ってきましたけど、今年は試合に出ることで、具体的な進化を確認できるのが嬉しいです。どちらかというと磐田で怪我する前をピークに下降線のイメージがあるけど、経験によって得たディフェンスの安定にかつての攻撃力が戻ることにより、停滞でもなく復活でもない、新章を観られるのかもしれないという期待を抱きました。
歓喜の前節から一転、今日は自らのミスで敗因のひとつを作ってしまいました。2失点目は、加賀さんのスピードであれば石津のフォームが整う前にアプローチできた気がします。石津のアタックに対して完全に受け身になっていて、局面のイニシアチブを握られていました。前半にイエローカードをもらっていたので選択肢が少なかったことも影響しました。すべて結果論だけれども、たとえ不可能だったとしても止められたんじゃないかという可能性を探し求め続けるのがプロ。試合直後に世界中でぼくだけが観た加賀さんの輝く目に、悔しさとともにもっと上手くなりたいという欲求を感じました。
加賀さんといえば夏。足の調子もあったかい間は大丈夫なのだろうと思います。今節で16位に沈んだモンテですけど、今年のJ2は群雄割拠の混戦です。プレーオフ圏内まで勝ち点4差。夏場の消耗戦で勝ち点を地味に拾うことが最終的な結果をもたらすと思います。
それよりも、エレベーターチームからの脱却を目指すモンテはプレーオフ争いに甘んじてはならないと思います。むしろ来年を見据えたチーム作りこそ大事かもしれません。加賀さんにとっても、一年間フルで闘えるからだを作る悲願を達成するために、今年はチャレンジしてほしいと思います。
せっかくなので試合のコメントも。基本ニュートラルなのですけど、加賀さんがいるのでモンテよりの書きっぷりになることをご容赦ください。
山形は4-2-3-1。GKは児玉。CBは加賀と菅沼。SBは右に茂木左に利弥。ボランチは本拓と安西。WGは右に雄斗左に汰木。トップ下は優平。1トップは阪野です。
福岡は4-4-2。GKは兼田。CBは岩下と冨安。ボランチは三門とウォン・ドゥジェ。メイヤは右にジウシーニョ左に山瀬。2トップはウェリントンとりきです。
山形にとっては前節湘南戦に続く首位と2位との連戦です。直接争う相手ではないけどプレーオフ圏を目指す上昇気流を生み出す絶好の機会です。まして、湘南に撃勝しましたから。
守備に関しては、山形と福岡で考えかたが異なります。福岡は、今日は攻撃が目立ちましたけど、本質的には守備に重心を置いたチームだと思います。守りかたの基本プランは、現代サッカーの王道に沿ったオーソドックスなスタイルです。ウェリントンとりきを中心にしたフォアチェックで相手の守備バランスを崩します。事後のカウンターを念頭にした、守備と攻撃を一体にした思考です。攻撃のタレントでは、J2では優位性があると思いますけど、ボールを持つことで試合を支配する発想はなく、あくまでも福岡らしい泥臭いスタイルを貫いているようです。
福岡の守備で特筆すべきなのはウェリントンです。ウェリントンは、フォアチェックの延長線上のプレーなのか、ときに中盤の底まで下りて、再三ピンチの芽を摘む仕事をしていました。さらにウェリントンの存在感が増しています。ウェリントン自身も、チームの要としての意識が強くなっているのでしょう。
山形は、守備偏重の考えかたです。もっとも現在2位の福岡に対して、しかもアウェイの状況で野望を抱く必要はないということなのかもしれません。なので、あえて守備偏重を選択したと言ったほうが良いかもしれませんね。前節それで成功していますし。山形は4+4のラインを維持することを優先します。
今日の山形の守備におけるポイントは言わずもがな。ウェリントン対策だったと思います。前半は菅沼がマッチアップしました。これが福岡のナチュラルなプランなのか、それとも意図した作戦だったのかわかりません。いずれにしろ、ウェリントンのポストのポジショニングが、前後半の戦況を分ける要因になりました。それにしても、前半の菅沼のファイトは素晴らしかったです。後ろにいらした福岡サポさんが、わざわざ菅沼とウェリントンのマッチアップ回数を数えてくれていて、都合5回だったと思います。菅沼は直接のマッチアップではウェリントンに完勝しました。
今日の福岡は、左サイドを主戦場に置いていたようです。これまた先に登場いただいた福岡サポさんによると、普段の福岡は右加重のチームなのだそうです。つまり、今日は意図的に左を狙ったということでしょう。
攻撃における山形の4バックは形成過程だと思います。なので、まだサイドの縦の連携が機能していません。左は汰木の攻撃力に委ね、利弥はバックアッパーに徹します。おそらく左は、そのため比較的安定していると思います。一方右は、茂木の攻撃参加が期待されてます。雄斗が内に絞り、インサイドでの攻撃のハブ的な役割を担いますから、純粋な右サイドの攻撃は茂木にかかります。なので、菅沼と加賀による中央の堅実さを前提に加えると、福岡にしてみれば左を狙うのが必定ということでしょう。
左サイドの福岡の攻撃はバリエーションが豊富です。山瀬、亀川、りきと、個性が異なるタレントが、それぞれの特長の活かしかたを組織的な攻撃のなかで知っているからこそできることなのでしょう。りきはさかんに茂木の背後を狙います。もっとも、りきとパス供給者の意図が合わず、りきの個人的な作戦は不発でした。山瀬と亀川はコンビネーションが確立されているようです。山瀬のポジショニングが絶妙で、サイドにはったり内に絞ったり、いずれにしろ亀川の攻撃力を補完するプレーだと思います。
福岡のサイド攻撃のユニークな点は、三門が加わることです。三門の運動量と攻撃参加のタイミングのセンスを全面に活かす作戦だと思います。これを成しているのは、三門に反し中央を動かない、パートナーのドゥジェの存在でしょう。中盤中央の攻守にわたる安定感はドゥジェによってもたらされていると思います。
左で攻めきれ無い福岡は、前半途中からジウシーニョの独力突破を軸にした右サイドアタックを織り交ぜるようになります。ただ前半は、左右いずれから攻め込んでも中央を打開できません。とりもなおさず、ウェリントンのポストで攻撃側優位の時間を作れなかったことが要因だと思います。
このように福岡の攻撃は、ウェリントンを軸に、衛星となるりき、独力突破できるジウシーニョ、クロッサーの亀川と、ゴールに直結するプレーを持つ武器を四枚持っています。それに比べて山形は、少なくとも今日に関しては、攻撃を組み立てるタレントと作戦こそあれ、フィニッシャーに欠けていました。
おそらく山形は、中盤の安西、トップ下の優平の二枚の中央のプレイヤーから前線にパスを供給してチャンスメークするプランだったと思います。パスに脅威を宿すためには福岡を下げさせる必要があります。そのためには阪野のポストが鍵になります。今日の阪野は冨安と岩下とのマッチアップに苦労していました。とくに冨安にパワー負けするシーンもあり、これからの課題になるでしょう。
優平と安西にボールを集めるが故、あるいは阪野のポストが機能しないがため、雄斗が存在感を無くします。最終局面のアクセントマンとして雄斗が機能すれば守備網をかき回すアタックができるのですけど、むしろ雄斗がフレキシブルに動くことによる右サイドのリスクを福岡に狙われた印象です。
というわけで、前半の山形は汰木の独力突破に委ねざるを得ない状況になります。そうであったとしても、汰木のニュルニュルした独特のドリブルは、チャンスメークを担ううえで機能していましたし、プレーそのものが楽しかったです。負傷離脱の多い山形の前線の状況は、汰木にとってはチャンスでもありますから、他にあまり類のないドリブルという武器を活かしてがんばってほしいです。
前半は、ほぼ一方的な福岡ペースになるも、山形の守備の頑張りでスコアレスのまま終了。
後半頭から井原さんが動きます。りきに代えて石津を左メイヤに投入します。山瀬が右メイヤ、ジウシーニョがトップにそれぞれ回ります。りきの空回りがありつつも、左サイドアタックが有効なことが確認できたのでしょう。ゴリ押しドリブラーを入れることで、左サイドの攻撃ギアをシフトアップする意図だと思います。
もうひとつ、福岡の作戦変更がありました。ジウシーニョが右トップに入ることでウェリントンのターゲットが加賀に変わります。菅沼を嫌がったのか加賀を組し易しとみたのかはわかりません。左サイドアタックを強化するためかもしれません。いずれ、ウェリントンのポストが安定してきます。そしてこれらの作戦変更がいきなり奏功します。
47分。本拓がディフェンシブサードからの出した縦パスを石津にカットされます。このミスから発した福岡のカウンターは守備網が防ぎますけど、クリアを受けた本拓がふたたび優平への縦パスをウェリントンにカットされ、ダブルカウンターになります。ウェリントンはそのままアタッキングサードに入り、右にパス。山瀬がスルーした先に三門がいました。三門は利弥を引きつけながら深く切れ込み、ゴールをまたぐクロスを逆サイドに送ります。この三門のワンプッシュが効きました。大外にいたジウシーニョは中央にフリックで折り返します。そこにいたのはウェリントンただひとり。守備ラインは三門のワンプッシュで全員下がり基調でした。ウェリントンは豪快に右足ダイレクトボレーを叩き込みました。福岡1-0山形。
前半は中盤のパスミスがほとんど無かった山形でしたけど、石津を加えてフォアチェックの強度を上げた福岡に面食らった感じだったかもしれません。言い換えると山形は、湘南に完勝したとはいえ、まだまだJ2上位の相手を御すほどの安定を持っていないということでしょう。
リードを許した木山さんが動きます。安西に代えて徹郎をトップ下に投入します。優平がボランチに回ります。多少強引にでも中央で基点を作る意図でしょう。山形の前線は、コンタクトを自ら仕掛ける選手は、阪野を除くとほとんどいません。そのことが中盤でパスを回せるけどアタッキングサードに入れない要因のひとつだったような気がします。
ところが山形の作戦変更の効果をはかる間も無く、福岡に追加点を許してしまいます。
63分。山形のCKからの一連の攻撃から、左サイドからの雄斗のクロスを岩下がクリア。これが右ライン際のジウシーニョに渡ります。カウンターの発動です。ジウシーニョはフォローしてきた山瀬にパス。山瀬はさらに前線を駆け上がる石津に送ります。これで加賀と石津の1on1になります。加賀は石津の仕掛けに柔軟に対応すべく、半身受けで少し距離を開けるコンサバティブな選択をします。石津はアタッキングサードに入り、この距離を利用して、もっともシンプルに縦に加速します。本来加賀が得意とするカバーリングですけど、加賀は一瞬レスポンスが遅れます。抜け出した石津は、児玉の股間を抜いて流し込みました。福岡2-0山形。
加賀のミスについては前述のとおり。攻めるしかない木山さんが動きます。阪野に代えて仁斗を同じく1トップに投入します。徹郎に加えて、コンタクトを辞さずアグレッシブな仁斗を投入することで、さらにゴリ押しの強度を上げる意図だと思います。
同時に井原さんが動きます。ジウシーニョに代えて仲川を同じくトップに投入します。山形が前がかりになるためカウンターが効くことが確認できたので、アジリティでカウンターの威力を増す意図でしょう。
この互いの作戦変更がはまり、ここから先は山形が押し込み福岡がカウンターを狙う流れに移ります。山形は、中央の高い位置で基点を作れるようになったので、鳴りを潜めていた茂木と利弥が攻撃参加するようになります。こうなると雄斗のアクセントが真ん中で効くようになります。ようやく山形のシュートが枠に飛ぶようになります。
そこで木山さんが動きます。本拓に代えて駿を同じくボランチに投入します。優平を前目で攻撃に絡ませるために、中盤の守備の強度を上げる意図だと思います。
最終盤に左からのクロスに雄斗が飛び込むシーンがありました。ようやく山形らしいフィニッシュのかたちを見ることができました。最初からこの作戦でいってたらと思う向きもあると思いますけど、サッカーはあくまでも相対的なスポーツです。福岡は2点リードしたが故の、言わば受け。トータルの実力差が如実に現れました。
井原さんが〆にかかります。山瀬に代えて城後を同じく右メイヤに投入します。右サイドの守備の安定を意図した作戦だと思います。
山形の猛攻も叶わず。このまま試合終了。福岡2-0山形。
4バック同士の相四つ対決は、攻撃の武器の物量の差が勝敗を決した印象です。言い換えると、守備に関しては山形も点差ほどのクオリティの差は無かったと思います。山形から見るとミスによる負け、福岡から見るとミスを誘引する作戦勝ち。いずれにしろ、これから山形が目指す方向を定めるために、福岡は良いベンチマークになったと思います。
東京での2バックのプレーに親しんだ身としては、加賀さんらしいプレーや仕草、表情が観られて嬉しかったし、サウダージでした。東京加賀さんファンだけの特権を満喫しました。今日は引き気味だったこともあり、ワンプレーで魅了する驚愕スプリントを観られるシーンはほとんど無かったけど、三年前より安定感や1on1の強さが増した気がします。加賀さんを狙って仲川がマッチアップしたときはドキドキしたけど、無難でした。
今年はもう会いに行く機会がないと思うので寂しいです。チームとしても加賀さん個人としても更に成長することを目指して頑張ってほしいです。山形の夏は暑いから、くれぐれも暑さには気をつけて。