二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

(短編)Fate/Zero holloww ataraxia~アーチャーのすごしかた(昼前編)

2011-10-30 01:40:03 | 習作SS

タイトル:荷馬車の騎士


「む」
「えっと・・・」

時刻は11時ぐらい。
アーチャーと遠坂葵は、アイリスフィールに料理を教える、
という日課を果たすために衛宮邸へ向かっていたが、衛宮邸の前に一台の軽トラックが止まっていた。

ただの軽トラック軽トラックならば通行の邪魔程度で済んだが、
彼ら、神秘の住民と同じ気配を放っていたので、2人を警戒と困惑を引き起こした。

「この気配・・・トラックごと宝具化しているのか?」
「妙に、黒いですね・・・」

元から黒いカラーリングだとしても、
ありえない程の黒い色をしているトラックはあまりにも目立っていた。

「ふむ、降りてきたようだ・・・。
 あの姿は・・・マキリの方のバーサーカーか!」

トラックから降りてきたのは、
ガチムチで、どこか暗い雰囲気を漂わせているつなぎ姿のハンサムな男。
その正体は円卓の騎士でも最強とされる湖の騎士ランスロット、狂化されていることもあるがセイバー以上に武人としての空気を纏っていた。

そんな彼がじっと、アーチャー達を見つめる。

「葵、私の後ろにさがれ」

まさか、仕掛けてくるつもりなのだろうか?
ありうる、完全に制御せしめたイリヤとは違い、本当の意味で狂戦士とでしか振舞えないマキリの狂戦士ならば。
サーヴァントを目撃した瞬間に襲いかかっても可笑しくない。

と、アーチャーは分析し、
如何に後ろにいる人物を守り抜くかシュミレートし、防衛戦は不可。
後ろに下がれば巻き込んでしまう。よって、こちらから打って出る以外の道はないと結論を下した。

「ク、」

だが、相手は狂気に囚われても「湖の騎士」の名は伊達でなく、
魔術使いの英霊エミヤとの間には比べるのも馬鹿らしい程の差が、存在しているのをアーチャーは知っていた。

しかも、相性が最悪だ。
剣群を射出しても避けられるか、利用されるだろし。
「壊れた幻想」を発動させては周囲への被害が大きすぎるし、致命打を与えるには難しいだろう。

では、白兵戦は?
それこそ論外。英霊エミヤの本質は弓兵。
今のセイバー以上にセイバーの的性が強いバーサーカーに叶うはずがない。
正面から戦えば保って数合、それ以降は惨殺される結果しか浮かばない。

しかし、現状ではそれ以外の方法はない。
もたらされる結果はDEADENDしかない――――。

「なにを今さら。
 いつだって、あの運命の日から私はギリギリの綱渡りをしてきた」

地獄に行ってもなお、思いだせるあの光景。
あの運命の夜からずっと正義の味方となるべく衛宮士郎はギリギリの戦いをしてきた。

いつも、自分が不利な状況で楽な状況など存在しなかった。
現在陥っている状況も、生前は何度もあった。
弱音を吐いて理由など存在しない。

ゆえに、一歩前に出てこちらから仕掛けるべく準備し――――。

「は?」

襲うはずの相手が突然アーチャーに背を向けて、思わずアーチャーは間抜けな声を出した。
より正確に描写すると、軽トラックの荷台に乗せたクーラーボックスを取りだすためのようである。
しかも、そのクーラーボックスは業務用らしくかなり大きく、マグロが丸ごと一匹は入りそうだ。

「勘違い・・・いや、ならば何が目的だ?」

「あの・・・もしかして。
 あのクーラーボックスをセイバーに渡したったのでは?」

アーチャーの混乱気味な独り言に、葵が恐る恐る自分の考えを述べる。

「そんな馬鹿な話が
 ――――へ?同意?なんでさぁぁぁぁあああああ!!」

バーサーカーの肯定を示す頷きにアーチャーは絶叫した。
常に冷静極まりないアーチャーがこうも感情を露わにするのはあれだ、色々緊張がほどけたせいだろう。
ついでに気のせいか、バーサーカーは狂気に犯されているにも関わらず心なしか微笑んでいるように見えた。

「だいたい、
 そんなコトならば自分で渡せばいいのではないか。
 生前、裏切ったとはいえ今は関係ないだろうが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アーチャーのやや嫌味と刺を含んだ言い方に、バーサーカ―は見るからに生気を失った。
痛いところを突かれてガラスのハートが砕けたらしい。と、ついでに、黒い瘴気がもくもくとわき上がっていた。

「ああああ、わかった!!
 わかったから、私が責任もって、
 君の主に君が献上した物だと言っておくからその瘴気を収めたまえ!!」

バーサーカ―の変化にやけくそ気味に叫ぶアーチャーだが、
その必死さが伝わったらしく、バーサーカ―は穏やかな表情に戻りクーラーボックスをアーチャーに差し出す。

「しかしだ、セイバーとの仲を取り戻したい。
 と言うならば一緒に来たらどうかね?私たちが仲介役となるのは吝かでないのだが?」

一体どこからセイバーが食道楽に嵌ったと聞いたのだろうか?
食材を態々ここまで運んで来たということは、セイバーの歓心をもらいたいと言う意思があることは確かだ。

「・・・・・・・・・・・」

対するバーサーカ―の表情は変わらない。
だが、首を横に振り、否定の意を表す。
ただ狂犬として怒りをぶつけようとした時よりマシとはいえ、未だ正面から向き合う事に躊躇している。

「まったく――――少しは素直になったらどうかね?」

素直に成りきれない面倒な性格、
頑固さは仕えていた王と変わらないようだ。

そうアーチャーは嘆息し、クーラーボックスを受け取り――――。




「ぐはっっっ!!」

筋力Aとの差を失念して、クーラーボックスの重みにつぶれた。


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おススメ動画 「Gayte/Ero ED MEMORIA」

2011-10-25 21:01:47 | おススメ動画
Gayte/Ero ED MEMORIA


『例のアレ』で始まる性♂戦争
腹筋崩壊は間違いなし。
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(短編)Fate/Zero holloww ataraxia~ランサーズヘブン(完)

2011-10-15 07:35:52 | 習作SS

空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。

文句のつけどころのない絶好のロケーション。
午後の散歩を好むマッケナジーのおじいちゃんやサイクリングに励むライダーの清涼剤になりそうな冬木の港。


そこを薄幸そうなガタイのイイ男が占領していた。


「あっちのランサーと同じく、違和感ないな」

こっちのどこか薄幸そうなのでなく、
暴力団っぽい感じのランサーも自然と一体化した達人だった。

おまけに、同じく固定具為しと来た。
気まぐれにでも、自動販売機で缶コーヒーでも買ってこよう。

「釣れているかー?」

「まあ、まあ。
 と、言った所か。
 サバが山ほど、黒鯛が4匹、鮍が3匹取れた」

「相変わらず節操がない港だな、おい」

「まったくだ」

事前に猛犬の方のランサーから聞かされたのか苦笑を以て答えた。
缶コーヒーをランサーに渡してから、バケツを覗きこむと他にも色々な魚がいた。

「やっぱり鯖が多いな」
「ああ、理由はしらないが先ほどから取り放題な状態だ」

ランサー共の釣り竿は概念の籠った魔術礼装か。
2人して寿司のネタを制覇できるぞ・・・・・あれ、そういえば。

「その竿、どこで手に入れたんだ?」

・・・まさか、暴力団よろしくまたもや慎二はランサーから強奪されたのか。
ありうる、だって同じタイプの釣り竿だし。

「セイバーのマスターよ、
 俺は猛犬の方とは違い対価を払ってこの竿を手に入れた」

むす、とした表情で即座に否定した。
しかし対価ねぇ、いや、まてまさか。

「アルバイトでもしていたのか?」
「無論、そこで金銭を得てから購入した」

なん・・・だと・・・
我が家の王様は食っちゃ寝状態だと言うのに・・・!!

「・・・セイバーのマスターよ、
 なぜそうも感激したような顔を浮かべるのだ?」

「いや、誰かさんに等価交換というのを教えたくなっただけさ」

敢えてセイバーと言わなかったが、
ランサーにも伝わったらしくそうか、と一言だけ言った。

「まあ、ともかく。
 そうして俺は鍛錬と数少ない楽しみを兼ねた釣りをしてるわけだ。
 ク―フーリン殿ならともかく、ゲーム三昧な征服王。
 魔術師とは名ばかりの貧弱キャスターには決して入り込めない男の世界だ」

フラグですね、わかります。

「いいのかな、
 そんなコト言って。
 口は災いのもとだぞランサー?」

「災いなど、
 ただ正面から粉砕するのみ、何も問題はない。」

災いが来たら戦うのみ、か。
真に英雄らしい返答で、セイバーが気にかけるのも分る気がする。

「鯖か」
「鯖だ」

釣りあげた魚はお気に召さなかったのか、ランサーはそのまま海に戻した。

「――――」
「――――」

会話が途切れる。
話のタネのない時間ほど居づらいものはない。

「邪魔して悪かったな、釣りを楽しんでくれ」
「差し入れ感謝する、セイバーのマスターよ」

港を後にする。
人間、話してみないとわからないものだ。
俺にとっては退屈極まりない空間だったが、ランサー達にとってはお気に入りの場所らしい。

「・・・・・・・・・」

既に10月、しかし夏と見違えるような日差しが港を照らす。
願わくば、心のない邪魔ものたちによって、この平和が乱されなければよいのだが。



※   ※   ※   ※



空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声がさみしさを緩和させる。

文句のないロケーション。
お年寄りから子供まで憩いの場となりそうな冬木の港。

しかし、そこに幸薄そうな男と赤毛の大男によって魔境と化していた・・・!!

「って、一人ふえてるぅ!?」

胡坐をかく幸薄男の背後。
やたらとデカイ頼れる背中がキラリと光る、あれは間違いなく新たな暇人・・・・・!!

「ぬははは、16匹目フィッシュ!!
 うむ、よい漁港だ、面白いように釣れる。
 ところでお主はそれで何フィッシュ目だ?」

「静かにしてもらえないのか、征服王。
 騒ぎたいのなら余所でやって戴きたいものだ。」

唯我独尊を絵に描いたような王のセリフに、ランサーは米神に青筋を立てる。
・・・珍しい、普段は数少ない良心の拠り所であるランサーがあそこまで腹を立てるなんて。

「むふふふふ。まだサバが8匹だけか。
 時代遅れかつ未熟なフィッシングスタイルではそんなところじゃろうて。うむ、17匹目フィィィィシュ!!」

ヒャッハー、とばかりにハイテンションな王様。
いや、家のセイバーと同じく王様だけど、どうして違和感がないのだろうか。

「くそ、いい加減にしろ征服王。魚が逃げてしまうだろうが!!」

「ふむ、腕の無さを他人のせいにするとは落ちたのうランサー。
 近場の魚が逃げるのなら、リール釣りに切り替えればよかろう。
 もっとも、お主のようなカタブツに、リールを操れるとは思えんがな。む、すまぬ。18匹目フィィィッシュ!!!」

2メートルを超える大男が歓声を挙げつつ釣りをする光景。
・・・おかしいなぁ、いつも童心なライダーにこんなにも苦々しく感じるなんて・・・・・・。

「・・・・・・つーか、あれって」

服装は「大戦略」のロゴのTシャツにジーンズ。
これはいい、だが使用しているリールは金に糸目をつけない99%カーボン製の高級品。
釣りをしに来たのでなく、もはや機械の調子を見に来ていると言っても過言でない代物。
ガングロ大男が使っていたのと同じやつか・・・!

「・・・あれって、本物だよな」

あの野郎のは投影したのを使っていたが、
ライダーにはそんな特技はないのでどう考えても本物を使っているとしか考えられない。

「むはははは。この分では日暮れを待たずして勝負がついてしまうのう! 
 軽い準備運動のつもりで始めたのだが様子を見るまでもないようじゃし。
 ランサーよ、別にこの港の魚を全て釣りつくしてしまっても構わんのだろう?」

「く、できるモノならやってみると良い。
 その時は二度とおまえをライダーとは思わないがな」

「良く言ったランサー!
 こんな形でお主と雌雄を決するが来ようとはな!  
 どちらが漁港最強か、ここでハッキリさせてやろうぞ!!」

ランサーの「頼むからどこか行ってくれ」というオーラを完全無視するノリノリなライダー。

ほら、言わんこっちゃない。
ヘンなコトを言うからヘンなのがよって来るんだよ。

二人の邪魔をしないよう、こっそりその場を後にする。
どうか、彼の異名が征服王から(漁場の)征服王に改名することがありませんように。

 

※   ※   ※   ※



空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句のつけどころのない絶好のロケーション。
平和な冬木の町を象徴するかのような港。


しかし――――今まさに盆と正月が一緒に来たかのような賑わいを見せいていた・・・・・・!


「って、さらに増えてる―――――!!?」

誰か、いや予想外すぎて言葉を失う。
うねうねする蛸みたいな生き物を統制する姿はまぎれもなく・・・!

「うおー、すっげぇー!! 
 ジルー、これサカナか!? サカナだな!
 うおーサカナ―――! 一匹くれよ―――――!!」

「ジルー、ジルー。
 あの蛸が捕まえたサカナとっていいかな!」

「あれぇ、隣の兄ちゃんはただの釣りかー。
 つまんないのー。ジルの方がかっこいいなー、ちょっと臭いけど」

「ジルー、今週のジャン○どこー?」

「すごーい、いっぱい捕れてるー! 
 ねぇジルー、後ろのお兄ちゃんにこのサカナ投げていいー?」

なぜか子どもたちに大人気な鳩○似の青髭。
あれか、愛らしい道化とかその当たりの気質が似ているせいなのか?
人気がないのにも関わらずなぜか恨まれず、ファンがいるという点とか。

「はっはっは。元気なのはいいですが、少し静かにしましょう。周りのおけらたちに迷惑ですから。
 それはともかく、ジロウ、一匹といわず十匹でも百匹も持っていくといいですよ。
 ミミ、すまない、ではとってくれれますか? イマヒサ、何を当たり前の事を言っているのですか。
 だがその嗜好はよし、やはり漢は強くなければ。さ、これでガリガリさんでも買ってきなさい。
 カンタ、ジャ○プはマスターの所望の品、読むのは構いませんが折り目などはつけんように。
 コウタ、あの雑兵は狗の方とは違い、心の広い男だ。ぶつけても怒ることはないでしょう。ただし、他の人にぶつけてはなりません。」

いや、あんた誰だよ。
見て強いて言うならば子どもたちの・・・ヒー・・・・・ロー・・・・・・でいいのかな。

「しかし拍子抜けでしたね。
 最強を名乗る者がいると聞いたがまるで話しになりません! 
 所詮は蛮族の王と雑兵、愛を語るこの身とは比べるべくもないか」

ふははは、と愉快そうに笑うヒーロー。
ときおり、子どもたちにほっぺたやら髪の毛やら服やらを引っ張られていたりする。
うん、普段とのギャップがありすぎる。セイバーがこの光景を見たらなんていいだすのか・・・。

「ふふん、所詮は魔術師か。
 使い魔の物量作戦で魚を捕らえようとするとはな、
 ・・・・・・失望したのう。自らの手で得物を捉えず使い魔に任せるとは、見下げ果てたぞキャスター・・・!」

子どもたちに囲まれながら挑発する征服王。
というか、おまえが言うな、ライダーのマスターが泣くぞ、色々と・・・。

「ふ、愚かな。
 釣りと狩りに違いなどありません。
 ようは如何に得物を捕えるかだけです」

「言ったのう?
 ならばどちらがより多く釣りあげられるか競い合ってみるか、キャスター!」

盛り上がった2人のやり取りにわー、と歓声を挙げる子供たち。

「・・・・・・・・・・・・」

そして先ほどから一言も口にしない緑の槍兵。

「古来より、勝者は敗者の所有物を手にする権利があります。
 よって、この戦いに負ければその釣り竿は私の物とします。」

「望む所よ!
 貴様のその胸糞悪い使い魔など要らぬが勝たせてもらうぞ!」

嗚呼、何故勝負となると、
どいつもこいつも無駄に本気になるのだろうか。

「すげー!ジルと釣りプロの一騎打ちだ! 
 こんなのメッタに見れないぜー! オレ父ちゃん呼んでくる!」

「負けるなー、
 やっつけろー! がんばれ王様ー!」

「カワハギとかイナダとかじゃなくてカレイ釣ってよーカレイー。
 けど、後ろの不幸そうな兄ちゃんにみたいにワカメとかワカメとかはカンベンな!」

「ねーねー。
 そんなことよりジャ○プ読んでよー」

もはや港にかつての平穏はない。
人に愛される王様と、なぜか子どもたちに人気なキャスター。


そして。


「そんなにも騒ぎたいか!?
 そうまでして釣りをしたいのか!?
 この俺が・・・たったひとつ懐いた楽しみさえ、踏み弄って・・・貴様らはッ、何一つ恥じることもないのか!?」

この世の終わりみたいな顔でランサーは叫ぶ。
見境なく、征服王に、青髭に、子供たちに喉も張り裂けよとばかりに怨念の叫びを吐き散らした。

「赦さん・・・断じて貴様らを赦さんッ!
 名利に憑かれ、我が娯楽を貶めた亡者ども・・・その娯楽を我が怨念にて穢すがよい!
 地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思いだせ!」

呪いを叫ぶそれに、輝かしい英霊の姿はなく、
ただ怨念に吼える悪霊の声だけを港に残響させた。

「・・・・・・帰ろう。ここはもう一般人の居ていい場所じゃない・・・」

そうして港を後にする。
見上げた空の高さにちょっとだけ目が眩む。

ランサーというクラスはいつも幸運値が低いようで、同情してしまう。
嗚呼、ランサーズヘブンよ、せめて思い出の中で永遠なれ――――。



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(短編)最強のエンジニアを第四次聖杯戦争に参戦させてみた (DeadSpace2×Fate/Zero)

2011-10-04 00:23:40 | 習作SS

「雁夜よ、前にも言ったが所詮捨て駒に過ぎぬおぬしには媒体など用意する意味などない」

ジメジメとした地下で人でない怪物が半死人に語りかける。
怪物は嬉々とした表情で、半死人は無表情で対峙する。

「よってこのたびの召喚において自らをもって英霊を召喚せよ」
「ふん、そのくらい理解している」

改めて言われた言葉に雁夜は拳を握りしめ怪物を睨む。
分っていたはずだった、理解していたはずだった、所詮この四回目の戦いは眼前の怪物にとって余興にすぎないのを。

だが、媒体なしに英霊を召喚するのは端的にいえばギャンブルのようなもの。
自分と性質が似た英霊が召喚されるはずだが、半死人の召喚に応じてくれる英霊などいないほうが多いかもしれない。
例え応じたとしても自分とよく似た性質、つまり最弱の英霊が呼ばれるに違いない。

「カカカ、そう睨むでない。
 とはいえ、さすがにおぬしの実力で召喚されたサーヴァントでは勝ちぬくことはできぬ。
 子のために一つ提案しよう――――雁夜よ、バーサーカ―のクラスでサーヴァントを召喚するのだ」

雁夜にはこの外道の思考などとうに理解している。
明らかに自分が破滅する様を期待し、そう仕向けようとする悪魔の言葉だと。


だが、それでも


「ああ、いいだろう」

それでも、自分は桜を救う。
もはや余命は一か月持つのみ、いまさら恐怖などない。
間桐雁夜は既に死中に活を得る以外の選択肢は消滅しているのだから。

「覚悟はよいようだ――――ではこの二節を詠唱に差し込むとよい」




※  ※  ※  ※  ※




その時、あらぬ方角からの魔力の流れに居並ぶ人間全てが注目する。
エーテルの嵐が吹き溢れ、砂塵が舞い、エーテルはやがて眼に映るまで凝縮されてその姿を現す。

「・・・・・・・・・」

全身を覆う黒い甲冑、と表現すべきなのだろうか?
それにしてはセイバーの清涼さ、ライダーの野性的、アーチャーの優美らしさがない。
神秘の塊であるはずのサーヴァントに神秘らしさというものがまったく感じられない装束であった。

むしろ未来的、科学的という言葉が似合いそうな空気を纏っている。
ロマンあふれるファンタジーよりも光線銃の光線が飛び交うSFに出た方が似合っており、甚だしく場違いであった。

さらに場違いであったのは、そのサーヴァントが纏う魔力の波動はセイバー達がプラスとするならばマイナス。
理不尽な運命を覆し人々の賞賛を得る英雄でなく人々に恐怖を振りまき、絶望させる立場の人間しか持ちえぬ雰囲気を纏っていた。

「なぁ、征服王。アイツには誘いをかけんのか?」

ランサーは困惑と警戒心を抱きつつ征服王に言う。

「誘おうにもなぁ。
 ありゃ、のっけから交渉の・・・『提案がある、そこの金ぴかを一緒に倒さないか』おう!?」

バーサーカーの言葉に周囲に動揺が走る。
通常、狂わされたバーサーカーに言葉を交わす能力はないと言われた常識が崩された瞬間だった。

「そんな、馬鹿な!!
 バーサーカーに言語能力があるはずがない」

ウェイバーの言葉はマスターとサーヴァントの心情を代表した。


「なに、生前から狂った環境に放り込まれていたから今さら理性が奪われることなどない」


何ともなさそうに語るバーサーカーの言葉に周囲は言葉を失う。
バーサーカーでありながらバーサーカーでなく、狂わされるどころか打ち破った事実にこのサーヴァントの実力に緊張が走った。

まったくのイレギュラー、さらにサーヴァントがこ夜に姿を隠すアサシンも加えると計六騎。
バーサーカーの提案も各陣営が警戒し合っているため、誰も名乗りを上げずこのまま時間が過ぎてゆくと思われたが、


「おい、そこの狗。
 貴様は誰の許しを得て我を倒すと決めた」


警戒という『待ち』を選択せず殺意を込めて黄金の王がバーサーカーを睨む。
背後から十あまりの宝具が出現し、他のマスター、サーヴァントが息を飲む気配を無視し、
矛先をバーサーカーに向けて黄金の王は勅命を下した。


「王の命令だ――――疾くと消え去れ」


弓兵の使い間でありながら、
鍛えられた弓術による精密射撃でなくただ宝具を射出するだけの乱暴な攻撃。

しかし、一撃一撃はただの矢以上の威力を発揮して着弾と同時に破壊をもたらし粉塵があたりを覆い尽くした。
視界は夜であることも加え、視界不良のため気配以外の探知は不可能となった。

「やられたのか・・・?」

空中に飛び散った粉じんのせいで盛んに咳をしつつウェイバー・ベルベットは呟く。
彼の見立てではあのバーサーカーは確実にアーチャー仕留められたと考えた。
なぜなら、あのような規格外の攻撃に生きているはずが――――。


「なッ・・・!!」


セイバーの驚く声。
瞬間、粉塵の中心地から勢いよく何かが飛び出てアーチャーに向かう。

淡い青い光に包まれた何か――――アーチャーが射出したはずの宝具で、真っすぐ主人を殺そうとした。
だが、狙いが曖昧だったためかアーチャーの足場にしていた街灯のみを破壊した。

「痴れ者が・・・・・・この我を同じ大地に立たせるとは」

何事もなかったかのように大地に降り立つアーチャー。
他のサーヴァントなど眼中になく、ただ黒いサーヴァントを見る。

「我が財を以て歯向かうなど、もはや肉片の一片たりとも残さぬ。」

さらにアーチャーの背後から宝具が三十程出現して周囲は絶句する。
規格外、そんな単語が彼らの心情を支配した。

「精々あがくがよ・・・貴様、我の財を!!」

アーチャーが言葉を綴る前にバーサーカーが地面に突き刺さった宝具を引き寄せる。
右手を宙につきだし、磁石で引き寄せられるようにアーチャーの宝具がバーサーカーの元に入る。


「死ね」


自らの財を汚されたアーチャーの判断はそれだけだった。
30あまりのあらゆる武器がバーサーカー、真名アイザック・クラークに突撃する。

剣の英霊セイバーの直感はあの一撃必殺の弾幕を回避するのは自分でも難しいと考え、
今度こそあの正体不明のサーヴァントは終わり、次の標的は自分であることに見を固くしたがまたもや常識を覆される。

まず、バーサーカーが再度宝具を投擲。
これにやられるほどアーチャーは慢心しておらず、射出した宝具の一部で相殺して残りの宝具はバーサーカ―に向かう。

対するバーサーカーの対応は、
宙に伸ばした腕から青い人魂のようなものを連続して発射し、自分に直接あたる宝具に当てて移動を停滞させる。


時間操作の宝具――――<ステイシス>


それも神秘の塊である宝具に干渉するほどの奇跡。
観戦していた魔術師たちはその異常さに戦慄が走り、ただ茫然とバーサーカーを見る。
そして、バーサーカ―は時間が戻る前に決着を付けるべくアーチャーへと突貫を開始した。

「雑種ぅぅぅぅううううう!!!」

三度も己の財を汚されたアーチャーの憤怒はここに来て臨界に達する。
迫りくる不届き者を懲罰すべくさらなる宝具、計五十を展開して塵も残さぬつもりで射出しようとしたが、バーサーカーが先手を打つ。


バーサーカ―が手に持つライフルのようなものから、丸い球がアーチャーに飛ぶ。


宝具が周りに落ちる衝撃でアスファルトは砕け、塵が宙に舞う。
それが煙幕の代わりとなったため、丸い球―――グレネードを避ける機会をアーチャーは逃した。

「がぁああああ!!?」

直撃、神秘の欠片もないので鎧ごしへの損傷はない。
しかし、むき出しの顔に爆風が直に曝され顔面に傷を負う。

視界が奪われ、自然治癒によって回復するまでの僅かな時間。
この間はアーチャーは霊感にしかサーヴァントを認識することができず、接近するバーサーカーを目視で射撃できない。

だが、それでもアーチャーは直感を頼りで五十の宝具をバーサーカーに発射する。
古今東西のあらゆる武器。不死者殺し、竜殺し、必ず当たる槍、聖剣、魔剣、がアーチャーの感により正確にバーサーカ―の未来位置に襲いかかる。

アーチャーとバーサーカ―の距離はおろか二十メートル以内。
英霊の身ではたった一秒にも満たぬ内に辿りつける距離だが、同時に音速で飛来するアーチャーの宝具も一秒にも満たぬ内に届く。

そして速さでは宝具が先で、バーサーカ―にアーチャーの攻撃が当たる方が先である。
バーサーカ―が黄金の王に肉薄するよりも先に未来のエンジニアが死ぬのは確定された未来だろう。


そう、バーサーカ―が『移動速度を上げないかぎりは』


「Fuuuuuummmmm!!!!」

背中に装備された推進装置が起動、
制限速度を無視し、限界以上の推進力で移動速度を底上げして、宝具の着弾地点よりも先へ、先へと進む。

急激な加速のせいでバーサーカ―の首が後ろに引っ張られ、体に負荷がかかる。
常識人たちならこれだけで首の骨が折れてしまうが、アイザック・クラークはかつてタイタンの衛星都市に自由落下しても生き残った最強のエンジニア。
その時と比較すれば彼にとって、今のは首周りの肩こりを直すにちょうどよい運動に過ぎず、耐えきる。


宝具の着弾音


再度アスファルトにコンクリートとベニヤ板張りの倉庫が破壊される。
アイザックが『かつて居た地点のみ』を宝具は破壊してアイザック自身は破壊から免れ。


「Fuck!」


一声と共に、幾多のネクロモーフを葬った黄金の右腕を慢心王の横っ面に叩きつける!
たった一撃されど一撃、首をもぎ取る威力を秘めた殴打は正確に顔面に当たり。

グシャッッ!!と骨と肉がつぶれる音と共に王の美貌が歪み、アーチャーの体が横に飛ばされた。

「あっ!」

アイリスフィールの驚きの声。
完全にやられ、後はバーサーカ―の追撃で最初の脱落者になるはずだったが、突如として姿を消した。

「フムン、どうやら令呪で逃げたのだな」

ライダーは手を顎に当てて、この行動の意味を推測する。
が、それよりもあの規格外を退けた、常識外れに対する警戒を怠らない。
ライダーの内心では既に唯我独尊のアーチャー並みにバーサーカ―を脅威と認定した。

「おまえ、何者なんだよ」

ウェイバーは先の現実とは思えぬ光景を思い出しつつ、半ば無意識にアイザックに問う。


「何――――ただのエンジニアさ」


この答えに貴様のようなエンジニアが居てたまるかという常識人と、
成程、エンジニアという人種はこういうものなのか、と感違いをしてしまい、


「シロウなら、きっとサーヴァントと渡り合えるはずです」


と、後の戦争でマスターの趣味、
すなわち『機械いじりが好き=エンジニア』の図式を脳内に描いた騎士王が、正義の味方見習いに地獄の特訓を課す事になる。



おわり





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とある正義の味方のヒーロー 序章 (Fate×とある魔術の禁書目録) 

2011-10-02 04:36:55 | 習作SS

科学の牙城、学園都市。
神秘や血縁、異能に頼らず科学的に超能力の開発を行う場所。
人々が想像する超能力といえばオカルトの魔術と愛称がいいと思えるがそうはいかない。

未来に進む科学と違い過去へと進む魔術は相性が悪い。
さらに組織同士で敵対し、互いに憎しみ合い、交戦してたことがある。

今でこそ長い外交交渉のお陰で均衡を保ちはしているがそれがいつ崩れるかは誰にもわからない。
また、均衡を破壊しようとする存在がいることも、利用する黒幕がいることなど誰も知らない。

そんな化学側の陰謀の総本山に、オカルトに所属する3人の男女が暮らしてゆこうとしていた。

「シロウ、
 ここが指定された家ですか?これはまるで、」

「すごいです、士郎さん。
 本当に士郎さんの家そっくりです。」

「あーうん。
 そうだ、にしてもまさか態々作り上げるとは。」

足元まで届くほどの紫色の髪がある眼鏡を掛けた女性に、
同じく紫色の髪を持つ温和な女性、最後に赤毛の長身の体格の良い男性の3人が見上げるのは一件の武家屋敷。
まさかはるばる関東に来て馴染んだ家そっくりのを見られるとは思えず呆然と見上げる。

「ふふん、
 可愛い妹とその婿のためにはこのくらいやらなきゃね。」

3人の反応が気に入ったのか得意げに腕を腰に当てて微笑む遠坂凛。
特に妹である桜の反応が気に入ったらしい。

「ありがとうがざいます、姉さん。
 私や士郎さんのために・・・・・・。」

「へいき、へいきよ。
 元々協会側が住処を用意するって話だったから要望通りに作るよう頼んだだけよ。
 頭を下げるのはむしろわたしの方・・・わたしがもっと注意していれば今頃・・・・・。」

「ストップ、今日は暗い話は禁止だ。」

『今頃、冬木で平凡に過ごせただろう。』と続け、
後悔してもしきれぬ過去に思いを寄せた所で衛宮士郎のジャッジメントが入る。

「もう済んだことだし、
 それも遠坂のお陰でこうして生きていられるのだろ?
 だったらそれでいいじゃないか、それをいいだしたら俺なんてずっと遠坂に頼りっぱなしだし。」

聖杯戦争の時から衛宮士郎はそうだった。
人一倍心身共に頑丈ではあったが眼の前の魔術師と比較すれば所詮へっぽこ。
今でこそ天才と称される遠坂凛に元女神のことライダーを師として魔術を学んでいるが比べるのも馬鹿らしく、
未だ衛宮士郎は遠坂凛を頼らせることには至っていなし、相手はそうさせるつまりはまったくない。

「そうですね、過ぎた話はここで終わりにしましょう。」

さらにライダー話を一旦終わらせるように口をはさむ。

「今、我々の問題は如何に素早く引越しできるかです。」

チラリ、と脇に置かれた段ボールたちを見る。
数は彼女のマスターとその伴侶があまり物を持たない性質だったので少ないとはいえ一仕事には違いない。

「そうね、そうしましょ――――行くわよ、桜、士郎。」



「で、遠坂、これはどういうことだ」

正義の主夫が呆れつつ赤いアクマの部屋を見渡す。
普段遠坂は倫敦で暮らしているので必要ないが彼女は『色々あって』学園都市と関わる機会ができたので、
『魔術師の拠点』となる部屋、工房の設置が必要で今こうして準備をしているのだが、

「えっとね、すこーし。
 特定の物が見つからなくて色々弄っていたら、その。」

遠坂が自己弁論を試すが、荷物は少ないはずだが無秩序に荷物が散らばる部屋。
それどころか廊下までに細々とした小物が溢れかえり、山となっている状況ではそれはただ虚しいだけであった。

「遠坂・・・」

例えるならひっくりかえったオモチャ箱。
すでに2×歳にもなってもまともに整理できず混沌と無秩序を作り出した当の本人の発言に思わず主夫は膝を屈しそうだった。

「ううう、普段はアーチャーに任せているから、つい」
「・・・・・・そうか」

生前は守護者になり、
聖杯戦争では危うく死にかけるも最後まで生き残った自分の未来の可能性。
そんな奴の二度目の人生というべき場所での仕事が遠坂の召使い(サーヴァント)

衛宮士郎は思わず、煤焼けた大きな背中が見える気がし、
何故か『どこの世界でも凛には逆らえん』などと自虐する弓兵がいたが即座に否定できなかった。

「だいたい、おまえは優等生じゃなかったのか」
「うっさいわね、わたしの地を知っておきながらまだそんな事を言うつもりなの」

いや、だから言ってここまで荒らしますか普通。


「そんなんじゃ結婚できないぞ」



「ぐは」



こうかはばつぐんだ


「イヤミ、イヤミね。
 既に買い取り済みの余裕ね、ちくしょう。」

何気にヒドイ事を言う士郎に師匠の心はブロークンファンタニズム。
床に手と膝を着きぶつぶつと呪祖を愚痴を垂れ流す。

「あーうん、遠坂ならきっといい旦那ができると思うぞ。
 それにほら、俺と桜は結構早婚だからあまり参考にならないぞ。」

「ほんと?」

下から見上げるように凛は士郎の顔を見る。
透き通った青い瞳には士郎自身の姿が映り、近いせいか妻とはまた違う女性の香りがする。


「・・・ッ、おおう、本当だとも」


一瞬見惚れてしまったが、
生命の危機を感じた士郎が背中に冷や汗を流しつつ凛を慰める。

「ふんだ、そんな自信なさげで言われても信じられないし、
 可愛い妹を奪った衛宮君の意見なんて参考になるもんか。」

体育座りで背中を向ける凛は相変わらず不貞腐れる。
かつて学園でパーフェクトと言われた女性が地面にのの地を描く姿はなかなかシュールだ。

「ちがう、
 遠坂は今でもすごく魅力的な女の子だ。だって高校の時実は俺――――『シロウ』――っっっ」

いきなり自分の名を呼ばれて士郎は慌てて部屋のドアを見る。

「あ、ああ、ライダーね」
「ええ、ライダーです」
「ら、ライダーか」
「はい、シロウがリンに見惚れていた所など私は見ていませんのでご安心を。」

冷やかに2人を見る桜至上主義者ことライダー。
もしこれが桜なら嫉妬でバットエンドとまではいかないがお仕置き確定は間違いない。

「そ、そうか。ありがとうライダー」
「いえ、私も怒ったサクラには逆らえませんから・・・」
「そうよね、あの子あんな感じだったかしら?」

3人の脳裏に浮かんだのは黒い影を纏わせつつクスクスごーごーな姿。
衛宮家ならびに遠坂家におけるヒエラルキーの最上位に位置する桜には誰も逆らえず、
その恐怖を共有したものにしかわからないだろう。

「士郎さーん?
 お昼の材料でも買いに行きませんか?」

トテトテ、と廊下を鳴らしつつ噂の桜がやって来る気配。
一瞬3人はビクッ!!と肩を震わせたが幸い姿を見せた桜にはその意図が分らなかった。

「ん、わかった。
 でも、みんなで食べにいかないか?」

ドアからひょっこり顔を出した桜に士郎が答える。

「あ、そうですか。
 士郎さんがいうなら・・・。」

期待したのとは違う答えに桜は少し気持ちが落ち込む。
対して士郎は高校時代よりましになったとはいえその鈍感ぶりは健在で、
一体どうして妻が落ち込んだかわからず首をかしげつつ姉と従者にその理由を尋ねようとした所で。

「この鈍感!
 さっさと行った行った」

「鈍いですね、シロウ。
 ここは私とリンがやるのでシロウはサクラと一緒に買いだしに行ってください」

「おわっ!
 遠坂、それにライダーまで押すな、分ったから押すなって!」

鈍感男の抗議を無視し、
2人して背中をグイグイ押し出し鈍感男を桜に差し出す。


「ありがとうございます、姉さん、ライダー」


夫を受け止めると顔を赤らめ、
2人の意図を知っている桜は心から礼を述べる。

「あ、でもあんまり寄り道しちゃだめよ。特に昼間からの有料の休憩とかね」
「今晩じっくり楽しめばいいのですから」


しかし、ここで綺麗に収まらず台無しになる。


「ね、姉さん!!ライダーも冗談はほどほどにしてください!!
 ああ、もう。いいです、私は行きますからね。士郎さん行きましょう」

士郎とはかなりの身長差があるにも関わらず引きずりながら去って行った。

「まったく、立派な夫婦になってもあのへっぽこの鈍さは相変わらずね」
「ええ、まったくです」

話題に出るのは先の赤毛の優しいのっぽ。
ぶっきらぼうでかつては全てを救う事を目指し、今は桜だけのヒーロー。
彼の女性の好意に対する鈍さは一緒に過ごしてからわかったつもりだが、数年たっても治らないのは呆れと苦笑を覚える。

「ところでリン、
 シロウを送り出した時はあえて聞きませんでしたけど、いいのですか。2人だけにしても?」

「平気よ平気、条約は結ばれだし。
 偶然事件に巻き込まれない限りこの土地の守護者は魔術師を排除するはずよ」

守護者、という単語に嫌悪感と利用できる価値があるという意味を込めて言う。

「人工的な超能力の開発をしているここでは魔術師にとって敵であると同時に不可侵領域、
 外では神秘の秘匿さえできれば何をしても許されたがここでは学園都市そのものが敵に回る、だから安全と?」

「そ、だから桜と士郎を送った。まあ、それに。」

左腕をめくり上げてライダーに見せる。
そこには僅かに発光する基盤のようなものが見とれた。

「なるほど、使い魔による監視。
 驚きました、英霊の私を出し抜くとは流石ですリン」

息を吸うように神秘を扱ってきた女神に気付かれぬままの魔術行使。
その秘匿性、遠坂凛は間違いなく天才肌の魔術師であることは明らかでライダーは惜しげなく賞賛を送った。


「まあ、お人よし集団に鍛えられたからね」


そこには苦労した末に得た能力に対する賞賛への謙虚な態度でも、
また、魔術使いのような実用的な能力を褒められたことへの皮肉でもなく、ただ過去を懐かしむように凛は言った。


「隠れ十字教徒のコネがあの時ほど、ありがいモノはなかったわ」



※  ※  ※  ※



「基本は外と同じですね士郎さん」

「そうだな、
 でも携帯とか機械はやっぱりすごいぞ。
 特にあの自動に掃除してくれるロボットとか風車とか」

買い物籠を載せた台車を押しつつ桜と士郎は視線を上下左右に見渡す。
あの家に来る前まですでに1週間程学園都市のホテルに泊まっていたが、やはり珍しいのか完全にお上りさんである。

「あとあと、
 あのジャッジメントという人もすごかったですね、
 あの年で学園の治安を担っているなんて本当に学生の街なのですね」

「ああ、まだ小学校を卒業したばかりって感じなのに、
 俺もまさかテレポートをこの目で見るとは思わなかった」

道に迷った2人の姿を見た腕章を付けたツインテールの少女は道案内を行い、
感謝の言葉を2人から受け背中を返して別れる寸前、一体何を発見したのか奇声を挙げその場から消滅した。
何が起こったのか分らず慌てた士郎と桜だったが直後、今度は男性の断末魔じみたうめき声が脇の公園から響いた。


そして2人は目撃した、
ツインテールの少女が瞬間消滅と移動を繰り返しツンツン頭の少年に襲いかかる姿を。


そこで初めて2人は少女はいわゆるテレポートの能力者であることがわかった。
分って後、では何故彼女が人を襲うのか理解できずただ立ちすくみ、どうするべきか特に士郎は悩んだが、

桜曰く『姉さんと鍛錬するさいの士郎さんみたいですね』と呟き、
彼は少年と少女は自分が妻の姉に中国拳法でしごかれる姿と重ねる合わせ、少年に同胞とも言える感情が芽生えたが、
同時に彼らに介入すべきでないと納得して少年に同情しつつもその場を後にした。

「少年よ大志をいだけ・・・・・・」
「どういう意味ですか?」
「む、聞こえたのか。桜」

「?」マークを浮かべた妻に笑みを浮かべつつ士郎は答える。


「もしも、次に会えたら男同士で色々語り合えそうな気がしたからつい、な」


ニヒルっぽく、というよりカッコよく決めたつもりでアーチャーのような言い回しでその理由を言う。
もっとも、身長こそアーチャー並みだが覇気が足りないせいか可愛らしく見えるが、まあご愛居である。


「え、士郎さんって・・・そういえば柳洞寺先輩は・・・そんな、びーえ」


しかし、桜は別な深刻な誤解をしたようだ。

「断じて違う!!俺には桜しかいない!!!」

「いいんです、士郎さん。
 ライダーが言っていました英雄は色を好むと。
 でも、ごめんなさい。私は士郎さんが他の女の人と一緒にいるのは許せません、けど男だった幾らでもかまいませんよ」

「男ならいくらでもいいってなんでさ・・・いや、だから誤解です、いえ本当です」

ガヤガヤと騒ぐ2人の男女。
どこにでも居そうな日常で事実、彼らにとってはようやく取り戻した日常である。
これまでの人生を魔道という世俗から離れた異端に関わり、翻弄されてきた2人にとっては歪な形とはいえ取り戻した日常である。


あくまでつかの間の、日常。


「チ――――――」

黒い衣を纏った魔術師がいたのを彼らは知らなかった。





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