二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

幕間の魔女「芋大尉の日常」

2021-07-17 22:38:41 | ヴァルハラの乙女

◇煙草の話

「こんな光景、他の隊員には見せられないな・・・」

三条の紫煙が揺らめく中、ワタシは発言した。

「そうよね、ウィッチの喫煙は黙認されている。
 と言っても、「黙認」であって「公認」ではないし、
 ルッキーニさんとか子供が真似しそうだし、皆の前で吸うのはちょっと、ね・・・」

紫煙の主、その一人目であるミーナが頷いた。
細長いシガレットホルダーで吸う姿は「女侯爵」の二つ名らしく、どこか貴族的な余裕と優雅を感じさせる。

軍隊と煙草は切っても切り離せない関係、
しかもこの時代は煙草は喉ごしが良いなんて言われていたから、
喫煙に抵抗感が薄いのを知っていたけど・・・しっかし、まさかミーナも煙草を吸うなんて・・・。

初めて知ったときは、本当に驚いた。
それこそ例えるならばクラスのお嬢様がNTRた挙句、
ガングロ化してチャラ男の象さん(意味深)なしだと以下略)な薄い本的展開に匹敵する衝撃だったな、うん。

まあ、ミーナは1日に葉巻を20本も吸うヘビースモーカーとして有名なガランド少将の副官を勤めていたし、
指揮官としてのし掛かる心理的重圧、有力者との会談やパーティーなどの付き合いで喫煙せざるを得ない機会が多いからなぁ・・・。

というか、この時代。
喫茶店には灰皿、マッチは必ず用意されているし、
映画館で映画を上映していても、飛行機の中、列車の中でも平気で煙草を吸っている。
おまけに、ポイ捨ても平気でやるし喫煙者にとっては天国のような時代だ。

「ミーナの言うとおりだ、子供は大人に憧れる。
 ルッキーニだけでなく、宮藤もリーネも真似するだろうな」

紫煙の主、その二人目である坂本少佐が呟いた。
口にしているには前世でも有名な銘柄「ラッキーストライク」だ。
なお、ミーナも少佐と同じ銘柄をシガレットホルダーの先端に挿して吸っている。

よもや坂本少佐まで煙草の味を知っているなんて、意外すぎるが、
煙草の覚醒と鎮静作用に頼らざるを得ない戦場にずっと身を置いてきたせいなのと、
少佐もミーナと同じく付き合いで煙草を吸う機会が多く、それで煙草の味を覚えたと聞いた。

・・・JG52にいた時を思い出すな。
ヨハンナ、ラル、クルピンスキー、3人とも腕前は確かだったけど、
所詮は新米少尉に過ぎず、真の将校として人を率いるにはあと数年の歳月が必要だっただろう。

だけど、ネウロイ戦争で経験を積んだ先輩ウィッチは消耗戦の果てに次々と倒れ伏せ、
気づけば、中尉に昇進してみんな中隊長として職務を任されるようになってしまったんだ。

なおワタシとヨハンナに至っては最後は3個中隊を束ねる飛行隊司令まで昇進してしまった。
平時ならば経験豊富な大尉、あるいは少佐が受け持つ役職にも関わらず新米中尉が、である。

あの当時、人は簡単に死んでいった。

1度の出撃で発生する未帰還率は3割。
出撃する度に誰かが戦死するか、戻ってきても誰かが重症を負って飛べなくなった。

12歳どころか、場合によっては10歳程度の少女がである!

ヨハンナは両足を切断するしかなかった部下から恨み言を吐かれて精神的にかなり追い詰められたし、
ラルは「自分が嫌われ役になれば良い」と開き直ってあの図々しい鉄仮面を被ったけど、ストレスで味覚がおかしくなった。

クルピンスキーは言動、女遊びな行動こそ変わってなかったけど、
部下を庇って撃墜される回数も増えて、誰かが戦死する度に密かに大泣きし、酔いつぶれていた。

そんな中、煙草は戦地では数少ない娯楽であり、
煙草の覚醒と鎮静作用は戦場で荒んだ精神を安定させるのに必要不可欠であった。
皆で集まって煙草を吹かしながら、喧嘩したり、議論したり、泣いたり、笑ったりしたんだ。

もう5年、あるいはたった5年前の話で、
まだ15歳どころか13歳の時だけど、何もかも懐かしい青春だった――――。

「少佐、宮藤については問題ないかと。
 何せ未だ中学校に在籍しているので一度煙草を吸えば一発で退学間違いなしですから」

「む、そう言えばそうだったな。
 すっかり銃後の常識を失念していたな、いかんな」

「本当ね・・・『普通の』女の子なら10代で煙草なんて吸わない、そんな常識を忘れてしまうわ・・・」

そう、『普通』ならそうだ。
『普通』の女の子なら煙草なんて吸わないし、頼らない。
軍隊と一般社会の常識の間には、大きな溝があり、長い軍隊生活がそれを忘れてしまう。

「それにです、」

紙巻煙草を吸っている2人と違い、
こちらはパイプだから炉に火を保たせるように、一度息を吹く。

「それに、喫煙習慣があっても進んであの3人に煙草を勧めるようなウィッチはこの部隊にいませんから」

エーリカに煙草を教えたチャラ女・・・。
もとい、クルピンスキーのように「楽しい軍隊生活」を先輩として教えるウィッチはいない。

本当、501にいるウィッチはミーナが言ってたように「良い子」ばかりである。
JGG52は確かに精鋭部隊だったけど「プライベートは深く関与しない」とラルが宣言したように、
私生活において非常に癖が・・・ぶっちゃけ、問題児なウィッチが大勢所属する愚連隊な所があったな、そうそう。

だけど塹壕貴族(自分がそのあだ名をつけた)もとい、
ボニン司令はそんな部隊について頭を痛めるどころか、むしろ楽しんでいた気がする。

「えっ?喫煙習慣って・・・私達以外にいるの?」

「うん、ミーナ。
 意外かもしれないけど、いるんだよ。
 正確には「昔は喫煙習慣があった」だけどエイラ、
 シャーリー、この2人、実は煙草を吸っていたんだ」

「シャーリーならまあ無くはないが、エイラが?以外だな・・・」

それについてはワタシも同意する。
黙っていれば清楚系な美女である上に、
リアル北欧系銀髪美少女なエイラが煙草を吸っていた。
なんて事実はショッキング極まる事実なのは間違いない。

「切っ掛けは原隊にいた時、
 先輩ウィッチから喫煙を勧められてからだそうですよ、少佐」

「あーーー・・・先輩から勧められ喫煙を始めたのか、よくある話だな」

「その辺の事情はどこも変わらないのね・・・」

坂本少佐とミーナが「あるある」と頷く。
「先輩から勧められて喫煙を始めた」なんて話は【前世】からよくある話だ。

だけどこれが、ケモノ耳と尻尾を生やし、空を飛んで戦う魔法少女でも、
こうした生臭い話が絡むなんて、少し面白く、笑ってしまいそうだ。
ただし、エイラの喫煙についてそうせざるを得ない事情もあった。

「スオムスは白夜の季節になればほぼ丸1日昼間の様に明るくなり、
 殆ど寝る暇も無く戦う羽目になりますから、眠気覚ましと疲労を誤魔化すのに煙草が必要だったそうです。
 501に来て暫くは隠れて喫煙していましたけど、今はサーニャに嫌われるのが嫌で辞めた、と本人が言ってました」

堂々と吸わずに隠れて吸っていたのも本人曰く、
「ウィッチ用の食堂や休憩所に灰皿がないので、部隊に定められた暗黙の規定を察したから」と言う辺り、
エイラは見てくれこそ二次元から飛び出たリアル美少女だけど気質は周囲の空気が読める下士官そのものだ。

傍から見ればボンヤリしているミステリアスな美少女だけど、
10歳の時からずっと戦ってきただけあって「軍隊」の気風、阿吽の呼吸を知り尽くしている。

・・・おっと。

「2人とも、どうぞ」

二服目の喫煙を始めようとする2人に対してジッポを点火する。
「あら、ありがとう」「すまないな」と感謝の言葉を受ける。

「ふぅーーーー・・・。
 成る程、エイラさんにそんな事情があったなんて」

「流石、バルクホルンだな。
 ミーナと私では知り得ぬ隊員ことを把握できるとは」

仲良く1つの火種を分かち合った2人から称賛される。
金ピカの将軍閣下よりもずっと、嬉しい称賛だ。

「何てことありませんよ、
 エイラと一緒にサウナに入って雑談する最中に知った話です」

だけど、ワタシは昔から素直に誉められた時の受け止め方が下手くそだ。
この称賛は本来あるべき「彼女」が受けるべきだと思っているからだ。
だから今日も後ろめたさ、照れ臭さを誤魔化すようにパイプを吹かした。

「シャーリーさんは?」

「シャーリーについては地方(一般社会)にいた時から吸っていたそうだ、ミーナ。
 理由は単純明確、大人から女性らしくしろだの、あーだ、こーだ、と言われて反骨精神を拗らせたからだ、と言っていたな」

この世界では歴史の節目節目にウィッチが活躍し、
「ライト姉妹」のように社会と人類の進歩を助けた経緯から「史実」より女性の地位は高い。
だけど、それでも男女の性差はあるし大人が求める「女性らしさ」は今も昔も変わっていない。

「シャーリーは機械弄りが得意で、
 自身もバイクのレースに出場できる程の腕前なので、
 絶賛も多かったですが「女性らしくない」と難癖も相応にあったんだ」

同性からも叩かれたと聞いている。
ハッキリ言って八つ当たり、それと嫉妬だろう。
何せ唯でさえウィッチ、というだけでも同性から嫉妬の対象となりうる。

しかしシャーリーからすれば努力して得た結果であり、
何も行動せず、アレコレ言う連中なんてふざけた話であり、
「女性らしさ」とやらを押し付ける大人と女性に対し怒りを覚えて当然だ。

そして反抗心を拗らせた10代の少女がやる事なんて――――まあ、喫煙一択であった。

「・・・シャーリーらしい、
 と言えばらしいが、意外と苦労しているんだな、シャーリーも」

ぽつり、と坂本少佐が呟いた。

「出る杭は打たれる、
 どこも事情は同じかもしれませんね。
 ですが、今はルッキーニの面倒を見たり、
 自由にストライカーユニットを改造できたりと、
 楽しい事、好きな事が山程あるから、喫煙する暇なんてないと笑ってました」

自分のやりたい事、好きな事を見つけ、
それに向かって努力を惜しまない――――。

本当に羨ましい。
【前世】も含めて自分のやりたい事、好きな事が分からず、
軍人になってネウロイを叩き落とす事でようやく承認欲求を満たせた自分とは大違いだ。

まあ、いい。
どうせ自分はいつか戦死する。
最近は平和になった後の世界の行く末を見てみたい欲求があるけど、その道のりは未だ遠い。

それよりも「ストライカーウィッチーズ」の主人公である宮藤芳佳を守り通す。
彼女さえ生きていれば、必ずネウロイを地上から殲滅してくれる、絶対にだ。
人類数十億の命運は彼女に掛かっていると言って良い、だから自分の命は捨てても元は十分取れる。

何も問題ない、そう何も。
それだけを生き甲斐に今日まで生きて来たのだから。

「トゥルーデ、少し顔が怖いわよ・・・?」
「ん・・・そうか、ミーナ?」

心配そうにミーナが自分を覗いている。
こんな時、どうすべきか分かっている。

「いや、隠さない方がいいか。
 シャーリーが羨ましいな、と思ったんだ、ミーナ。
 好きな事を見つけて、好きな事に邁進するシャーリーが。
 軍人になるしか道はなかったし、軍人であることにしか意義が見いだせない自分と違って」

【嘘は言っていないが、本当の事は言わず、道をずらす】これに限る。
こうして自分の気持ちを騙し、周りの人間を騙して来た、ずっとだ。

ミーナは優しい、ワタシが知る誰よりも優しく、強く、情を知る人物だ。
だから「宮藤芳佳を守り抜くために戦死しても問題ない」なんて事実を知って心配させたくない。

「幼い頃に親を亡くして、引き取られた遠縁の親戚は軍人貴族な家系だから、
 ウィッチとして軍人になるしかなかったし、将来の婚約まで周囲から言われていたから余計に、な」

気づいたら「ストライクウィッチーズ」のゲルトルート・バルクホルンに転生していた。
しかもクリスを除いて実の家族がトラックの事故で全滅していた、本当に訳が分からなかった。
おまけに引き取られた親戚が【あの】ゴトフリードなバルクホルンだったから当時気分はもう銀河猫状態だった。

そんなんだから、この世界は「ストライクウィッチーズ」ではなく、
バルクホルンをメインヒロインにしたや○夫スレか!?と昔は悩んでも仕方がない事を真剣に悩んだな。

「ごふぅ!!、げほ!げほげほ!!
 こ、婚約!?バ、ババババ・・・バルクホルン!それは本当か!!?」

坂本少佐が妙に狼狽している、解せぬ。
というか、ここまで慌てふためている姿なんて初めてかもしれない。

「けほ、けほ・・・あ、あのね、トゥルーデ。
 普通は驚くわよ、というより落ち着いている貴女の方が驚きよ」

ミーナまで言われてしまう、何故だ?

「『身寄りのないウィッチを養女として迎えて、一族の息子と結婚させる』なんてよくある話だろ、ミーナ?」

美少女で魔法が使えるウィッチには希少価値があり、社会的なステータスシンボルだ。
だから歴史上、身寄りのないウィッチを権力者が育てて一族に迎える、なんてことはよくあった。

ましてやユンカーだ。
華やかな宮殿文化で骨抜きにされた軟弱なガリア貴族と違って、
己の勇武、御恩と奉公が商売な武士の類だから強い血、太古の昔から戦場に立つウィッチの血統は絶対に必要だ。

「それに妾とか、家内労働者とかではなく周囲の扱いは正妻。
 しかも、士官学校に入れる程度に教育してくれたから、ワタシは運が良いよ」

本当に運が良かった。
いくらウィッチとして覚醒している。
と言ってもウィッチとして正しく力を制御する訓練が必要だった。

加えて社会常識、それに言語もしばらく怪しい状態だったから、
もう一度学びなおす必要があり、それら全てを丁寧に教えてくれた人たちに巡り合えたのは運が良かった。

しっかし、よもや自分が「あの」ゴトフリードのお嫁さん候補とは・・・。
おじさんは軍人貴族家系だからと言って、ワタシまで無理に軍人になる必要はないし、
ましてや「息子の結婚相手」なんて考えていなくて単に「可愛い娘が増えて嬉しい」というスタンスだったけど、

周囲の人間は尚武と勇武の一族としてウィッチになった以上、軍人になるのが当然。
そして、自分をサーベルタイガーと一緒に引き取られた某魔王の義姉のように見ていたし、そう扱おうとしていた。

昔はそう囃し立てる周囲の人間に色々思う所があったけど、
ネウロイ戦争で大半は戦死してしまったから、今は少し寂しい気持ちが勝る。

「トゥルーデ、貴女・・・・・・」
「バルクホルン・・・・・・」

等と少し回想してたけど、
何故か2人揃って泣きそうな顔でこっちを見ていた――――理由が分からない。



◇服の話

「しっかし、ゲルト。
 お前マジで自然に着こなせているな、扶桑の服」

しげしげと、ワタシを観察していたシャーリーが呟いた。

「宮藤からも言われたが、そう見えるのか?」

今の自分は少佐の銃剣道に付き合っていたので胴着と袴姿であるが、
以前からどういう訳か、異口同音に扶桑の装束が似合っていると言われている。

「見えるさ、ゲルト。
『服を着るだけ』なら誰だってできるけど、
『服に合わせた細かい仕草』なんて簡単じゃないぞ。
 おまけに慣れない服にも関わらずリラックスしているし、私には無理だぜ」

「・・・仕草、か」

まさか仕草とは、ね。
【前世】から転生してから少しの間は男女の違い、
肉体の大きさが違うから体の動かし方すら違和感を覚えて大変だった。

「ゲルトは大抵の事なら何だって出来るから、マジで尊敬するぜ」

「何でもは知らないさ。
 知っていることしかできないだけだよ、シャーリー」

誉めるシャーリーに対して、
リベリオン人のようにヤレヤレと大袈裟なポーズをした。


◇髪の話

「トゥルーデ、少し伸びたよね」

エーリカの部屋で片づけを終えた後。
2人でベットに寝転がり、それぞれ好きな事をしていた最中にエーリカが言いだした。

「言われて見れば伸びたな、髪が」

Ta152のマニュアルから目を離し、
腰まで、とは行かないが相応に延びた髪を摘まむ。
色々あって切るのを後回しにしていたけど、流石に切った方がよいだろう。

長い髪は暑いし、何よりも手入れが面倒くさい。
女性の髪は繊細だから【前世】のように頭をガシガシ洗って終了!とはいかない。

しかも乾かすのにも手間隙と労力を要求されている。
まったくもって面倒なのだ、長いとアレもコレもやらなきゃならない。

「んん、でもいっそこのまま伸ばしたら?
 トゥルーデの髪質って、少佐に似て湿度を帯びているから長髪も似合うと思うけど」

エーリカがワタシの髪を撫でつつ呟いた。

「長髪は手入れが面倒だぞ、エーリカ。
 しかも、この基地は常に潮風に晒されているから、余計に手間が掛かる。
 化粧なんてしたことがない少佐でも、髪については毎日手入れを欠かせていないんだ」

坂本少佐、といえば【原作】のズレた性格と行動から、
女性らしい身だしなみについて関心がないと思っていたけど、
髪の手入れはその仕草に色気すら覚える程丁寧にしていたから、初見は心臓が止まるかと思った。

「それに髪を伸ばすなら、エーリカが伸ばせばいいじゃないか。
 エーリカの金髪は秋の麦穂、金糸みたいに繊細で綺麗だから伸ばして損はない」

転生して初めて知ったが欧米人、
中でもドイツ人と言えば金髪!のイメージが強いけど、意外とそうではない。
大半は自分のような栗毛か、金髪であっても別の色が乗算された色合いをした人が多い。
真面目な話、エーリカのような綺麗な金髪とは銀髪と同じくらい結構レアな色なのだ。

「えぇー、ヤダし。
 私の髪質は乾燥気味だから、今でも手入れが面倒なんだよねー。
 あっ、これから毎朝トゥルーデが手入れしてくれるなら、伸ばしてもいいかも」

「自分で手入れしろ」

エーリカの髪を櫛で梳かしながら答える。
吾ながら酷い矛盾である。

この子ははものぐさで、残念な言動と態度をしているが、
良いとこで育ったせいか自分で髪を手入れする時はちゃんと丁寧にする方である。

そういえばマルセイユも見かけに反して、髪の手入れは本当に丁寧だった。

性格、態度は生意気なクソガキそのもので、
煙草を一丁前に吹かそうとしてヤニクラで倒れたり、
深夜まで大騒ぎした挙げ句、飲み過ぎによる体調不良で出撃できなかったりと、兎に角問題児だった。

だけど、髪の手入れ。
その時だけは普段の唯我独尊な振る舞いは消え失せ、1人静かにゆっくりと手入れをしていた。

何せあの見た目で、あの長い髪だ。
それを静かに手入れしている姿は美しく、本当に綺麗だった――――。

「・・・今、ハンナの事、考えてたでしょ?」

過去の思い出に浸っていたらエーリカが鋭い一撃を放った。
背中しか見えないが「面白くない」という態度を全身から発している・・・なんでさ、というか。

「・・・何故、分かったんだ?」
「トゥルーデの雰囲気から『ハンナは可愛くて格好よかったなー』って感じだったし、分かるし」

顔を見ずに雰囲気だけで分かるなんてエスパーか!?
あ、そう言えば魔女か・・・。

「私、トゥルーデの事なら何でも知っているもんね~」

そう言うと、エーリカは鼻歌を歌い出した。

「かなわないなぁ・・・」

小さくても誰よりも聡い友人にワタシはお手上げするほかなかった。


 

 

 

 

 

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第41話「魔女たちの夜戦 下」

2021-07-03 20:07:50 | ヴァルハラの乙女

 「あれ、・・・?」

宮藤の意識が覚醒する。
しかし、前後の記憶がはっきりしない。
どうやら柔らかい何かに抱かれているようで、無意識に顔を埋め、再度眠りに入ろうとしたが、

「・・・気づいたかっ!宮藤、宮藤!!」

「あれ、あれ・・・?
 バルク、ホルン、さん?」

扶桑語で話しかけられ、宮藤の意識が完全に覚醒した。

「ね、ネウロイ!ネウロイは!?
 それに、私、確かサーニャちゃんを庇って撃墜されて・・・」

そして全てを思い出す。
夜間哨戒の最中に受けたネウロイの攻撃。
シールドの展開が間に合わず、視界の隅まで光線の光で満たされたところまで全てを思い出した。

「ワタシが拾ったんだ。
 宮藤のストライカーユニットは全損、今は素足で武器も紛失。
 ワタシ自身も救助を優先したからMG42を2丁放棄・・・始末書ものだな。
 ああ、それとネウロイなら背後でストーキングしている、しかも現在進行形でな」

バルクホルンの語りを聞いた宮藤が首だけ動かして背後を確認する。
僅かに月明かりで照らされる灰色の雲の中、見えるものなどない、そのはずだ。

だが、見えた。
巨大な黒い輪郭が赤い灯火を照らしつつ追従していた。
時おり、黒板を引っ掻いたような不愉快極まる音が響いている。

ネウロイに追跡されている。
宮藤が理解した時、感情が激しく揺れ動きそうになったが、

「安心しろ。
 ワタシが何が何でも守って見せるし、
 怖いなら抱きつくんだ、それなら少しは気が紛れる」

どことなく、男性的な響きを含んだ声で優しくバルクホルンが語りかけた。

「あ、はい・・・じゃあ、遠慮なく」

言われておずおずと、腰に手を回して抱きしめ、顔をバルクホルンの双丘の狭間に埋める。
弾力と張り、それと吸いこんだ甘い香りと体温が心地よい。

「気持ちいいし、何だかほっとする・・・」

宮藤は思った事をつい口走った。

「・・・そうか、まあできれば、
 あまり動かないでいてくれないか?くすぐったくなるから」

どこか陽気に語る言葉と余裕のある口ぶりに宮藤は落ち着きを取り戻すと共に、

(なんだか詩人が雲を眺めて詩の文句をねっているみたい・・・)

そう内心で思い、バルクホルンさんは私と違って本当の兵隊さん、軍人さんなんだ。
と、宮藤は改めて尊敬をする。

「あのネウロイは賢い。
 こちらが雲の中から急いで出ようとすると上から覆い被さるような機動をして来たんだ。
 どうやら『ウィッチは視界不良な雲の中での戦闘は苦手』というのを理解しているようだ。
 だから今は距離を保ち、時計回りでゆっくりと旋回しつつ上昇しているところなんだ・・・」

ネウロイに気づいた素振りは見えていない。
賢い、と言ってもワタシはもっと賢いようだ、とバルクホルンが笑いつつ言った。

(本当に、バルクホルンさんは凄い人なんだ)

宮藤が尊敬の念を更に深め、顔を見上げるが・・・。

「え・・・?」
「・・・ん、宮藤?どうした」

声は何時もと変わらない。
綺麗で流暢な扶桑語で宮藤に語りかけている。
優しくも、どことなく男性的な響きを含んだ声でバルクホルンが語っている。

だが気配はまったく違っていた。
殺気や剣気といった分かりやすい気配ではない。
顔にこれといった喜怒哀楽の感情表現が現れておらず、普通の表情のままだ。

しかし、眼だけは違う。
言語化できないある種、狂信、狂気が宿っていた。
瞳は宮藤を見ていながら、宮藤でない『誰か』を見出していた。

そこにいたのは「バルクホルンさん」ではなく、
小さい時、母親から寝物語で聞いた人の形をしていながら、人でない『化け物』のようだった。

「なんでも、ないです・・・」

誤魔化すようにバルクホルンの胸に顔を沈める。
「色よし、張りよし、バルクホルン」とエイラが評したように、
張りがある胸の感触は楽しく、嬉しいはずだが、今はそうした気分になれなかった。

それよりも、命の恩人に対して恐怖を抱いてしまった事、
一瞬でも『化け物』なんて言葉を連想してしまった自分に対して自己嫌悪に陥った。

「・・・そうか?まあ、それよりも。そろそろ頃合いか・・」

バルクホルンが上を見上げる。
つられて宮藤も顔を上げるが相変わらず視界は悪い。
時おり見える月以外は何も見えない。

「頃合いって、何ですか?」

質問を口にする。

「簡単な話だよ、宮藤。
 サーニャとエイラが脱出の援護をそろそろしてくるはずだ。
 何せ、サーニャからすれば雲による視界の障壁なんて関係ない。
 しかも側には未来予知の固有魔法を有するエイラもいる。
 だから2人なら、我々が視界不良な雲の中にいても誤射を気にせず、脱出の援護射撃することができる」

「あっ・・・!!」

言われてみれば筋道が通った理屈である。
ネウロイに追われていることで頭が一杯だった宮藤には思いつかない発想である。

「ネウロイが複雑な機動をしていたら難しかったかもしれない。
 しかし、今はワタシ達を追跡して単調な旋回機動を続けている。
 ああ見えて実戦経験が豊富な2人は必ずこの機会を逃さな――――来たな」

突然数条のミサイルが話に割り込んで来た。
正面上方から降ってきたミサイルは追跡していたネウロイに向かって直進する。

ネウロイは慌てて急旋回して回避を試みるが、
かえって「的の方から近づく」ような結果となってしまい全弾直撃してしまう。

「動くぞ、しっかり掴まっているんだ。
 何せこのTa152は零戦よりずっと速いんだ」

そう言いつつバルクホルンが宮藤をしっかり抱きしめる。
別名、究極のレシプロストライカーとも言われているTa152は固有魔法を使用しなければ、
という条件付きならばスピード自慢のシャーリーすらも上回る速度と加速性能を誇る優れたストライカーユニットであった。

最大速度は時速760キロ。
対して宮藤が使用している零式艦上戦闘脚二二型甲は時速540キロ、実に200キロも差がある。

戦局を覆すと噂されているジェットストライカーユニットは、
魔道エンジンの耐久性と信頼性でTa152のユモ213魔道エンジンに劣っており、
対抗馬となりうるノースリベリオンXP51Gは試作以前に1944年の時点では未だ影も形もない青写真に過ぎず、
マフィアのラッキー・ルチアーノがジーナ・プレディを拉致監禁し、軍に採用を推薦するよう脅迫している最中であった。

つまり1944年の時点においてTa152に匹敵するストライカーユニットはどこにもなかった。

「わぁ!?」

上昇、そして急加速。
零戦では絶対に体験できない速度の世界に宮藤が動転する。

機械駆動式過給機にたっぷり酸素を吸い込ませ、パワー・ブーストを全力全開で始動。
排気ノズルからからは炎が噴き出し、光跡が雲海から駆け上がる流星のごとく尾を引く。

ウィッチが逃げたのに気付いたネウロイがビームを放つが、
狙いすましたかのようにフリーガーハマーの斉射を追加で受けてしまう。
直撃と同時にネウロイが吠える声が轟く、それはもはやむき出しの暴力的な音声だった。

そのネウロイの声を無視する形で、宮藤を抱えたバルクホルンが上へ、上へと昇り続ける。
徐々に雲が薄くなり、月明かりが強くなる中、とうとう雲の中から飛び出した。

『大尉が出た!
 しかも、宮藤も無事だ!やったなサーニャ!』

『うん!』

バルクホルンが雲から抜け出したのを確認したエイラとサーニャが歓喜の声を挙げる。
一定以上ネウロイにダメージを与えたお陰か、無線が回復している。

だが、安堵する余韻はなかった。
バルクホルンの後を追いかけるように、ネウロイもまた雲海から飛び出してきた。

「お前はこっち来んナ!!」

撃ち尽くしたフリーガーハマーからMG42に持ち替えたエイラが罵倒と共に鉛玉の嵐を降らせる。
しかし、ネウロイは正面から銃撃を浴びせられてもひるまず、突撃を続けている。

「サーニャ!」
「エイラ!」

サーニャがエイラの腕を掴んで回避行動をする。
直後、2人がいた空域に光線が通り過ぎ、雲が蒸発する。
何をすべきか、何をなすべきか、言わなくても2人の間では全て理解できていた。

「くっそ、あのネウロイ。
 散々サーニャのフリーガーハマーの斉射を受けて、まだ動けるのカヨ・・・」

未だ撃墜に至らぬネウロイを目視したエイラが愚痴を零す。
これまでの経験からすれば、既に撃墜できる程度に打撃を与えているはずである。

「そうでもないぞ、エイラ。
 あのネウロイ、かなり損傷を受けている。
 現に先ほどまであった無線妨害が止んでいる」

「お、大尉っ・・・!?
 っう、うん、無事でよかったナ!」

「何、2人のお陰さ」

エイラ達と合流したバルクホルンが語りかける。
改めて無事を確認できたエイラが喜ぶが、見たこともない威圧感を纏ったバルクホルンに戸惑う。

「さて、サーニャ、フリーガーハマーは弾切れで間違いないな?
 間違いなければ、済まないが宮藤を代わりに預かってくれないか?
 見ての通り、ストライカーユニットがない上に武器も落してしまったんだ」

「え、あ、はい・・・分かりました」

口調こそ丁寧で柔らかい物腰だが、
眼だけはギラギラと歪な輝きを見せるバルクホルンにサーニャは胸騒ぎを感じる。

「では、頼む。
 宮藤を守るんだ、サーニャ」

バルクホルンが腋に抱えていた宮藤を差し出す。
サーニャとの会話で普段と変わらぬ態度と表情、理性を保っている。

「はい、・・・」

いや、保っているからこそ、
狂信と理性が同居しているバルクホルンに対しサーニャは動揺し、
自分よりもずっと強いウィッチが見せた心の闇を深く追求しなかった。

「あ、あの。
 バルクホルンさん、私、ずっと足を引っ張って・・・」

「心配するな、宮藤。
 年下を守るのは年長者の役割であり、
 宮藤芳佳を何が何でも守り抜くのがワタシの役割だからな」

サーニャの腕の中で小さくなっている宮藤が謝罪を口にするが、バルクホルンが安心させるように励ます。
だが、少し考えれば「何が何でも守り抜く」とまで言い切る態度に違和感を覚えたはずだ。
何故ならバルクホルンの言葉に含まれた想いは、重過ぎるほど想いが込められていたからだ。

もっとも、この事実について誰も気づいていなかったが・・・。

「さて、始めるとするか・・・エイラは援護を頼む」

「・・・んなっ!?
 大尉も武器なんて護身用の拳銃しかないんじゃな!!」

返答を待たずにバルクホルンがネウロイに突撃を開始してエイラが慌てる。
宮藤の救出を優先したため、機関銃を破棄したバルクホルンに残された武器は豆鉄砲な拳銃だけ。
それにも関わらずネウロイに突撃したバルクホルンに対しエイラが慌てている。

同じようにネウロイも慌てているのか、
即座に始めたエイラの牽制射撃もあって対応が遅い。
光線を放つ暇もなく、バルクホルンの拳が届く距離まで肉薄されてしまう。

「狩りの時間だ」

バルクホルンがある種暗示、
それと験担ぎの意味を込めて呟くと、
左手に手にした予備の銃身を渾身の力を込めてネウロイに突き刺した。

「■■■■――――!!!??」

ネウロイの悲鳴と轟音が鳴り響く。
バルクホルンの固有魔法は怪力系、
ゆえに突き刺す、というより殴り刺すような重い一撃が突き刺さる。
衝撃で全身に割れ目、裂け目が生え、破片が周囲に飛び散る。

しかし、それでもネウロイは未だ其処にあった。
破壊された部位の修復もできぬほど弱っていたが、
大型ネウロイだけあって、耐久力は兎に角しぶとかった。

「意外と固いな・・・まあ、いい。ゲルトルートの狩りを知るがよい」

バルクホルンが拳を振り上げ、
まるで杭打ちハンマーのような勢いで突き刺した銃身を殴った。

再度、響き渡る轟音。
ネウロイの体内に銃身が突っ込んで征く。
体内を破壊しつつ、奥の奥まで突き進む。
やがて最深部に鎮座していたコアをも破壊した。

「ネウロイの反応・・・っ消滅しました!」
「・・・素手で殴ってネウロイを仕留めるナンテ、マジで姉ちゃんみたいダナ・・・」


魔導針でネウロイが爆裂四散したのを確認したサーニャが叫び、
対して目視で確認したエイラが故郷の言葉で破天荒な身内を回想する。

「バルクホルンさん!
 バルクホルンさんは大丈夫なの!サーニャちゃん!!」

サーニャの腕の中にいる宮藤が大声で騒ぐ。
数分前に生死の境目を経験したせいで、不安定な感情を処理しきれていなかった。

「大丈夫だよ、芳佳ちゃん」

サーニャが宮藤を胸に抱き締め、
慈母のごとく心優しい笑みを浮かべる。

「バルクホルン大尉は大丈夫だから、ほら」

視線の先には五体満足、変わらぬ姿のバルクホルンがおり、

「皆、待たせたな――――ただいま」

エイラ、サーニャ、宮藤の3人に対して軽く敬礼した。



◇   ◇   ◇



「おい?・・・大尉、怪我してるじゃないか!」

勝利の余韻に浸っている最中。宮藤、サーニャ、エイラの3人の中で、
実戦経験が豊富なエイラが真っ先にバルクホルンの怪我に気づいた。

「ん、ああ。
 ネウロイを殴った時、
 飛び散った破片が切ったみたいだな」

指摘されたバルクホルンは額から血が流れていたが、何ともないように答える。

「痛く、ないのですか?」

サーニャが心底心配そうに言う。

「正直に告白すると少し痛い、
 でもまあ、墜落して骨折したり、
 焼けた銃身で無理矢理止血した時と比べればずっと痛くないな・・・うふ」

散歩でもいくような口ぶりでバルクホルンが語る。
が、語られる内容は重く、醸し出す気配は異様であった。

「・・・バルクホルンさん!
 少し、私の方に来てくれませんか?」

血に酔った獣のような気配を及びたバルクホルンに対し、宮藤が唐突に叫んだ。

「・・・構わないが?」

バルクホルンが首を傾げる。
だが、特に断る理由もないでサーニャにお姫様抱っこされている宮藤の傍に寄り――――。

「バルクホルンさん・・・えいっ」

顔を掴まれ、額の切り傷を舐められた。

「芳佳ちゃん!?」
「ふぉお、宮藤。オマエ大胆だな!」

その場に居合わせたサーニャ、エイラが驚きの反応を示す。

「・・・!!!???!!!」

バルクホルンは宮藤に何をされているのか理解するのに時間がかかった。
しかし「傷を舐められている」のを理解した時、驚愕と羞恥心が混ざった悲鳴の声を漏らし、

「いや、何故ここで傷を舐める。
 という選択肢を選ぶんだ、宮藤!
 ごく普通に治癒魔法を掛けてしまえばいいだけじゃないか!」

常識的な突っ込みを入れた。

「だって、さっきまでのバルクホルンさんを治療するなら、これが一番だと思ったんです」

「な、はあああ、いや、どういう理屈だ?
 待て、だが、、まあ・・・そう、かもな」

自信満々に言う宮藤に対してバルクホルンが赤面する。
自分でも先ほどまで冷静、とは言いがたい状態であったのを自覚していたので、反論する言葉が思い付かなかった。

「えへへ、それにバルクホルンさんみたいな優しい人なら、
 女の子同士でもちっともイヤな気持ちにはならないですよ」

「え、ちょ、まっ!?」

聞きようによっては非常に危ない内容に、バルクホルンは動揺する。
獣のような殺意や威圧感がなくなり「戻って来た」

「モテモテだなー大尉、ひゅーひゅー!」
「ワタシをそんな目で見んなぁ!!」

「普段」のバルクホルンに戻ったのを確認したエイラが早速からかう。
弄られた側の人間は大声でわめく以外で対抗手段がなかった。

「芳佳ちゃんはとっても優しいのね」
「えへへ、それほどでも」

宮藤、バルクホルンのやり取りを見届けていたサーニャが口を開く。
ほめられた宮藤は、高ぶった気持ちの後押しを受けてネウロイのせいで言えなかったことを、ようやく口にした。

「あのね、今日は、実は今日は私の誕生日なんだ!」
「!・・・そう、なの、」

神の悪戯、としか言い様のない偶然にサーニャは大きく目を見開く。

「んふふふ、サーニャと同じだな」
「え・・・え、ええ?」

「知っている」エイラはニヤニヤと笑みを浮かべる。
何を指摘しているのか話題の渦中にある宮藤は即座に気づいた。

「え、嘘!私、サーニャちゃんと誕生日が同じなの!
 す、すっごいよ!誕生日が同じ人なんて初めて、本当に凄い奇跡だよ!」

誕生日が同じことを知った宮藤が興奮してはしゃぐ。

「・・・2人とも、誕生日おめでとう」
「はい、ありがとうございます!バルクホルンさん!」
「Спасибо、バルクホルン大尉・・・」

実はあと1人、同じ誕生日なウィッチがいるのを知るバルクホルンが祝福する。

歳を重ねる事を素直に喜べる、
ウィッチとして未だ若いがゆえに享受できる恩恵。
対して自分は今年で18歳、ウィッチとして「あと2年」しか戦えず、
最早年を重ねることが時限爆弾のように感じつつあったので――――嫉妬の感情が芽生えたが完璧に隠し、祝う。

「おい、この音楽っ・・・!!」
「嘘、またサーニャちゃんの歌、もしかしてまたネウロイ!!?」

インカムからまたもやサーニャの「歌」のメロディーが聞こえてくる。
エイラと宮藤は狼狽するが
「覚えていた」サーニャは違った。

「お父様の・・・ピアノ、」

金属を擦り付け、無理やり奏でていたネウロイの音律とはまったく違う。
上品な、そして優しさを秘めたピアノの音色は間違いなく人が奏でる音楽だった。

「どうやら、サーニャの誕生日を祝ってくれる人は我々だけでないらしい・・・よかったな」

「知っていた」バルクホルンはサーニャと違って実の親兄弟姉妹、
育ててくれた義兄の両親、義姉、その悉くを亡くしたが故に黒い感情が渦巻くが、理性で抑える。

そして、皆が普段から目にして求めている役者。
「ゲルトルート・バルクホルン大尉」として
二回目となる祝福の言葉を捧げた。





 

 

 

 

 



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IFの魔女「ヴァルハラの乙女1947 その3」

2021-05-10 23:42:27 | ヴァルハラの乙女



1947年時点のゲルトルート・バルクホルン。
中佐に昇進し、原隊の第52戦闘航空団の司令官として指揮している。
首には授与された黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章を着けている。

元々第52戦闘航空団は数多の撃墜王を輩出した武勇で知られる部隊だったが、
1947年からはついに撃墜機300機超えを成し遂げ、今後も破られることがない偉大な記録を残した3人。
俗に「トリプル・スリー・ハンドレット・オーバーズ」と称賛されるウィッチが、戦闘航空団司令、飛行隊司令として指揮を執るようになった。

戦闘航空団司令はゲルトルート・バルクホルン。
第Ⅰ飛行隊司令はエーリカ・ハルトマン。
第Ⅱ飛行隊司令はハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。

以上の3人がそれぞれ指揮をしている。
気心が知れた3人による部隊指揮能力は際立っており、
カールスラントを代表する精鋭部隊としてその名を轟かせている。

もっとも、昔を知る仲間達は先にウィッチとしての寿命を迎えてしまい、
多くは後方勤務に移動、ないし退役するなど一線から退いてしまったため、部隊にはいない・・・。

ベルリン解放後の南カールスラントの奪還とオストマルク解放において戦果を挙げており、
これまでの武功と合わせて考慮された結果、3人揃って黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章の授与が決定された。

まさか自分が「あの」ルーデルと同じくらい偉大な存在になれたことにバルクホルンは感動し、
他の仲間と違って意外とウィッチとして戦えたため、このまま部隊勤務を望んでいたが、
とうとうウィッチとしての寿命、終わりに直面し、今後の身の振り方について悩んでいた矢先に・・・。

 

 

 

 

 

 

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幕間の魔女「騎士鉄十字の家系」

2021-04-25 23:30:28 | ヴァルハラの乙女

バルクホルンはその確実な家系をゲルマニア騎士団まで遡ることができる古いユンカーの家柄である。

その傍証は騎士とウィッチがことごとく死した1410年のタンネンベルクの戦いの後、
生き残った数少ない騎士とウィッチに対し支払われた給料支給記録においてフォン・バルクホルンの名を確認できる。

「ユンカー」

という言葉を扶桑語で直訳すれば貴族または地主貴族になるが、その実態は、

「武士」

と表現するのがより正しい。
それも太平の世で世襲官僚化した織田幕府時代の武士ではなく、
あり方は自ら荘園を経営し、戦に馳せ参じる鎌倉時代の坂東武者に近かった。
時代が資本主義、産業主義に向かうにつれて大部分が困窮化していったことも武士に似ていた。

余談だが、筆者は最近東プロシャに旅行した。
カールスラントでも北の辺境、土地は貧しく、冬は白夜が見える北の厳しい大地である。
が、数世紀にわたって開拓を続けた結果、カントをはじめとする著名な文化人を数多く生み出した歴史ある土地である。
同時に長年の困難が、命令に対し絶対的な服従を誓う軍国プロシャ王国の精神的気風を育てたのがその特徴といえる。

そして、このあたりにユンカーが多い。
ユンカーというその本来の意味は、

「若殿」

という意味らしい。
侯爵や伯爵の息子たちがゲルマニア騎士団に属して騎士として戦ったいたからだそうだ。
ゴトフリード・ノルディング・フォン・バルクホルンもそんな若殿の子孫の末裔であるため、同時代のあらゆるひとびとから、

「最後のプロシャ騎士」

とか、厳つい顔立ちからフレデリック大王時代の豪傑極まる騎兵将軍ツィーテンの再来などといわれた。

しかし、本当はどうなのであろう。
事実かれは代々軍人の家系にも関わらず、軍人になろうというきもちはまったくなかった。

かれが東プロシャでおくった少年と青年時代。
顔と名こそ厳ついが、その実おだやかで心優しい惣領息子であったにすぎない。
事実、かれは読書と庭いじりを愛し、戦火の後には晴耕雨読の日々を夢見ていた。

「あの人は戦争が無ければ、大尉あたりで予備役になって、どこかの大学の優しい助教授になれただろう」

と、義妹のゲルトルート・バルクホルンは、
メッケル少佐が関ヶ原合戦図を見て「西軍の勝ち」と断言したように、親しい人にいった。

しかし後年まさかこの優しい助教授の妻に自分がなろうとは、夢にもおもっていなかった。
戦時中、エーベルトから義兄と許嫁ないし、婚約を勧められた際には大いにおどろき、

「とつぜん、清水の舞台からとびおりるよう、いわれた気分」

と、扶桑人の坂本と宮藤に自身の動揺を扶桑の諺と共に語った。
相手が同じ騎兵将校か、この辺のいきさつが秋山好古に求婚された多美に似ている。

はなしは、もどる。

騎士団幹部の大半、騎士団総長すらも戦死を遂げた悲惨極まる戦いを生き延びたのは大変な幸運であり、
人は戦いに参陣したバルクホルンのウィッチに何らかの特異な固有魔法を有してあったかのように考えがちである。
(実際、今日においてはウィッチとして数々の奇跡を成し遂げた宮藤芳佳の例を挙げて、そう結論づける者は多い)

だが、それ以降において、まったく名を残しておらずそれは否定せざるえを得ない。
たとえ、特異な固有魔法を有していたとしても、それだけで戦場を生き延びるのはむつかしい話だからだ。
次にバルクホルンの名前が出て来るまでに、長い中世の停滞から抜け出した時代、近世初頭までまたねばならない。

しかしそれも男は傭兵ランツクネヒトの中隊長として、女は古参兵ウィッチとして名前が出る程度である。
要するに戦乱の世において、ならず者たちを率いて、戦争という商売をしていたに過ぎないらしい。

しかし、1640年に一つの転機が訪れた。

後年、数で勝り、当時最強とうたわれたバルトランド軍を独力で倒し、後に大選帝侯と称えられる君主、
ブランデンブルク選帝侯の位を継いだフリードリヒ・ヴィルヘルムが指揮する常備軍の幹部将校団の一員に加わったのだ。

そして、ここからバルクホルンの歩む道が定まった。
男は将校として、女はウィッチとして歴代に渡ってプロシャ王国へ仕えるようになったのだ。

バルクホルンの名が一躍有名になるのは、1756年の七年戦争だった。
騎兵将校ゲルハルトと義妹にしてウィッチのルイーゼがロスバッハの戦いで騎兵突撃の一番槍を果たしたのた。

プロシャ軍は約2万、対するガリア、ザクセン、オストマルクの連合軍は合計5万。
その大軍の真正面から騎兵突撃を敢行して、これを成功させたのだ。

「バルクホルンは男女ともに、騎兵将校の平均をはるかに超えるまで馬術に習熟し、命令には忠実で、部下の扱いがうまい勇者」

と、騎兵将軍ツィーティンが手放しで誉めちぎったように、
現在に至るまで巷で言われている「勇武のバルクホルン」の原型がここで既に完成された。

義妹のルイーゼも気難しいことで知られるフレデリック大王からの覚えもよく、
自身の身辺を警護する近衛ウィッチとして昇進を打診され、家門の将来は安泰のはずだった。

しかし、ルイーゼは栄達よりも義兄の妻、家庭の実質的支配者の地位を選んだ。
ゲルハルトも戦後は軍や宮中での栄達よりも、義妹の夫であることを選び、自らの領地へ引きこもった。

普通なら、バルクホルンの軍事的栄光はここで終わりである。
だが2人の間に出来た子供や孫たち、その子孫はプロシャ王国が関わる戦争の全てに参加した。

(中略)

対してゴトフリードの父は戦争を好まぬ人物であった。
だが商売に関して才があり、多くのユンカーが経済的に没落してゆく中で逆に資産を増やすことに成功した。

しかも増やした資産を惜しげなく慈善事業や、領民の生活向上に投資していたため、名士、君子人と誰からも慕われた。
母もそんな父に似合いの人で、たいへん明るい質を持つ、常になにかを愛さずにいられない女性であった。

結果、かれはユンカーの世継ぎというよりは、
適度に裕福な商家の頼りなげな惣領息子と呼ぶのがふさわしい、人柄のよい人物となった。

かれの悲劇は軍人になってしまったことである。
しかも、人柄とは裏腹に外見はまったく厳つかった。
悪くいえば馬鈴薯のようだと評し、良くいえば勇武の相だといわれた。

ゆえに、かれはそうした評価にあわせて生きなければならなかった。
特に先祖代々が勇武をもって知られる家系であるから、それに従わざるを得ず、そうなった以上はそう生きねばならなかった。

とはいえ、かれが軍に入った当初、欧州は未だ平穏そのものであった。
扶桑海事変が勃発した時も叔父が指揮する槍騎兵連隊で平時の将校として勤務していたに過ぎない。

だが、その叔父がまったくの親心からかれの将来を再度決めてしまった。

「これからの時代は戦車だ」

騎兵将校として教育を受けてきたかれは、そのことでまた面食らうことになった。

今日でこそ、戦車こそ陸戦の王者で騎兵の末裔という立ち位置であるが、
当時、戦車とは最新兵器でありながらも未だ海のものとも、陸のものとも区別がつかないゲテモノであった。

そもそも第一次ネウロイ大戦の最中に開発された戦車とは、

「陸上戦艦」

という発想で生み出された。
くわえて、この開発を後押ししたのは海軍大臣のウィンスト・チャーチルであった。
つまり、陸戦兵器でありながら、潮のかおりが漂う異質同体、それが戦車であった。

正直なところ、叔父を好くべきなのか憎むべきなのか、かれにはよくわからなかった。
相手が善意に満ているぶん、始末におえないからだ。

そんな最中、かれの実家に遠戚の少女が新しい家族としてやって来た。

ゲルトルート・バルクホルン。

後に第501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズの部隊創設に携わり、
ネウロイの巣を破壊、しかも複数回関わった上に自身も世界有数の偉大な撃墜王として君臨することが約束されていた。

この時ゲルトルートは親と兄弟姉妹を妹のクリスを除き、全てを亡くした孤児に過ぎなかった。
しかし、世界が戦争という暗い波濤へ乗り出しつつある時代、騎士鉄十字の家系はその準備を整えたのであった。


※福田定一著「騎士鉄十字の家系」(東京広告技術社刊)第三版より引用



 

 

 

 

 

 

 

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第40話「魔女たちの夜戦 中」

2021-04-18 20:51:38 | ヴァルハラの乙女

ネウロイの攻撃は来なかった。
エイラは未来予知が外れてショックを受け、宮藤とサーニャは困惑したままであった。

だが、ワタシは知っている。
必ずネウロイはやって来ることを。
だから勘違い、と周囲が思い込んで弛緩した空気が流れるよりも先に先手を打つ。

「宮藤、サーニャ。
 念のため2人ともそのまま周辺を警戒するんだ。
 エイラ、未来予知でネウロイの攻撃を『視た』のは間違いないな?」

「あ、あたり・・・いや当然だって!
 だって私の固有魔法は予言文章なんかじゃなくて、
 必ず訪れる未来を『映像』で『視て』予知するんダゾ!」

語気を強くしたエイラが言う。
これまで頼ってきた固有魔法に疑問を抱かれている、と思ったからだろう。

「勘違いするな、エイラ。
 ワタシはエイラを信じているし、信頼している」

エイラの未来予知、という固有魔法は一見胡散臭いが、
何にでも解釈できる某ノストラな予言文章と違って必ず、
「映像で視認する」のでこれまでネウロイの攻撃を一発たりたとも被弾してこなかった。

ゆえに、ワタシはエイラの実力に対して疑問を抱いていないし、
普段は冗談な事ばかりしているが、戦場で嘘偽りを口にするような子でないのを十分知っている。

「だから、記憶が薄れない今の内に、ネウロイの攻撃がどの方向、
 高度、角度から来たのか?その結果どんな未来が見えたのか?具体的な情景を説明してくれないか?」

「っ・・・!!!」

そう言うと何故かエイラは驚いたような顔を浮かべ、少し間を開けてから具体的な内容を口にした。

「・・・高度は同じで、正面からネウロイの光線が凪ぎ払うように飛んで来たんダ」

正面か・・・あの時、我々正面の方角は大陸。
ガリア方面、ノルマンディー地方に向いていて、
もう少ししたら地上のレーダーから支援を受けられなくなる距離だから、
旋回して、ブリタニア側へ戻る哨戒ルートの途中だったな・・・。

「サーニャ、魔導針に反応は?」
「・・・あ、ありませんでした」

こちらの質問に対してサーニャは申し訳なさそうにしている。
成程、つまりサーニャの魔道針が感知できる範囲にはネウロイはいなかった、と。

しかし、エイラは未来予知でネウロイの攻撃を視た。
ネウロイを目撃しなったサーニャの証言と矛盾しているけど・・・。

「いや、それだけでも十分だ。
 ネウロイは我々を待ち伏せしていた可能性が高い。
 大雑把だがネウロイの方角はノルマンディー方面だろう」

「え?ま、待ち伏せですか!!
 で、でも、サーニャちゃんは探知していないのに・・・」

ワタシの断言に宮藤が疑問を露わにする。

「宮藤、別に難しく考える必要はない。
『サーニャの魔道針の有効探知範囲外でネウロイが攻撃を試みたが、
 エイラの未来予知で先んじて回避行動をしたから、結果的に攻撃は来なかった』だけだ」

「だ、だけど。
 こんな夜中にネウロイはどうやって、狙い撃てたんダ?」

顔を青くしているサーニャの手を握るエイラが質問する。

「それも仮説だが根拠はある」

芋大尉、ではなく。
「歴戦のカールスラント軍人」として、
視線や基地の無線中継で聞かれているのを意識しつつさらに言葉を綴った。

「ネウロイはサーニャを知っている。
 サーニャが発している魔導波を逆探知し、
 探知範囲外の遠距離からのアウトレンジ攻撃するーーーーこれなら目視できずとも攻撃できる」

魔導針は魔導波を照射し、
相手に当てた魔導波が反射されて戻って来るまでの時間、
それと方位を計測することで相手の位置を探る魔法でレーダーと仕組みはまったく同じだ。

レーダーと同じように魔道針も、相手から反射された魔導波が明後日の方向へ逸らされたり、
反射した魔導波の力が弱かった場合、相手を認識できない時がある。

しかし相手は『自分が魔導波を照射されている』事実を認識した上で、
『自分が魔導波で探られている』事象を距離こそ不明だが方位だけは把握できる。

これが、逆探知だ。

【原作】でもネウロイは『サーニャの歌を乗せて無線妨害を実行した』ので、
ネウロイが電波を理解しているのは間違いなく、逆探知という概念も持ち合わせているはずだ。

加えて【前世】の歴史ではこの『発せられた電波の方向を探知する技術』を利用して、
あのコロンバンガラ島沖海戦ではアメリカ側の電波を先んじて探知した上で優位な位置へ移動し、勝利を納めている。

同じような事をネウロイはしようとしたかもしれない。
ロングランスの名を頂く酸素魚雷の変わりに光線によるアウトレンジ攻撃を試みたが、
直前になってエイラが察知して回避行動をとったので、ネウロイは攻撃を中止した・・・そんなところだろう。

矛盾なんてものはない、エイラとサーニャはもどちらも正しい報告をしている。

しかし、改めて考えると厄介極まる話だ!
もしもエイラがこの場にいなかったら、最悪全員何が発生したのかも把握できず、撃墜されたかもしれないなっ!!

数年前、今だネウロイが銀色の個体だった時なんて、コアさえ破壊すればなんとかなったのに・・・。
それが今ではあの手この手で搦め手を使うようになるなんて、間違いなくネウロイは進化している。

そう思えば【原作】の宮藤たちはネウロイの戦術判断のミスで勝てたかもしれない。

前世の記憶、というよりも「記録」によれば
『雲海の中からサーニャを狙い撃てた』ぐらいに狙撃能力に秀でた厄介なネウロイだ。

例え未来予知能力のエイラがいても、エイラだけなら兎に角。

ストライカーユニットを半分壊されたサーニャ。
シールド防御に優れていても経験が浅いのでまだまだ足手まといな宮藤。

この2人を援軍が来るまで守り通すのは端的に言って難しい任務だ。

もしもネウロイがエイラに対し、
接近戦に挑まず雲海から遠距離狙撃の一撃を加えて離脱、
これを延々と繰り返していたら危なかったかもしれない。


いくらシールドでネウロイの光線を防げる、
と言っても長期戦になれば魔法力が消耗してしまうし、
精神的にも肉体的にも疲労した挙げ句、なぶり殺される形で撃墜されただろう。

何故ネウロイがこの戦術判断をしなかったのか分からない。
想像になるが一番の脅威と判断したサーニャを負傷させたと誤認して止めを刺すつもりで接近戦に挑んだのか?

しかし、『サーニャが一番の脅威とネウロイが判断した』そうなると別の視点がまた見えてくる。

「そうなると、サーニャの攻撃から逃げたあのネウロイ。
 あれは、魔道針の探知範囲を探る威力偵察だったかもしれないな・・・」

思った仮説を口にする。
前世も含めあのネウロイは先ほどに至るまで精々ネウロイの偵察、または哨戒という程度しか考えていなかったが、
人類側の探知技術を脅威と見なし、積極的に収集、把握しようと試みている、となると話は大きく違う。

『ネウロイは脅威を判断認定ができる思考能力を有している。
 しかも直接戦う相手ではなく、人類が発している電波情報を理解しようとしている』

仮説に仮説を重ねて得た結論だが我ながら理屈は通っていると思う。

しかし、これは物語の裏側。
たまたま深淵を覗いてしまったような気分の悪さを覚えるっ・・・!?
確かに人型ネウロイの存在は『知っている』けど、人という『形』で模倣していない分、気味が悪い。

まさか、あの感動の話においてこんな裏があったなんて。
それが分かってしまう現実の戦争なんて、やっぱりクソだ。

ネウロイとは何年も戦っているがまだまだ、こう気づかされる事があるなんて、
やはりワタシは、いいや、人類はネウロイについて未だ分かっていない所が多すぎる。

『・・・バルクホルン大尉、
 訓練を中止しなさい、全員の帰還を命じます』

基地からの無線でミーナの命令が来た。
「トゥルーデ」ではなく「バルクホルン大尉」と呼び掛けている辺り、事態の深刻さを重く受け止めているようだ。

「ミーナ、言い出しっぺのワタシが言うのもアレだが、
 ネウロイを直接見聞きしたわけでもなく、現段階では全て仮説にすぎないが」

『貴女を信用しているし、信頼しているわ。
 それに先ほどレーダーの担当者と確認したけど、
 トゥルーデの仮説に間違いはないし、理にかなっているのが分かったから』

『まあ、そう言うわけだバルクホルン。
 貴様なら兎も角、夜戦の経験がない宮藤には荷が重いし、状況が変わったからな。
 一度基地へ帰投して戦術の見直しを図った方が良い、そうミーナと判断したんだ』

こちらの確認に対してミーナと坂本少佐が答えた。

「妥当な判断です、少佐」

一度撤退せずに戦う。
という方法もたしかにある。

エイラの未来予知。
サーニャの魔導針。
主人公にしてメイン盾である宮藤。

最後に異世界TS転生者という歪な存在ながら、
ネウロイを張り倒す事に関しては3人よりも場数を多く経験し、
腕前もなかなかの物、世界の頂点まで来れたと、自負している自分。

この4人ならば戦う時間帯が昼でも夜でも最後はギリギリ何とかなるだろう。

だけど、

「あんまり、無理しないでね。
 夜間戦闘はカールスラント以降はしてないし」

エーリカがしてくれた助言に従おう。
空についてはエーリカの言葉は常に正しく、確かな物だから。

「聞いたな、皆。
 これより帰投する」

基地への帰還、と聞いて自分以外の一同がほっ、と安堵の表情を浮かべる。

「いやー、ミーナ中佐が話が分かる指揮官でよかったなー、宮藤」

「うん、月明かりがあるけど、
 夜に戦うなんて、私まだまだだし・・・」

エイラの軽口に対し、宮藤が同意する。

「なんたって、今夜も大尉やサーニャに手を握って貰わないと飛べるなかったしナー、にひひ」

「うえぇ!
 い、今はそうですけど。
 その内一人で飛べるもん!!」

エイラの弄りに宮藤が頬を膨らませて抗議する。
柴犬の耳とか尻尾を威嚇している辺りが、かわいい・・・。

『はっははは、
 確かに今の宮藤では難しいが、
 その内できるようになるさ、私も含め、皆最初はそんなものさ』

と、少佐が元気よく言う。

『それにしても、バルクホルン。
 戦うだけでなく、技術面でも色々知っているし、それを実戦に生かせるとは、本当に凄いな!』

「勉強会に参加していただけですよ。
 それに、自分は試作機のテスト役をよくしているので、自然と色んな知識が増えた次第で」

基地への帰投ルートを飛びつつ答える。
『あの』大空のサムライに称賛されるなんて、少し気分が良く、笑みが溢れそうになる。

『うむ、人生は勉強だな!
 だが、バルクホルンは魔法少女を演じたといい、
 軍隊生活が長い割に色々できるから、私も見習わなくてはな!!』

人生は勉強。
まったくその通りである。
異世界転生者であろうと学業、学問からは逃れられない。

ましてや近代の軍隊なんて学力がなければ、まず入れない。
ウィッチといえど学力が要求されるから、昔は勉強で四苦八苦して・・・・・・ん、んん?

「あー、少佐。
 そ、そのですね・・・魔法少女とは?」

嫌な予感しかしない単語について確認する。
身に覚えはあるけど、いや、まさか・・・。
よもや・・・あの姿と、あの演技がテレビ放送されたっ!?

「魔法少女?」
「なんだそりゃ?」
「バルクホルン大尉が演じた?」

魔法少女、などと言う単語を聞いて。
宮藤、エイラ、サーニャの頭上には疑問符が浮かんでいる。

しかし、他の隊員。
特に出撃前に目撃したペリーヌの大爆笑からして・・・。

『ん、ああ、それは・・・』

一瞬戸惑いつつも、坂本少佐が言葉を綴ろうとした時。
無線の音声に大きな雑音が急に発生し、数秒で基地との無線中継はできなくなってしまう。

そしてその変わりに別の「音」とメロディーが割り込んで来た。

「これ、サーニャちゃんの歌・・・」
「う、そ・・・」
「ネウロイがサーニャを知っているなんて、本当に大尉の予想通りだ・・・」

サーニャが普段から口ずさむ「歌」。
しかも父親が自分のために作ってくれた歌がよりにもよってネウロイが歌っている。
この事実は3人にとって衝撃が強すぎるのか、揃いも揃って顔を青くしている。

「全員、気を引き締めろ!
 ネウロイは我々を狙っている!
 エイラと宮藤は、目視で周囲を警戒!
 サーニャは魔導針で周囲を警戒するんだ、この場で迎撃する!」

指揮官として、そんな年下魔女たちを大声で叱咤激励する。
場数を踏んでいるエイラとサーニャは命令を聞いて、即座に任務に取り掛かった。

「き、基地まであと少しだし、このまま・・・」

「雲の下に飛び込めば、目視できずネウロイから一方的に撃たれるだけだ。
 よって、月明かりで目視できるこの場に踏みとどまり、少佐たちの援軍が来るまで持ちこたえる」

翻って宮藤は恐怖に震えていた。
新兵の異議申し立てに対して軍人として言葉を発する。
首を動かさず、視界の隅に入った宮藤の表情は『主人公』ではなく本当にただの『少女』だった。

「安心しろ、宮藤。
 ワタシが・・・私が必ず、宮藤を守る」

ただの『少女』だが、いずれ英雄であることを約束された『主人公』だ。
ワタシは必ずこの世界を変えてくれる宮藤芳佳を守るため、今日まで生きてきた。

これはワタシ、私だけが知る誓約。
誰も知らず、誰も理解できない誓約だ。

「あっ・・・!」

そんな時、サーニャの声か、宮藤の声か。

どちらかは判断できなかったが、
サーニャの魔導針が眩しく輝いたと思うと、
宮藤とサーニャのストライカーの魔道エンジンが唸り声を上げて急上昇した。
2人が上昇した刹那の時、地平線の彼方の雲の中からキラリと赤い光が見えると、光線が飛来してた。

「大尉!宮藤が!!」

血相を変えたエイラが叫ぶ。
だけど一瞬の出来事で、体が動くよりも先に悪い現実が先行する。
音よりも早く、幾条の雲を蒸発させながらネウロイの光線が2人に迫る。

「サーニャちゃん、危ない!!」
「えっ・・・!?宮藤さん!!?」

宮藤がサーニャを押しのけ、
サーニャの代わりにネウロイの光線が直撃するコースへ躍り出る。

そして、得意のシールドを展開しようとするが、
シールドが完全に展開し終えるよりも先にネウロイの光線が直撃。

ストライカーの爆発と共に宮藤は墜落した。



 

 

 

 

 

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