Fate/EXTRA NEET
「もしもジナコが隠れることができず、聖杯戦争に参加したら?」そんなIFストーリーのエクストラのSSです。
本来戦争に参加せずひたすら隠れていたが、
聖杯戦争が終わると同時に学校ごと消される事実に耐え切れず、発狂。
記憶を失い月の裏側に落ちる、それが本来の物語であったがAIであるサドマゾシスターカレンによって強制参加。
嫌だ面倒だと状況に流されつつも、初戦の対戦相手でありながらもジナコを導いた臥籐門司。
マスターの自堕落ぶりに辟易しつつもジナコを決して見捨てないサーヴァント、カルナ。
さらに多くの強敵や困難に出会うたびに徐々にジナコの意識は変わり、聖杯戦争を己の意思で駆け抜けるようになる…。
あったかもしれないIFストーリ。
それもジナコ主役と非常に珍しいSSです。
2013年から掲載を開始し現在もボチボチと連載しており今後の更新も期待できそうです。
「いいんだよカルナ。アタシの聖杯戦争は終わったんだ」
そう言いながらアタシは用務員室のドアに手をかける。
そこで違和感に気がついた。
「あ、開かない!?」
用務員室のドアは押しても引いてもビクともしなかった。
なんで!?
どうして!?
さっき来た時はすんなり開いたのに!
「カルナ!」
「俺にも無理だ。かなり強固に施錠、いや『封印』されている」
アタシはその場にへたりこんだ。
今この時決定的な ”何か” がずれ始めている気がしたのだ。
理由のない悪寒がアタシの体を走り抜ける。
「ふふ……残念でしたね。そこは閉めさせて頂きました」
その時突然響いた声と共に虚空から一人の少女が姿を現した。
黒い修道服に身を包んだその少女はスカートの裾をつまむと銀色の髪を揺らしながら優雅に一礼する。
「今回の聖杯戦争で皆様の健康管理AIを務めさせて頂きますカレン・オルテンシアと申します。以後お見知りおきを」
「あんたっスか。ここを封印したのは!
ジナコさんの理想郷を返すっス!この場所があればジナコさんの心は不死身っス! 何度でも蘇るっス!」
「だまりなさい。このメス豚が」
優雅な態度としかしその口から出た暴言とのギャップにアタシの頭がフリーズする。
え? 今なんて言ったのあの子?
メス豚? メス豚って言ったよね?
えっとこっちにいるのはボクとカルナさんでー。
カルナさんは男だからー。
メス豚ってアタシのことかゴラァァァァァァァァァァァ!
「戦いもせずに安全な場所で怠惰に死を待つ。
そんな生き物は人ではなく豚でしょう。ブヒーって鳴いてもいいんですよ?」
「ジナコさんをブヒらせたいならショタなサーヴァントでも連れてくるっス!
小娘がぁ、年上に対する口の利き方を教えてあげないといけないようっスね! カルナ先生やっちゃってください!」
「落ち着けジナコ。その女は聖杯戦争を司る上級AIだ。俺でも手出しはできん」
動かないカルナを見てカレンは微笑む。
「その通りです。豚にしてはいい犬を連れていますね。豚に真珠とはこのことかしら」
また豚って言ったよこの小娘。
ジナコさんはむっちりボディなだけなんスよ!
しかもまだピチピチの20代っス!
「ギリギリだがな」
シャラップ! ジナコさんは永遠の23歳っス!
「私に健康管理AIの役目が回ってきた以上怠惰に死を待つなど許しません。
あなたにはきちんと ”戦って” 死んでもらいます」
「健康管理AIの言うことじゃないっスね。バグってるんスか?」
「あら、別におかしなことではないでしょう?
生かすも殺すも『管理』するという点では同じこと。
あなたは特に念入りに管理して差し上げますわ。主に殺す方向で」
そう言ってカレンは嬉しそうに笑う。
こいつは絶対にサディストだ。
それも飛びっきりの。
呆然と地面にへたりこんでいるアタシの様に満足したのかカレンはこちらに背を向けた。
「では、ごきげんようジナ豚さん。
くれぐれも戦いから逃げようなどと思わないことです。
あなたは必ず戦いの中で ”殺して” 差し上げますから」
そう言うとカレンの姿は掻き消えた。
逃げられない。
漠然とだがそう確信できる。
戦う? アタシが? この聖杯戦争で?
「あのようなAIがいたとはな。戦いは避けられそうにないぞジナコ」
カルナの声が遠くに聞こえる。
アタシの聖杯戦争が今、始まったのだ。