二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

令月余話 乾有彦ノ章

2021-08-29 17:41:03 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

遠野志貴はオレと同類の「壊れた」奴だが、
アイツの壊れっぷりはそれ以上の筋金入りだ。

「命」の実感なんて羽毛以下の重みしかなく、死体が動いているような奴だ。
今はマシになったけど、大昔のガギの頃なんざ「死」の気配マシマシのヤベー空気を纏っていた。

どうしてそうなったかなんて分かんねーが、
確かに言えることはアイツは昔から体が極端に弱かった。
小学生のガキの頃なんて軽く運動しただけでも救急車で運ばれた時もあったくらいだ。

思えばいわゆる日常を過ごすだけでもアイツにとっては多分、命懸けだった。
常に死ぬかもしれない可能性が日常生活に潜んでいる・・・となれば、まあ「壊れて」当然だな。

で、そんな奴の一番ダチがこの乾有彦様であり、
オレも色々あって同じく「壊れた」奴だけど、幸いと言うべきか身体は健康そのもの。
お陰様で今日まで日々好きな事をしたり、愛を囁いたりと自由気ままなナンパ人生を謳歌していけている。

だが、どうも最近風向きが変わってきたようだ。
ナンパは失敗続きで、上手く行っていないし、悪い運ばっか引き寄せている。

対してダチの方は本家とやら戻ってから急に華やかになりやがった。
枯れ木も山の賑わい、どころかここ最近は満開の桜が咲き誇ってやがる!

しかも、しかもだ――――。

「弓塚、お前、マジで遠野のとこでメイドしてたんだな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

メイドがいた。
弓塚さつきがメイドをしていた。

久々だけど何だが以前より女性の色気が増して美人になっていた。
いや、元々顔立ちは可愛い系だし、黙っていれば上玉だし、ビックリだぜ。

現代の吸血鬼騒動とか言われている殺人事件で一時期行方不明になり、
無事保護されてるも、家庭の事情で遠野の屋敷で働くようになったと聞いたけどさ・・・。

それよりも髪型が変わっていた、ポニーテールだ!
オレはストレートの方が結構好きだけど、メイド服とセットなポニーテールも悪くないなっ!
安直な「萌え~」なメイド服ではなく、実用的かつ機能美と装飾美のバランスが取れているのが良い!

メイド服!同級生!ポニーテール・・・そしてボクっ娘!
今、オレは声を大にして言いたい、性癖のハッピーセットや!

って・・・落ち着け、オレ。
思考が馬鹿をしている志貴レベルに堕ちている。
文章で状況を纏めて落ち着くんだ・・・よしっ!

『同級生にして中学生からの腐れ縁である弓塚さつきが親友である遠野志貴の家でメイドをしていた』

・・・やべー、文章に変換するとますます意味が分かんなくなる。
常識とか良識に喧嘩を売り過ぎだろ、現実にあっちゃ駄目な奴だろ?

エロいゲームの世界だろ?18禁設定だろ?
なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪

いや、なんでさ♪って何だよ。
嗚呼、ビックリしすぎて脳みその理解が追い付いていない。
つーか、よもやオカルトよりも怖い現実がまさかあるなんて・・・。

くっそ、これが深淵って奴か。
だとしたら聞かなきゃならない事が1つあるな――――。

「その。なんだ、えっと・・・。
 『志貴様』って事はそういうプレイなのか?
 もしかして、まさか、もう既に調教済みなのか!夜の御奉仕的な――――!!!」

「んなわけあるかーーーーー!!?」

「ちょ、おわああああああ!!!」

胸元を掴まれたけど・・・足が地面から浮いているぅぅうう!?
いくら女子の中でも体力がある方だとはいえ、ここまでの馬鹿力はなかったはずだ!
しかも、オレが足をバタつかせても弓塚の方はまったく影響を受けていない、どんな筋力してんだよ!?

「あ・・・あぁあぁあ――――!ご、ごめん!大丈夫?」

顔を青くした弓塚がオレを慌てて下ろす。

「ゆ、弓塚――――」

痛くはなかったけど、腰が抜けたぞ。
という言葉を言おうとしたが弓塚の顔を見て撤回する。

――――なんだって、そんな泣きそうな顔をしてんだよ、オイ?

「おいおい、服が伸びちまったじゃないかよ、わははは!」
「・・・・・・・・・」

弓塚は驚いた顔でこっちを見ている。
だけど、まだ心配そうに、怯えるようにオレを見ていた。

「心配すんなって、
 オレは不良だけど筋を通す良い不良で、
 弓塚がどんな事になってもダチだし、嫌う事なんてないぜ」

「・・・っぷ、あははは!
『良』の字に否定の『不』を書き足した『不良』
 だから良い不良なんて矛盾の極みじゃん、有彦!
 でも、うん、有彦のそーいう真っ直ぐな所、助かる・・・ありがとう」

オレの言葉を聞いた弓塚はひとしきり笑ってから、微笑んだ。
色気を帯びたその仕草にオレは一瞬、表現し難い違和感を覚えた。

「有彦?」

「いや、弓塚。
 なんでもねー。
 へへへ、どーいたしまして」

己の馬鹿さ加減にオレは笑う。
あほ臭い、色気は色気でも、女性ではなく美しい獣の色気
なんて詩的でオカルトな言葉、どうしてオレの中で浮かんできたんだろう?

「2人ともじゃれ合いはさて置き、
 久々に3人で集まれたんだから乾杯しよっか?」

「お、そうだな!そうしようぜ!
 気を取り直してメイドっちんのコーヒーを飲もうか!」

「メイドっちん、って何やねん」という小言を受けつつ、
あの忌々しい連続猟奇殺人事件以来、ようやく揃った3人で久方ぶりの祝杯を挙げた。

「――――うめぇな!喫茶店の味じゃん!」

銅製のマグカップには氷が浮かんだアイス珈琲。
対してオレが知る珈琲とは「コーヒー」でしかない。
ファミレスとか、缶とか、インスタントの物しか知らない。

だから断言してもいい。
これは間違いなく喫茶店に出てくる本当に美味い珈琲、って奴だ。

「早朝屋敷でボクが焙煎したばかりの、良い珈琲豆だからね、
 紅茶は琥珀さん、翡翠さんには及ばないけど珈琲なら何とか勝負できるよ」

「屋敷で焙煎って・・・流石金持ち。
 というか弓塚が焙煎したのか、すげぇ!
 そーいや、弓塚は小学生の頃から珈琲飲めたと言ってたな」

弓塚は昔から珈琲が飲めるし、好んで飲んで、自分で作っていた。
小遣いを貯めては珈琲の器具を揃え、わざわざ豆を買いに行っていた。
なんというか趣味嗜好、それと思考の全てが他の誰よりも一歩どころか三歩以上進んでいた気がする。

「焙煎機材は今は亡き親父のコレクション。
 ・・・もとい、ガラクタとして放置してた奴をさつきが再利用したんだ。
 顔なんて録に覚えてないけど、今こうして美味しい珈琲が飲めるんだから親父殿には感謝だな」

わざとらしく黙祷する志貴。
ガキの頃から人畜無害な顔をして結構な毒舌を吐く奴である。


「ん、でも台所で金網で焙煎するのと仕組みが違うし、
 秋葉様・・・秋葉さんからは味についてアレコレ小言を言われているからまだまだ精進しないと」

「あははは、兄貴の俺が言うのもあれだけど、
 秋葉は根っこからの女王様気質で言い方がキツイからな。
 でも、なんだかんだで琥珀さん、翡翠も含めて皆で珈琲を美味しく飲んでいるし」

2人にしか実感できない内輪の話。
だけど、弓塚がこの屋敷で居場所を作れたのと、穏やかに過ごせている事だけは理解できた。

「上手くやっているから安心したぜ。
 でも弓塚はスゲーよな、住込みでメイドとして働いているだろ?
 その上でもうすぐ夜間高校に通うなんてオレ、本気で尊敬するな」

弓塚は不良街道を爆走するオレと違って、
根っこの部分は勉強を頑張れるし、家族だってちゃんとある。
にも拘らず何で「お〇ん」の真似事をする羽目になったんだが・・・本当、カミサマって奴は。

「お褒めの言葉、感謝乙。
 でも、まさかボクがメイドするなんて想像できなかったよ。
 描いていた未来なんて精々、高卒後地方公務員で就職。
 あるいは大学進学のために上京して就職する程度だったし」

「就職かぁ・・・あー、ヤダヤダ。
 未来永劫、気楽な学生身分にいたいな――――・・・」

もはや呪い、呪詛の概念と化した言霊だ。
しかも世の中に流れる評判によれば大卒でも就職は厳しいらしく、
今が楽しければ良い、そんなオレとは正反対な概念なんて耳にするだけでも鬱になりそうだ。

「ふふん、俺には関係のない話だね。
 なんだってこう見えても遠野財閥の長男だしな」

「あぁん!働かずに食う飯はうまいか?
 最近身の回りが華やかになっているからって調子に乗るんじゃねー!」

ドヤ顔を浮かべるアイツに噛みつく。

「もちろん美味しいさ!
 毎朝翡翠が起こしに来てくれるし、
 毎朝琥珀さんが美味しいご飯を作ってくれる!
 いやー、御曹司として生まれて本当によかった、働かずに食う飯はうまいなぁ!」

「くっそ!ブルジョワめ!滅びろ!滅びてしまえ!」

忘れがちだが、コイツは金持ちな家系生まれだ。
成金とかではなく、地元三咲町では代々名士な家柄だ。

だから不良なオレと志貴がつるむの件について昔は「忠告」してきた大人がいた。
ま、単にオレの反骨精神を滾らせただけに終わったけどな!

「あははははは!!」

そんな野郎2人の漫才を見ていた弓塚が心底おかしそうに笑い声をあげている。
女性的、というより男性的な笑い方で、どこも変わっていない事が確認できて安心する。

「本当にこの関係は良いね、うん。
 ・・・やっと日常に戻った、帰ってこれたと実感できたよ」

笑いながら、安堵するように弓塚が呟いた。

「おう、だったら今日はトコトン馬鹿話しよーぜ!
 何つったて、麗しき学生時代なんて一瞬に過ぎちまう!一秒一瞬が愛しいぜ!」

オレの言葉にどうしてか弓塚は虚をつかれた顔を浮かべ、

「――――永遠なんて少しも欲しくはない、だったかな?」

そんな言葉をフレーズに乗せて口にした。
ここではないどこか遠く、懐かしそうに。
二度と戻れない場所を見るかのように、呟いた。

「――――さつき」

「あっ・・・ごめん、変な雰囲気にしちゃって!
 じゃあ、話そう!今日はもう仕事がないし、とことん話そう!」

志貴の催促に弓塚が我に返る。
オレはなんとなく2人は共通の秘密を抱えているのを察した。

たぶん、あの連続殺人事件がきっかけだ。
きっと、オレが知らぬ間に何かがあったんだろう。
おおかた、オレには関われない何かを経験したんだろう。
恐らく、オレには助ける手段もなかったのだろう。

「おうよ、望む所だぜ、さっちん!」

ま、それでもオレはオレだ。
オレが2人の友人であることに変わりないし、
2人もオレがそうであり続ける事を望んでいるに違いない。

オレは乾有彦。
遠野志貴と弓塚さつきの親友。
それ以上でもそれ以下の何者でない。

それだけさ。


 

 

 

 

 

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ACT.15「昔話」

2021-08-25 20:56:30 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「志貴、貴方にとって弓塚さつきはどのような存在ですか?」

いよいよタタリと対峙する道中、シオンは突然そう切り出した。
視線は先ほど俺に自分とタタリの関わりを語った時と違い、刺々しい。

「どのような存在って・・・」

シオンにしては抽象的な問いかけに俺は戸惑った。

おまけに刺々しいけど気のせいかシオンはどこかで怯え、
今までにない未知を知って感情の整理ができていない、ような・・・。

ここは、そうだな・・・緊張をほぐすために――――。


1、遠野家の新人メイドだな、うん!
2、ただの友人だよ。
3、今のところ、全然わかんないのよねー。アハハハ!
4、強敵と書いて友と呼ぶ!


「遠野家の新人メイドだな、うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

渾身のキメ顔でそう言った。
計算外の回答を聞いてシオンは混乱している。

こうかはばつぐんだ!

・・・だが、これは冗談ではなく本当の話であり、一応理由もある。
原因は吸血鬼になって太陽の下を歩けず、人としての日常生活を過ごせなくなったせいだ。
とてもじゃないが自宅に帰れないし、万が一の事を考えると遠野の屋敷にいた方が対応できる。

だから現在は「遠野家で保護、養われている魔」という立ち位置に落ち着き、
普段は屋敷で琥珀さん、翡翠と一緒に働く夜間限定の新人メイドとして働く日々を送っている。

なお表向きは、

「行方不明になった弓塚さつきは発見されるも、
 家庭の事情で学校は一度休学し、遠野の屋敷にて住込みで働きつつ、夜間部へ編入した」

という形で必要書類の提出や暗示、アリバイ工作をしている最中だ。
もう少しすれば夜間だが復学も夢ではない。

それで新人メイドとして働くさつきについて遠野家の反応だが、
まず秋葉は・・・ロア、もとい四季さえ殺せばさつきが吸血鬼ならずに済んだから責任を感じている。

だけど、同じ「魔性」で表の世界には出せない悩みを抱えているから、秋葉とさつきの仲は悪くない。
一時期は互いに殺し合った仲だけど、それはそれで仕方がなかった事だと納得している。

翡翠は部外者が来たことで当初は警戒していたけど、
朝に俺を起こしに行く仕事を奪わないし、力仕事で頼りになる存在と認識してくれるようになった。

それと意外だけど翡翠がメイドとしての礼儀作法をさつきに教育する役割を自分から志願した。
言い出した時は俺や秋葉だけでなく、琥珀さんまで見たことがない顔で驚いたな、あれが素なのか?

琥珀さんは「し〇じろうゲットだぜ!」とさつきに対して好意的である。
さつきの方も『面白い人』と好意を抱いているけど時々距離の取り方を図っている気がする。
理由は分からないけど、それで仲が悪いところなんてないし、ゲームとか一緒によく遊んでいる。

それにしても同級生で中学以来の女友人が自宅でメイドさんとして働いている。

なんてシチュエーション、琥珀さんが『エッチなゲームみたいですね、志貴さん!』なんて煽った通りである。

制服や私服姿には見慣れていたけど、翡翠と同じメイド服姿はなんだか新鮮だし、
仕事モードの時は翡翠とよく似た音色で『志貴様』と言われるからドキドキする。

基本活動時間は夜間だけど、
夜明けの直射日光対策に白の手袋とフードを装備してる上に、
夜にシエル先輩、アルクェイドと活動する時もあるから靴は頑丈な編み上げブーツ。
などなど、と露出度がかなり低いから翡翠より清楚感が1割程増している。

しかもメイド服を着用している時の髪型は、俺はわりと好きだけど最近みかけないポニーテール!
館の主人として、友人として渾身丁寧な土下座を以てお願いしたらさつきはドン引きしたな。
だけど髪が伸びてたからポニーテールにしてくれたし、最後は写真撮影まで同意してくれた。

メイド服!同級生!ポニーテール!
今、俺は声を大にして言いたい、性癖のバーゲンセールや!

答えは得た。
大丈夫だよ、先生。
俺もこれから頑張って――――。

「志、貴」

むらさきいろの、おにがいた。
めらめらと、ほのおをまとっている。

「怒ってないので、真面目に、考えた上で、答えて下さいね、ね?」

シオンが優しく微笑む。
うん、こうしてじっくり見るとなかなかの美人さんだ。

だけど米神に青筋を浮かべていなければ、
それと頭部に拳銃を押し付けられてなければ、よかったんだけどな――――・・・。

「ははははは、
 ごめん、ごめんシオン。
 ちょっと緊張を解そうと思った冗談だよ、冗談」

「ほう、確かに緊張は解れましたが、
 私の中で怒りという名の感情が上昇しているのを報告します」

・・・・・・おうぅ、ゴット。どうやらお気に召さないようだ。

「そもそも――――私は一度弓塚さつきに対して殺意を以て攻撃した。
 弓塚さつきは貴方にとって大切な人間では?にも拘わらず、
 何故貴方は私と共にタタリの討伐に同行しているのですか?理解できない」

・・・どうやら、さつきだけでなく、
俺もシオンからすれば理解できない存在だったらしい。

だけど、安心する。
シオンの悩みはこの程度の話だったのだから。

「や、シオン。
 それを言い出したら俺はアルクェイドを17分割したし、
 シエル先輩は対吸血鬼装備でさつきを殺そうとしたし、
 秋葉なんかは全身から体温を奪って殺そうとしたりと、
 両腕を切り落としたシオンよりもっと本気で、確実にさつきを殺しに来たぞ」

今は遊びに行ったり、デートするような関係だけど。
出会ったきっかけは常に殺し合いだ。

シエル先輩はさつきを吸血鬼として討伐しようとした。
さつきはシエル先輩の足をフライドチキンの感覚で食べた。
秋葉はさつきを即身仏にするつもりで殺そうとした。
俺は、と言えばアルクェイドを一度バラバラ死体にした。

それでいて、今は互いを信頼、信用している。
因果関係を思い返せば色んな意味で無茶苦茶な関係である。
俺たちの人物関係を『殺し愛な関係』とボヤいたさつきの理屈も頷ける。

「・・・・・・・・・すみません、知れば知るほど意味が分かりません」

シオンが頭痛に堪えるように頭を抱えた。
まるで深淵でも覗き込んだみたいだ。

「もう、見ました。ええ、見ましたとも。
 自分の在り方、矛盾点をよもや弓塚さつきを介して知り、
 知らない方が幸せだった事実、厄介な事実を知ることになるとは・・・本当に」

ハァ、とため息をシオンが吐く。

「え、そんなに凄いのか?さつきって?」

俺なんかよりも遥かに頭が良いシオンの口から、
よもやさつきが厄介な存在と評価するなんて予想外である。
魔女や代行者、魔術師、吸血鬼が蔓延るこの街のヒエラルキー的にまちがいなく最下位だと言うのに。

「規格外筆頭の貴方が言う台詞ですか!
 第一・・・話がそれましたね、もう一度質問します。
 志貴、貴方から見て弓塚さつきはどのような存在ですか?」

理性を伴った鋭利な視線でシオンが問う。

「別に、さつきは今でこそ吸血鬼、死徒だけど、
 俺からすれば中学からの友人、腐れ縁な仲に変わらないけど・・・。
 うん、俺は壊れた存在でお互い「普通」じゃなかったから、気づいたら一緒にいた感じかな?」

「壊れた存在・・・?」

我々魔術師の方がよっぽど壊れている。
と、言いたげで疑問を抱いていそうなシオンに対し、
目の前の相手に対してではなく、自分自身へ自分を語るように語る。

幼少期、俺は俺のルーツ。
七夜という名、それと四季とあの事件を忘却した事。

そして臨死体験をした挙げ句この「眼」を手にいれた事。
「先生」と出会って、生き方を覚えた事。

しかも俺には本当の家族、血縁上の父親母親を知らない事。
まったく記憶にないし挙げ句、一度遠野の家から追い出された事。

分家の有馬の家で育った事。
そして再度遠野家で暮らすことになった事。

その全てをシオンに語った上で綴る。

「そんな感じで俺は世間一般の人とはあり方が少し特殊なんだ。
 俺は死を理解しすぎているし、悟り過ぎている、壊れたヤツなんだよ」

しかも俺は人より体が弱い、脆い。
それを悪意を以て、または善意で以て指摘され、劣等感を覚えた事だってある。

それに「眼」を手にいれてからは信じている世界はこんなに脆く。
容易く死ぬことを理解してしまった。

だから俺は達観していた、俺自身を。
俺は傍観していた、この世界を。

そんな中、俺は同類である乾有彦と出会った。
同じ壊れた者同士、アイツがいなかったら遠野志貴はかけがえのない幼年期を無駄にした筈だ。

さらに中学に上がった時。
似たようなお仲間ともう1人巡り合えた。

「さつきは俺と同類、ああ見て似た者同士なんだ。
 今でこそ、自分の立ち位置や振る舞い方に妥協を見出したけど、
 出会った当時のさつきは、心と肉体に折り合いがつかなくて苦労していたんだ」

中学時代、不機嫌そうにしていた彼女の顔はよく覚えている。
漏れ聞こえていた小学校時代の武勇伝やら迷勇伝で名前だけは知っていた。
女の子だけど男だと主張している変な奴がいる、という噂だけは耳にしていた。

そして、子供とは善悪の区別が未完成で、物語に出てくる妖精みたいな存在だ。
感情の制御ができていないから簡単に喧嘩になるし、【異物】に対して悪意なく暴力を振るう。
だから苛めがあったし、さつきは苛めた相手に対しては割と同じ暴力で対応したようだ。

それでいて苛めの証拠をガッチリ押さえて裁判沙汰を目論んだだの、
何というか・・・可愛い顔をしていて、小学生らしからぬ可愛げのない話ばかり聞こえていた。

「・・・・・・魂と肉体の不一致、もしくは――――」
「シオン?」

ボソッとシオンが呟いた。

「いえ、志貴。
 話を続けてください。
 貴方が語る貴方自身の在り方。
 それと弓塚さつきの人物像はとても興味深い、続けて下さい」

「うん、分かった続けよう」

シオンに催促されたので語りを再開する。

中学時代。
相変わらず体が弱い俺はよく保健室でお世話になった。
酷い時は自力で保健室へ行けないからそんな時はクラスの保健委員が付添人として、
保健室まで案内する事になっていけど――――その担当が弓塚さつきだった。

『ふぅん・・・三次元だとこんな感じなんだ、遠野君は』

始めて会話した内容はたしかこんな感じだった。
失礼、というよりも不思議な物言いだった。
純粋な好奇心、そんな気がした。

『そういう弓塚さんだって、同じ三次元じゃないか』
『ボクは異次元からの来訪者なんだよ』

意味不明なやり取りだった。
まだ親しくなかったが一人称がボクと言い、噂通りの変人だと思った。

男子とは喧嘩し、女子とは話が合わず孤立。
その癖、しっかり勉強していたから成績は上位をキープしてた自称心は男な問題児。

だけど、小学生以来。
誰もが臨死体験を得て纏った俺の「死」の気配に怯え、
隣の席に座るのを嫌がられる中、彼女は平気な顔をしていた。

『ほら、手を出して。
 あるいはボクの肩に手を添えるんだ。
 どうせ自分で歩くのも辛い、違うか?』

『うん、そうだけど・・・。
 弓塚さんは良いの?噂になるよ?。
 それに俺、遠野の家だけど今は有馬の家にいるんだよ?』

今でこそ馬鹿みたいな話だと言えるが、
中学校では男女が触れただけで付き合っているだの揶揄された。

加えて遠野家と言えば表向きは財閥の名士として三咲町では有名な家だ。
そこから表向き長男にも関わらず放り出された『訳あり』な俺と好んで関わろうとする同級生は稀だった。

『噂の伝播速度は音速並、
 プライバシーなんて基本ない存在、地方あるあるだな。
 そもそも、本当の意味で『訳あり』なら遠野君は今頃『有馬君』と呼ばれていたはずなのに、
 未だ『遠野君』とボクから呼ばれている辺り、我々子供がそこまで心配する話じゃないと思うけどね?』

さつきはそう言うと鼻で笑った。
思い返せばさつきは年齢と知性が一致していない頭の良さがあった気がする。

うん、そうだ、シオンと話している内に思い出して来た。
さらに、さつきは言ったんだ。

『それに、ここで遠野君に胡麻を擦っておけば、
 将来の就職的に有利になるだろうしね、源氏バンザイ!
 遠野グループバンザイ!ビバ、親方遠野グループ!なんちゃって・・・』

あははは、これには思わず噴き出したな。
普通は玉の輿狙いだろ!と突っ込みそうになったよ。

それで俺は確信した。
弓塚さつきは俺や乾有彦と同じく「普通」じゃない仲間なんだと。

『変わっているね、弓塚さんは。
 いや、故障しているね、弓塚さんは』

『割と笑顔でキツイ事言うね、君。
 しかし、故障、故障かぁ・・・まっ、そうかもね今後とも、ヨロシク』

それが俺と弓塚さつきの出会いだった。

「と、まあ。
 そんな感じで有彦と3人でつるんできたんだ。
 俺が言うのも何だけど・・・一般人の生活なんて、その・・・。
 シオンみたいな頭が良い人間が聞いても面白い話じゃなかったと思うぞ?」

「そんな事はありません。
 志貴の昔話を聞いて私は優越感を得てますし、
 主観を介して語られる弓塚さつきの人物像はデータ収集の一環として貴重です」

ドヤ顔でシオンは胸を張った。
何で俺の昔話を聞けて優越感を得ているのか謎だけど、
悲壮な覚悟を抱いていたシオンの緊張が解れているので、それで良いか。 
でも「データ収集の一環」と言うあたり、シオンらしくてうん、好きだな。

「・・・っ、ゴホン!
 私の計算によればまだ時間はあります、続けて下さい」

「おいおい、大丈夫なのか?」

時間はある、と断言したけど。
シオンは何だか途中から目的と手段が逆転してしまうような、
そんな頭の良さがある気がするから――――ほんの少し、ちょっと不安だ。

「問・題・あ・り・ま・せ・ん!
 後はあのビルの中に入ればいいだけではないですか!
 何ですか?戦う前に私の緊張感をほぐすつもりではなかったのですか!?」

顔を赤らめつつ、目の前にそびえ立つビル。
「シュライン」を指さしながらシオンが吠えた。

「はいはい、分かりましたよ」

どう見てもムキになっている。
なんて事は口にせず、俺は要望を了承し、
かまって委員長気質のシオンの期待に応じるべく、
戦う前の短い時間だけど、俺は俺の物語と昔話をシオンに語り続けた。

 

 

 

 

 

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ACT.14「蹂躙」

2020-04-15 16:44:30 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

シオンに襲われてまた寝込んで一晩。
街に漂う気配は不穏かつ不気味な空気をより一層濃く纏っている。

ネオン輝く繁華街も明かりは消え失せ、
オフィス街で働いていた人々は既に我が家へと帰宅済み。
と、まるで図ったかのように人の気配が早々と街から消え失せている。

元々タタリが流す不穏な噂で人々が怯えていたこともあるが―――――人の気配が無さすぎる。
そのくせあの神殿の名を冠したビルを軸として妙に血生臭い空気と臭いが街全体に漂っている。

だから黒レンに叩き起こされた時から直ぐに悟った。
いよいよタタリが動きだしたと。

タタリがどこにいるか調べなくとも『知っている』
そして志貴たちはどこへ行って戦っているは『分かっている』
だから屋敷から飛び出し、公園を通り抜けてあのビルへと急いでいたのだが・・・・・・。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

気配すらもなかったにも関わらずいきなり目の前に現れた不審人物。
姿、形から誰であるかは察しはつくけど、

「おいおい、沈黙なんて酷いじゃないか?
 俺との仲だろ、怖い顔して何処へ行くんだい?」

「で、誰?
 お約束だから名前を聞こうか?」

音声から既に察したが改めて問いただす。

「吾は遠野志貴の面影、七夜志貴。
 吾は糸を巣と張る蜘蛛―――――。
 ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ」

そうドヤ顔でそう宣言した。
この着崩した制服を纏った青年の名を知っている。
遠野志貴の裏、「七夜」の部分が出た偽物、七夜志貴なのだが・・・。

「うわ、うわ、うわぁ・・・・・・」

知ってたけど、知っていたけど!
三次元で聞いて、見て、言われると・・・ドン引きだよ!
『中二病乙WWW』なんて笑い飛ばす余裕なんてまるでなかったぜ!
これが自分の深層心理と知ったら本人は恥ずかしさのあまり憤死まったなしだよ!?

これ以上ないドヤ顔なのが見ていて痛々しいし、
こーいうのが好きな白レンって・・・・・・ま、まぁ、好みは人それぞれだし。

「ハハハ・・・っ!
 そんなに固くなるなよ、
 俺とさつきで仲良く本音をぶつけ合って愛し合うだけだろ?」

「愛は愛でも殺し『愛』でしょ?」

「よく分かってるじゃないか!
 眠っていた俺が偽の肉の檻を得て起きたことは、殺せってことだ。
 さあ、殺し合おう!同級生同士で殺し合いをするなんてなかなかそそるじゃないか!」

「あー、はいはいはい、知ってたし・・・・・・」

型月ではもはやお約束となった概念「殺し愛」を正面からぶつけられ、
表情がチベットスナギツネみたく何とも言えない虚無の感情が出ていることは自分でもよーく分かった。

それは兎も角。
ここでこの七夜を倒さない限り先へと行けないことは確かである。

で、あるならやることは一つ。
最初はグー、じゃーんーけーん・・・。

「死ね―――――!」

公園の砂利を七夜へ向けて巻き上げるように蹴飛ばす。
吸血鬼の馬鹿力で飛ばされた砂利はさながら散弾銃から放たれた散弾のごとく高速かつ広範囲で散らばる。

常人ならばそのまま全身穴だらけ。
いや、潰れたトマトか挽肉になり「見せられないよ!」な状態になること待ったなしである。

「成程成程。
 点ではなく面で潰しに来たか、怖い怖い」

しかし相手はあの七夜。
この程度避けることなど彼にとっては造作ない。

「いい挨拶じゃないか、ええ?
 お陰様で腕を一本持っていかれたじゃないか」

とはいえ流石に全てを避け切ることはできなかったようで、
土煙から現れた時、左腕側の肘から先が無くなっていた。

「・・・だからと言って、
 そっちは服だけを切り裂くとかどういう了見だ!
 このエロガッパ!絶倫眼鏡!すけこまし!天狼星の代役!」

で、こっちも腕の一本くらい取られると思っていたけど、
何故か服だけ切り裂かれて上半身ブラジャー姿であった・・・痴女だよこれ!?

「仕方ないだろ?
 さつきは俺が腕を切った瞬間のカウンターを狙っていただろ?」

「・・・否定できない」

真正面から戦えば必ず負ける。
よって初手は面で制圧、それを突破してきたら相打ち覚悟のカウンターをする。
だが、この程度の考えなど戦闘民族な七夜には通用しなかった。

「それにしては―――――欲情するなぁ」

などと言いつつナイフを舐める事案案件な変態が目の前にいた。

「秋葉さんに言いつけるぞ、この変態」

ボクは元男なので七夜の視線や仕草からして、
本気なのが手に取るように分かる、分かりたくないかったけど。

「ああ、それなら問題ない。
 むしろ互いに殺し合う都合が出来たと言える」

「同級生がラッキースケしたので妹に言いつけると言ったが、妹と殺し会いする良い切っ掛け」と返された件について。
・・・・・・おっかしーなー、ここは「シ○ルイ」の世界線か?

「秋葉とオレは兄妹。
 だから殺さなきゃ本当の関係じゃない。
 そして秋葉なら確実にオレを殺しに来る!
 一切の躊躇も、遠慮も、隠し事もしない最高の妹だ!」

そして「全力で殺しに来るであろう妹」を称賛する兄がいた。
というか七夜であった・・・薩摩のぼっけもんもビックリな倫理観だよ・・・。

しかも「主人公を殺すほど愛している」型月ヒロインの一人である秋葉さんなら、と確信できるのが余計に嫌だ・・・。
これが漫画とかアニメ越しで一読者一ファンとして知るだけなら登場人物たちの個性に胸をときめかせたであろう。


が、ここは残念残酷無常無惨な現実。
当事者として関わっているボクとしてはもう頭が痛いどころでなく、帰って寝たい気分だ・・・。

「もっとも秋葉はさつきと違って服を剥いでも面白くない体だがな」

言わなくてもよい一言を言ってしまう。
いや、言ってしまい逝ってしまうのは志貴とまったく同じである。

遠野であろうと七夜であろうと何だかんだで根は同じ「志貴」なのを知りえたのは少しホッとする。
とはいえ、この後発生するであろう残酷無惨残虐劇場の開幕についてはもう自業自得と切り捨てるしかない。


何せ今夜がタタリとの決戦だと気づいてボクは【屋敷の主と共に飛び出た】のだから・・・。


「ぎ、ぎゃああああ、ぁぁぁあああああ!!!?」

突然七夜が絶叫する。
血とあらゆる体液が混ざった嫌な臭いが噴き出る。

七夜と言えども「全身から気化した体温が蒸気となって穴と言う穴から噴き出す」
という、ファラリスの雄牛のごとく責め苦に晒されては流石に痛みを表現するようだ。

屋敷を一緒に出る前に、
ボクが先行してタタリが使役する偽物と対峙し、
そっちはここぞといタイミングで介入すると話したけど・・・本当に容赦ない。

そしてこれを躊躇なくやってのける人物をボクは知っている。
いや、改めて見ると本当よく生き残ったなぁ、ボク・・・・・・。
何の魔術的前兆もなく強制的に対象の体温を略奪することができる人物なんて一人だけしかいない。


「あらあらあらあら、ミディアム程度で悲鳴を挙げるなんて情けないですわ―――――兄さん」


いや、絶対初手からウェルダンしてきたでしょうーに。
と、突っ込みを入れたいトコだが、空気が読める平均的日本人兼吸血鬼なボクは黙っておく。
何せ今の秋葉さんはかつてボクと対峙した時より絶好調―――――というか、ぶっちゃけコワイ!?

「弓塚さん」
「は、はい!?」

秋葉さんの呼びかけに対して思わず直立不動の体勢を取る。

「七夜については私にまかせてください。
 ああ、弓塚さんが心配なさらずとも大丈夫です、
 兄さんは逃げ足が速いのはよく知っているので、先に足腰を念入りに潰しました・・・」

「逃げられないように兄の足腰を潰した」とのたまう妹がいた、鬼だ、鬼だよこれ。
本当、型月ヒロイン道は茨道どころか覚悟完了、修羅道上等なのが多すぎぃ・・・。

「じゃあ、お言葉に甘えて!!」

ビシッと挨拶を決めてその場から即座に離脱する。
ボクの気持ちは一分一秒でもこの場から離れることとしか頭にない。
一瞬、七夜と眼が合って「タスケテ」なんて言ってたような気がするが多分気のせいだ、気のせい。


ネイビー。

 

 

 

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ACT.13「胎動」

2020-04-07 00:37:54 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編


根源を目指す魔術師という人種は真理を探究するとい点において科学者と同じである。
違うのは方向性が未来でなく過去であり、過去の再現を以て未踏の領域を目指すことにある。

しかし過去を目指すがゆえに魔術は衰退することが決まっていた。
ならば一致団結してこの問題に対応しているかといえばなかった、できなかった。

魔術師といえども人間であり、探究より象牙の塔に籠り権力闘争を楽しむ。
ということは魔術師の貴族主義的な仕組みと合わさってもはや当たり前の現象と化していた。

そんな中。
今から500年ほど前にある錬金術師が現れた。

男は天才錬金術師であった。
そして真面目で理想主義者であった。
だからこそ魔術協会における三大部門の頂点の1つにたどり着けた。

しかし男には悩みがあった。
どう計算しても人類滅亡という未来の予想を覆すことができなかった。

人間の平均寿命より先。
親、子、孫、と幾世代もの先の先の未来の予想であり、
人類滅亡より先に男が寿命で亡くなる方が先の話であるので自分には関係ない。

そう開き直る選択もできたが男は真面目で理想主義であった。
ゆえに男は諦めることを認めず考えて、考えて、考え続け―――――――狂った。

魔法に挑むが敗退。
肉体は滅び霊子で漂う存在となり果てる。
しかしそれでも男の意思は存在し続け、いつ来るか奇跡の日まで待ち続けた。
その過程で大勢の人間が亡くなることも「些末な事象」と切って捨てつつ生き続けた。

だがそれも今日で終わる。
今宵こそ必ずや奇跡に届くと男、否タタリは確信していた。
何せこれまでの舞台を予想を上回る役者たちが揃いつつああったからだ。
役者が豪勢であればあるほど人々の噂は誇張され、タタリの術式はより強化される。

自身の能力の強化。
存在の強化ともいうべき行為は奇跡へ近づくと同意義である。

―――――ズェヌピアはアトラスの禁を破り外界で研究を重ね果てに吸血鬼となった。
          結果エルトナムの権威は失墜しエルトナムの者は一生消えぬ罪を負わされました・・・。

そんな時、男の子孫が呟いた。
これに対して男は未だ自身と向き合わない彼女に対して嘲笑する。
すでにこの街の隅々まで把握しているのでこの場にいなくとも彼女の言葉を聞けた。
シオン・エルトナム・アトラシア。
彼女が障害になることは万が一にもないことは計算済みである。
哀れな舞台観客として、悲劇のヒロイン役として今宵にて命を落とすであろう。
 
―――――君は戦う前からワラキアに負けるつもりか?
 
シオンに付き添っていた青年、遠野志貴が言葉を口にする。
これに男は人の形として顕現していないにもかかわらず心臓の鼓動が高ぶりと感情の揺らぎが発生する。
そして一連の現象が久々に人間らしい感情の揺らぎ、すなわち動揺という物であることを思い出す。
 
タタリとなって以来あり得ない事象に一瞬思考が停止。
すぐに再開するが表現しがたい感情に支配されかけ男は久方ぶりに苛立ちを覚える。
 
やはり、脅威とみなすならこの男と弓塚さつき、という吸血鬼もどきに違いない。
 
そう男は確信する。
異能を有し、才能に恵まれてはいるが2人とも魔術の「ま」を知っていても実力は素人当然。
しかし、幾度も幾重も何度も計算するたびに真祖の姫と共に最大の障害として立ちふさがる結果がでる。
 
埋葬機関、代行者、錬金術師、鬼。
これらを差し置いて脅威として立ちふさがる結果がでるのは『違和感』を覚える。
抑止力、という可能性も考えたがそれに相応しいのは―――――。
 
ほう、言峰め。
なかなか良い顔をするではないか。
例え幻であろうと貴様の人間らしい欲望の発露、実に甘美だ。
 
足止め役として出した第四次聖杯戦争におけるセイバーのマスターと対決しているのは冬木より来た代行者。
何故かマスターでもある代行者を手助けせず見物に徹しているサーヴァント、アーチャーが呟く。
 
―――――相応しいならこのサーヴァントであろう。

第四次聖杯戦争のサーヴァントが未だ現世に留まっており、
しかもこの三咲町へこのタイミングで来たのは抑止力の存在を後押しを証明する。
加えてサーヴァントとしての真名も「人類最古の王」であることはさらに抑止力の存在を肯定する。
 
だが、同時にいくら過去の人類史における英霊。
と言えどもサーヴァントは根本的には『魔術師の使い魔』という枠からはみ出た存在ではない。
 
加えてサーヴァントのマスターは代行者であるが魔術師としては大した存在ではない。
しかもサーヴァントはやる気がなく昼は町を散策し、今もなお何故かマスターに助力していない。
何を考え、何をする、そうした行動原理が不明確でありながら強い力を有した存在であるがやる気がないのは確かであり、
 
―――――例え人類最古の王であれども、
     現象にすぎぬこの身を滅ぼすことは不可能であり、何人たりともこの身を止めることは叶わぬ。
 
そうタタリはそう結論を下し、
意識を間もなくエレベーターから現れる子孫へと向けた。
 
しかしタタリは気づいていなかった。
いや、気づくはずがないと思い込んでいた。
 
視界に映っていたサーヴァント、
英雄王ギルガメッシュの赤い瞳はタタリを捉えており―――――。
 
「精々励めよ、雑種」
 
と呟いていたことを。
 
 
 
 
 

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【予告】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.13「決戦前夜」

2018-05-15 01:20:10 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「というより・・・兄さんの手癖の悪さには半分諦めていますから」

いや、手癖が悪いって・・・秋葉。

「ふん、兄さんが既にアルクェイドさんと男女の関係になっている、
 という事実をこの私が知らない――――――なんて思っているのかしら?」

眼をすっと細めそう我が家の鬼妹は宣った。

う、アルクェイドとはその、なんだ。
まあ、勢いで据え膳食わぬは何とやらでやっちまった・・・じゃなく!?

「ご、誤解だ秋葉!?
 俺とアルクェイドとは高校生として健全なお付き合いをっ・・・!?」

「・・・シエル先輩、それと弓塚さんが教えてくれたのですが」

なんとか誤魔化そうとした時。
秋葉が静かに語りかけるように言葉を綴る。
とても美しい響きを伴った音声であるが・・・米神に青筋さえ浮いていなければなお良かった。

「魔術時の魔力が枯渇した時は体液交換、手っ取り早く臥所でまぐあうだとか」

ニコニコと笑みを湛えたまま秋葉は続ける。
コワイ!

「そして魔術的な繋がりが構築されたことで、
 相手の深層意識が夢と言う形で見ることがあるそうです」

一体何が言いたいのか分からない。
しかし、途方もなく嫌な予感がする。

む、繋がり。
魔術的な繋がり・・・いや、待て。
最近昔の夢、それもシキや秋葉達と遊んでいた小さい時の思い出をよく夢に見るけど、まさか。

「気づいたみたいね。
 私と兄さんは「式神行使」の力で結ばれています。
 魔術とは違い魔が持つ異能の力ですが原理原則は同じ。
 繋がりさえあれば無意識の中で相手の意識を覗き込むことは可能」

ましてや、と一拍。
 
「ロアとの戦で元からあった繋がりを兄さんと・・・。
 その、あの・・・キスを交わしたのを契機に繋がりが強化されたのですから」

と、手をモジモジさせながら秋葉は言った。
しかもこちらを伺うように上目遣いで。

なんだこの可愛い生き物?
今日は黒鍵でも降るのか!?






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