朱き帝国
架空戦記のSSを紹介します。
お題はファンタジー世界に現実の国家が召還されてしまうものです。
マナの枯渇によって亡国の危機に瀕した魔法王国は、
召喚魔法によってマナや奴隷の供給源となる異世界の大地を召び出そうと試みます。
魔法は成功、しかし呼び出されたのが第二次世界大戦真っ直中の赤熊ことソヴィエト連邦
そして、行き成り戦争を仕掛けた異世界にソビエト連邦は圧倒的な火力を持って容赦なく蹂躙するのであった……。
(こんな事が…果たして起こりえるのか!?)
此処には列強モラヴィア軍の精鋭5個兵団、80000の軍勢が居たのだ。
それが僅か数刻の間に地上から抹殺されたなど、もはや人間の成し得る技とは思えない。
まるで神話に出てくる、おごり高ぶった古代魔道文明を滅亡させた黙示録の軍勢ではないか。
魔術師としての矜持、これまで自身の抱いていた常識、その全てが覆され、彼女は蹲って嗚咽を漏らした。
それを見咎める彼女の部下も、上官も最早いない。
「貴女が正しかったというの?ねぇ、ノーラ」
出征に先立ち、王都で言葉を交わした魔術学院時代の同輩を思い出す。
死霊魔術の名門として名を馳せるバーテルス家の次期当主でもあるかつての学友は殆ど泣き出さんばかりの表情でクラリッサの身を案じていた。
一月前に王都に帰還していた異界調査団の一員として、彼女の脳裏には壊滅した異界進駐軍のことがいつまでも消えない。
自身と直接言葉を交わしたベンソン男爵をはじめ、多くの魔術師があの戦いで命を落としている。
まるで今生の別れであるかのように涙する友人を、クラリッサは半ば辟易としながらも宥めたものだ。
彼女からすれば大陸でもっとも進んだ魔道技術を有するモラヴィア軍が敗北するなど想像の埒外であったから。
クラリッサはあの時の自分が抱いていた根拠のない確信を思い起こして、乾いた笑みを零した。
打ちひしがれる彼女の耳に、小さく地鳴りが聞こえた。
徐々に大きくなっていくその音に、顔を上げる。
眼前に映った光景に、クラリッサは目を大きく見開いた。
周囲を圧する地鳴りとともに、砂埃を撒き散らしながら進んでくる鋼鉄の獣の群れ。
砲撃で耕された大地を埋めつくさんばかりに、異界の大軍勢が邁進してくる。
それを食い止めるべきモラヴィア魔道軍は、既にない。
ソヴィエト赤軍によるモラヴィア東部属領制圧戦、作戦名『クトゥーゾフ』が開始されたのだ。
異世界が赤熊に飲み込まれる(汗)