アーヴの怒り方
~(慈悲深いアーヴの壁)~
第一段階:推移を見守りたい
第二段階:対応を見守りたい
第三段階:反応を見守りたい
~(意思表示するアーヴの壁)~
第四段階:懸念を表明する
第五段階:強い懸念を表明する
~(怒りを示すアーヴの壁)~
第六段階:遺憾の意を示す
第七段階:強い遺憾の意を示す
~(苛立ち気味のアーヴの壁)~
第八段階:真に遺憾である
~(アーヴの微笑み)~
第九段階: 甚だ遺憾である
~(アーヴによる人類帝国)~
第十段階:よろしい、ならば戦争だ
ワローシュ伯国に伝わる政治寓話より
どうもこれは転生というものらしい。
気付いた時は前世と今との差異に唖然やら呆然とやらしたものだ。
下半身の大砲がなくなって性別が逆転していたこともあるが。
それ以上に何せ今は人類統合体が言う所の生体機械にして、
銀河を支配する<ア―ヴによる人類帝国>の星たちの眷属だと言われて。
前世の海軍士官との違い、習慣の違いに随分と戸惑ったがなんとか慣れた。
地獄行きを覚悟していた身として今の環境は天国のようなものだ。
戦争とはいえ前世で人を殺しておきながら地獄に落ちずに済んだのは幸いだ。
ただ、心残りがあるとすれば守や進がどうなったか。
既に太陽ごと星霧となって消えた地球の歴史は既に断片的にしか残っていない。
ましてや一個人の生涯など到底分るはずもなく、ただ息子の冥福を祈るしかない。
やがて月日が過ぎて俺は再び海軍士官・・・いや、星界軍の軍士になった。
前世が軍人ならば今世は違うこともできたはずだが―――三つ子の魂百まで。
というべきか、結局今世でも代々士官の家系ということもあるが、
前世から刻み込まれた宿命遺伝子というべきか、俺は艦に乗ることを選んだ。
しかし、少女としか言えない年頃でも軍士になれるとはアーヴの考えることは良くわからん。
まあ、そのお陰で俺のようななりでも士官になれるのだからありがたい。
そういうわけで、俺は二度目の軍隊生活を始めたが。
人類最後となるであろう戦争が始まった。
そのお陰で随分と早く雑用から解放されて、艦をもらえたわけだが・・・。
いや、しかし・・・。
まさか、皇族が水雷屋をするとはな。
たしかに前も宮様はいたがあれは飾りのようなものだったが。
そして自分が皇女。
おっと、王族直属の部下になるとはな。
ふむ、そろそろ時間か。
現在の皇帝の孫が指揮していることで有名である、
そして皇族の元に配属された部下は将来彼あるいは彼らを支えることを期待されており。
襲撃艦<フリーコヴ>の副長兼先任航法士は口数は少ないが有能な軍士として知られていた。
「時空融合するがよい」
「はい」
隊形を作るべく隣艦に接近する。
しかしそれより先に彼女の空色の瞳は厄介な相手を見つけた。
「機雷三基来る」
「時空融合を急がせるがよい」
艦長の命令を聞くや否や、
隣艦と素早く時空融合を果たした。
そして緊張感が溢れる戦場にも関わらず彼女の声は終始冷静なものであった。
「時空融合完了」
エクリュア・ウェフ=トリュズ・ノール十翔長
そう彼女は呼ばれているが、宗教の存在がないアーヴの中では彼女には前世がある。
藤堂明。
かつて大和の艦長としてレイテ湾に突入し、
米軍がひしめく沖縄に武蔵の艦長として帝国海軍の最後を飾った海の家系の末裔が彼女の前世である。
1945年 6月
ひどいものだ。
たった一隻に数隻の戦艦で襲うとは。
まるで、ビスマルク追撃戦のようだ。
とはいえ、さっきまでは我ながら随分と甘い考えを抱けたが、
後部砲塔は吹き飛んでから状況が変わった。
速度が低下した上に命中弾が増えて来た。
傾斜が酷く今にも転覆しそうだ。
潮時か・・・。
だが孤立なれども単艦で戦艦数隻を撃沈。
うん、間違いなく昇進と勲章ものだな。
だが残念なことにそれを受け取るのは俺の死んだ後だろう。
でも、いい。
海軍軍人としての本懐はここに遂げられた。
さよなら、進、守
礼子、貴子・・・父さんは今行くからな。
太平洋戦争末期、沖縄近郊にて一隻の戦艦が沈んだ。
彼が願った弧状列島の未来は輝かしいものであったが、
均質化してゆく世界に呑まれる形でその独自性を失う。
しかし、その間接的子孫はやがて遥かなる銀河を目指してゆく。