転生!‐アイルランドの光の御子‐
非業の死を迎えるはずだった英雄クーフーリン。
しかし、彼はゲッシュ破りの策略を破り、コノートの女王メイヴを容赦なく撃破。
やがて自分を下せる雄敵を求めてエリンの神々へと挑み神を殺しヘラクレスに匹敵する大英雄へと至った。
そして第四次聖杯戦争にセイバーとして召還された彼は自分と対等に戦える英雄を求め戦争に参加する。
もっともその正体は転生者であった……。
型月系は憑依者が少ないですが、本作品は兄貴ことクーフーリンに憑依した話。
と、なかなかレアなものであります。
そして、文章に物語の構成もしっかり丁寧に描写されており、今後の展開が楽しみです。
彼が手にする無数の宝具。光輝の剣クルージーン。恐槍ドゥヴシェフ。
馬の王と呼ばれる灰色のマハと黒色のセングレンという愛馬が牽くチャリオット。
一騎打ちを強制させる城壁結界。朋友フェルグスを破った際に譲られた聖剣カラドボルグ。
そしてクー・フーリンの象徴とも言える〈原因の槍〉ゲイ・ボルク。
数多の偉業を成し遂げその名声を比類なきものとしたクー・フーリンに、ある詩人が無謀にも総ての宝具を譲り渡すように要求しようとした。
その詩人は当時の、嘘でも詩人が広めたら真実になるという風潮に利し、彼の武具を根こそぎ奪い取ろうとした敵の回し者だった。
しかし、その計略は実を結ばなかった。敵が卑劣な手段を執るだろうと予め予見していたクー・フーリンの妻スカサハが・・・・・、
夫を守るために詩人の存在をクー・フーリンが認知してしまわないよう徹底して遮断したのだ。
本来それは、アルスター戦士にとって非常に不名誉な所業であり、当時は相応の非難を浴びたと言ってもよい。
妻スカサハの独断であると知られてから名誉は回復したものの、クー・フーリンは自身やアルスターの名誉に傷を付けた妻に、
一時は発狂するほどに激怒して、彼の怒りを静めるために総てのアルスター戦士が総出でかかったという。
その時のクー・フーリンの姿は怪物も斯くやといった有様であったことから、
本来なら光の御子ほどの大英雄には無縁であったはずの、狂戦士のクラス適性を得てしまうほどの狂乱ぶりであったとされる。
ともあれ、スカサハが夫の愛を失うのを覚悟し、詩人の存在を遮断したことによって、コノートの女王メイヴの策略は頓挫。
クー・フーリンは弱体化することなく、武具も失わず、敵の女王メイヴとその軍勢を単独で撃破した。
後に病を得たクー・フーリンが己の死期を悟り、妻が謀った詩人を探し出すと、
伝手と魔術を駆使して自身の宝具をどこかに隠させた。そしてその詩人を傍に呼び寄せて言ったのである。
――我の武具を求めるなら、くれてやろう。
この大地のいずこかに、この身の宝具が隠されている。
それは決して朽ちない守りを得て、万の時を経ようとも残り続けるだろう。
今でこそ神話の一節としてしか見られず、一切の信憑性を失ってしまったが、
日本ではこれがサブカルチャーのネタとして使われたり、
欧米でもクー・フーリンの隠した宝具を見つけた主人公が活躍するといったハリウッド映画が放映されたりしている。
故にクー・フーリンの知名度は世界的なもの。
サーヴァントが知名度に依存して能力を上下させるのだから、それだけでクー・フーリンの格が最高峰なのが窺える。
だがこの神話の一節をお伽噺としてしか捉えず、信憑性もないとしているのは表世界に限った話であり、
裏の世界――魔術師達の間では違う。これが現実のもので、今も彼の宝具が世界の何処かに眠っていると確信していた。
なぜなら魔術師とは神秘を学ぶ者。神秘の塊である宝具を、神代の卓越したルーン使いであり、
半神でもあるクー・フーリンが残せないわけがないと知っているからだ。
彼の宝具が現代に残っている可能性は非常に大きい。
マクレミッツという、宝具を現代まで受け継いでいる一族が存在していることも、信憑性を高める一因となっていた。
なによりクー・フーリンは虚言を嫌う性質であったと伝承で語られている。彼は生涯に一度も嘘を吐かなかった。
自分を守るためであったにも拘らず、詩人の存在を隠していた妻を一時とはいえ冷遇した事実からも疑う余地はない。
その精神性をして、現代でも正直者を指して「セタンタ」というクー・フーリンの幼名が使われるほどだ。
一部の魔術師が血眼になって宝具を探しても無理からぬ話である。