オール・ユー・ニード・イズ・吉良~死に戻りの赤穂事件~
江戸時代、赤穂浪士が主君の敵討ちとして歴史の名が残った赤穂事件。
その敵役として死した吉良上野介義央は赤穂浪士の武林唯七に討ち取られて死亡。
しかし意識は再び襲撃を受ける当日の朝に逆行。
そしてその夜に再び死して、また襲撃当日の朝に意識が逆行。
以降、吉良上野介義央は死に戻りを繰り返し、
この因果から逃れるべく策を練り、自分自身を鍛えてゆく・・・。
All You Need Is Kill の江戸時代版ともいえる作品です。
作者は異世界から帰ったら江戸なのであるなどを執筆されている方なので文章的に安心して読めます。
ぜひ読んでみてください。
「さて……おい、今日は誰ぞ訪ねてくる予定があったか?」
吉良がそう尋ねると、彼の隠居前から仕えている家老の左右田重次が出てきた。
吉良は隠居したものの当主の義周は江戸城で仕える役目には就いていないので、江戸住まいの家老らもそれなりに暇をしている。
だが彼の応えた言葉に吉良は固まる。
「本日は……山田宗偏様と茶会の予定がございます」
「な……」
山田宗偏。宗偏流の茶道を起こした、本所に住まう僧であり吉良が隠居してからは家も近いこともあって、度々茶会を開いていた相手でもある。
それは良いのだが。
彼とは昨日も茶会をしなかっただろうか──正確に言えば、あの無残な夢に繋がる昨日の昼間に。
記憶が、蘇る。
ハッキリと、これから起こる茶会で行う話題や茶の味なども吉良の記憶に再現されていく。
彼は無意識に、槍の突き刺さった脇腹を押さえながら重次に尋ねた。
「のう、重次──今日は何日だ?」
「師走の十四日でございますが……」
吉良は、狐に頬をつままれたような気分になった。
それは彼が昨日だと思っていた──殺された日の日付である。