2018-09-20 04:45:27
2018.9.19
overeating
過食は「見た目」も老けさせる!「腹八分目」は科学的に正しかった
西沢邦浩
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日本人のための科学的に正しい食事術 腹八分目
Photo:PIXTA
このたび新著『日本人のための科学的に正しい食事術』を上梓した、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏が、最新のエビデンスに基づき、日本人のあるべき食事を紹介する。まずは過食の害について。昔から「腹八分目に医者いらず」とは言われるが、じつは「過食」は肥満や生活習慣病をもたらすだけではなく、「老化」を進行させ、「見た目」も老けさせるという。
いつでも食べられるこの時代
空腹を感じる機会も減った
何か食べたくなったら24時間営業のファストフード店やコンビニエンスストアに行けばいい。お手ごろな食べ放題コースがあるレストランなら、いつでもお腹いっぱい食べられる──。今から50年ほど前に広がり始めたこのような食環境は、今や日本人にとって当たり前のものになった。
ここで質問。
皆さんは「ああ、お腹がぺこぺこだ」と感じてから食事をすることは、週に何回くらいあるだろうか?
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かつて人間は空腹により、生き延びるための頭を使った
オフィス内ではパソコンに向かう仕事時間が長くなり、家では全自動の洗濯機や食洗機、ロボット掃除機などを利用する機会が増えてしまったために、しっかり体を動かし、食事でとったエネルギーを使い切り、爽快な空腹感を感じる機会が減っているのではないだろうか?
かつて人間は空腹を合図に
生き延びるために頭を使った
日本人のための科学的に正しい食事術 西沢邦浩
本コラム著者・西沢邦浩氏の最新刊
人類の誕生以来、つい最近まで、私たちはずっと飢餓や空腹と闘い続けてきた。空腹になったときに体をどう調整するかということに関して、私たちの体は何十万年にも及ぶ経験値を遺伝子に刻みこんでいる。
お腹が減るというのは、前に食べた食事の消化吸収が終わったという合図で、お腹がグーッと鳴る音は、腸が蠕動運動を始めたしるし。消化吸収が終わり、体が排泄モードになったということだ。そのため、「モチリン」というホルモンが働いて、排泄に向けて腸の動きを活発にする。
排泄モードになるのと同時に次の食事を受け入れる準備も整うので、胃から脳に向かって「グレリン」というホルモンが分泌される。グレリンは空腹だという信号を脳に届けつつ、短期記憶を担う大脳の海馬に、もともとはこんなメッセージを送っていたに違いない。
「どうやって前の食事を得たか思い出して、行動を起こせ! さもないとこのままでは先がないかもしれない」
空腹を合図にして、生き延びるために頭を使うこと──これこそが、人類の脳が発達した理由の一つではないだろうか。
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飢餓から飽食への時代変化に人間の体はまだ対応できていない
空腹時間がある程度続くと、エネルギーを無駄遣いしないようエコモードのスイッチも入る。さらに、長寿遺伝子と呼ばれる遺伝子群を活性化させて、次に食事にありつけるまでの間、生き延びるための身体機能を高めようとするのだ。
飽食への時代変化に対応できない
人間の体の悲鳴が生活習慣病か?
私たちの細胞は常に活動を行っているが、燃料を燃やしてエネルギーをつくるので、当然ゴミが出たり、壊れる箇所が出てきたりもする。これらの修復作業が活発になるのも空腹のとき。オートファジー(自食作用)機能が活性化することにより、細胞中の要らないゴミを処理し、再生させることがわかってきた。
これは2016年に東京工業大学の大隅栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した学説だ。
一方、日本人が「お腹が減ってもいないのに食事をする」というような、恵まれた食環境で暮らせるようになったのは、ほんのここ半世紀程度のこと。
まだ経験が十分ではない。
そのため、空腹を感じていないのに次の食事を食べてしまったら、体は排泄モードになるタイミングや、細胞再生スイッチをオンにするきっかけを逸してしまうおそれもある。
このような、心身の声と唱和しない食行動が排泄障害、つまり便秘の原因の一つなのかもしれないし、飽食に対応ができていない体の困惑と悲鳴が、肥満や2型糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病だ、ともいえるのではないだろうか?
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アカゲザルの研究が証明!過食で老化が進行&寿命も縮む
アカゲザルの研究が証明!
過食で老化が進行&寿命も縮む
人間では実施が難しい試験だが、1980年代後半に、米国の2つの施設で、食べたい量の食事を食べられるアカゲザルと、カロリー制限をした食事で生活するアカゲザルの健康状態や寿命を比較調査する研究が始まった。2つの施設とは、米国立老化研究所(NIA)と米ウィスコンシン大学。
平均寿命約27年のアカゲザル(以下サル)を、30年以上にわたって観察し続けるという、息の長い研究だ。
NIAでもウィスコンシン大でも、カロリー制限群のサルの食事では、好きに食べられる(自由摂食)サルたちの食事に比べ、約3割のカロリーカットをした。しかし、自由摂食とはいっても、サルたちの食事は、2つの施設で内容が異なった。NIAでは、ほぼ好きに食べてもいいが過食にならない程度には抑えられ、しかも大豆や魚といった“よい食材”も入った食事だった。
一方、ウィスコンシン大のサルは、本当の“食べ放題”で、砂糖を多く与えられるなど、栄養組成もあまりよくなかった。いわば、過食かつ栄養バランスも悪いという食事内容だ。
老化に関連する病気の発症率 カロリー制限で老化関連死が減少
カロリーを制限すると、過食による老化が穏やかになり、長寿化にも寄与
さて、観察の結果はどうだったのだろう。
ウィスコンシン大のカロリー制限サルでは、明らかな寿命延長効果があったが、NIAのサルでは明確な差が出なかった。その後、両大学で双方の研究結果を一緒に分析した結果、やはり、カロリー制限食には、加齢に伴う病気のリスクの低下や、健康寿命を延ばす効果があることがわかり、2017年に共同で論文を発表した。
公開されたウィスコンシン大のサルの写真を見ると、カロリー過多で栄養バランスが悪い食事をしたサルたちは、同い年の他のサルに比べて明らかに見た目が老けていたことに驚く。この結果は、食べ方による老化の進行は見た目にまで表れるとして話題を呼んだ(図参照)。
貝原益軒が『養生訓』に記した「食事は腹七、八分でやめること。食べ過ぎると病気になる危険性がある」という考え方は、まさに正鵠を射ていたというわけだ。
300年の時を経て、その理論の実証がようやく果たされようとしている。
2018.9.19
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過食は「見た目」も老けさせる!「腹八分目」は科学的に正しかった
西沢邦浩
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日本人のための科学的に正しい食事術 腹八分目
Photo:PIXTA
このたび新著『日本人のための科学的に正しい食事術』を上梓した、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏が、最新のエビデンスに基づき、日本人のあるべき食事を紹介する。まずは過食の害について。昔から「腹八分目に医者いらず」とは言われるが、じつは「過食」は肥満や生活習慣病をもたらすだけではなく、「老化」を進行させ、「見た目」も老けさせるという。
いつでも食べられるこの時代
空腹を感じる機会も減った
何か食べたくなったら24時間営業のファストフード店やコンビニエンスストアに行けばいい。お手ごろな食べ放題コースがあるレストランなら、いつでもお腹いっぱい食べられる──。今から50年ほど前に広がり始めたこのような食環境は、今や日本人にとって当たり前のものになった。
ここで質問。
皆さんは「ああ、お腹がぺこぺこだ」と感じてから食事をすることは、週に何回くらいあるだろうか?
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かつて人間は空腹により、生き延びるための頭を使った
オフィス内ではパソコンに向かう仕事時間が長くなり、家では全自動の洗濯機や食洗機、ロボット掃除機などを利用する機会が増えてしまったために、しっかり体を動かし、食事でとったエネルギーを使い切り、爽快な空腹感を感じる機会が減っているのではないだろうか?
かつて人間は空腹を合図に
生き延びるために頭を使った
日本人のための科学的に正しい食事術 西沢邦浩
本コラム著者・西沢邦浩氏の最新刊
人類の誕生以来、つい最近まで、私たちはずっと飢餓や空腹と闘い続けてきた。空腹になったときに体をどう調整するかということに関して、私たちの体は何十万年にも及ぶ経験値を遺伝子に刻みこんでいる。
お腹が減るというのは、前に食べた食事の消化吸収が終わったという合図で、お腹がグーッと鳴る音は、腸が蠕動運動を始めたしるし。消化吸収が終わり、体が排泄モードになったということだ。そのため、「モチリン」というホルモンが働いて、排泄に向けて腸の動きを活発にする。
排泄モードになるのと同時に次の食事を受け入れる準備も整うので、胃から脳に向かって「グレリン」というホルモンが分泌される。グレリンは空腹だという信号を脳に届けつつ、短期記憶を担う大脳の海馬に、もともとはこんなメッセージを送っていたに違いない。
「どうやって前の食事を得たか思い出して、行動を起こせ! さもないとこのままでは先がないかもしれない」
空腹を合図にして、生き延びるために頭を使うこと──これこそが、人類の脳が発達した理由の一つではないだろうか。
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飢餓から飽食への時代変化に人間の体はまだ対応できていない
空腹時間がある程度続くと、エネルギーを無駄遣いしないようエコモードのスイッチも入る。さらに、長寿遺伝子と呼ばれる遺伝子群を活性化させて、次に食事にありつけるまでの間、生き延びるための身体機能を高めようとするのだ。
飽食への時代変化に対応できない
人間の体の悲鳴が生活習慣病か?
私たちの細胞は常に活動を行っているが、燃料を燃やしてエネルギーをつくるので、当然ゴミが出たり、壊れる箇所が出てきたりもする。これらの修復作業が活発になるのも空腹のとき。オートファジー(自食作用)機能が活性化することにより、細胞中の要らないゴミを処理し、再生させることがわかってきた。
これは2016年に東京工業大学の大隅栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した学説だ。
一方、日本人が「お腹が減ってもいないのに食事をする」というような、恵まれた食環境で暮らせるようになったのは、ほんのここ半世紀程度のこと。
まだ経験が十分ではない。
そのため、空腹を感じていないのに次の食事を食べてしまったら、体は排泄モードになるタイミングや、細胞再生スイッチをオンにするきっかけを逸してしまうおそれもある。
このような、心身の声と唱和しない食行動が排泄障害、つまり便秘の原因の一つなのかもしれないし、飽食に対応ができていない体の困惑と悲鳴が、肥満や2型糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病だ、ともいえるのではないだろうか?
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アカゲザルの研究が証明!過食で老化が進行&寿命も縮む
アカゲザルの研究が証明!
過食で老化が進行&寿命も縮む
人間では実施が難しい試験だが、1980年代後半に、米国の2つの施設で、食べたい量の食事を食べられるアカゲザルと、カロリー制限をした食事で生活するアカゲザルの健康状態や寿命を比較調査する研究が始まった。2つの施設とは、米国立老化研究所(NIA)と米ウィスコンシン大学。
平均寿命約27年のアカゲザル(以下サル)を、30年以上にわたって観察し続けるという、息の長い研究だ。
NIAでもウィスコンシン大でも、カロリー制限群のサルの食事では、好きに食べられる(自由摂食)サルたちの食事に比べ、約3割のカロリーカットをした。しかし、自由摂食とはいっても、サルたちの食事は、2つの施設で内容が異なった。NIAでは、ほぼ好きに食べてもいいが過食にならない程度には抑えられ、しかも大豆や魚といった“よい食材”も入った食事だった。
一方、ウィスコンシン大のサルは、本当の“食べ放題”で、砂糖を多く与えられるなど、栄養組成もあまりよくなかった。いわば、過食かつ栄養バランスも悪いという食事内容だ。
老化に関連する病気の発症率 カロリー制限で老化関連死が減少
カロリーを制限すると、過食による老化が穏やかになり、長寿化にも寄与
さて、観察の結果はどうだったのだろう。
ウィスコンシン大のカロリー制限サルでは、明らかな寿命延長効果があったが、NIAのサルでは明確な差が出なかった。その後、両大学で双方の研究結果を一緒に分析した結果、やはり、カロリー制限食には、加齢に伴う病気のリスクの低下や、健康寿命を延ばす効果があることがわかり、2017年に共同で論文を発表した。
公開されたウィスコンシン大のサルの写真を見ると、カロリー過多で栄養バランスが悪い食事をしたサルたちは、同い年の他のサルに比べて明らかに見た目が老けていたことに驚く。この結果は、食べ方による老化の進行は見た目にまで表れるとして話題を呼んだ(図参照)。
貝原益軒が『養生訓』に記した「食事は腹七、八分でやめること。食べ過ぎると病気になる危険性がある」という考え方は、まさに正鵠を射ていたというわけだ。
300年の時を経て、その理論の実証がようやく果たされようとしている。
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