そう言われると、今更だが何だか恥ずかしくなって来た…!
「はっはっは、恥ずかしがるとは大尉も可愛い所があるじゃないか」
坂本少佐が親愛表現としてこちらの肩を叩く。
そこに悪意はまったくなく、白い歯を見せ、実にイイ笑顔を浮かべている。
先程の言論といい、この爽やか体育会系のノリ。
表情も豪快な性格と合わさって、こちらの心を溶かすような晴れ晴れとした表情を出す。
……わたしはいいが、ミーナがこの少佐の表情を見たら惚れるだろうなー。
というか、朝から自然に口説く少佐は流石というべきか実に迷う。
「少佐、そろそろ朝食の用意ができますので、どうぞ食堂へ。
わたしは、未だ寝ている2人を起こしに行って参りますので、先へ」
「おお、そうかバルクホルン。
では私は食堂で皆を待つとしよう、また後で」
「はい、こちらこそ」
再度敬礼を交わす。
そして、坂本少佐は食堂へ向かった。
朝から水泳をしたにも関わらずその歩き方は軽く、ぶれすに芯が通ったものであった。
後ろから見ても背筋は曲がらず、竹のように真っ直ぐ、しっかりしたものだ。
何時も少佐、もといもっさんとは顔を合わせているけど、
こうして、じっくり見ると姿勢一つにしろ様になっているな。
わたしも、軍隊で散々歩き方やら叩き込まれたから姿勢は良い方だがやはり少佐の方がカッコイイ。
うーむ、やはり武術、あるいはスマートかつ、紳士教育を信条とする海軍教育のお陰か?
書類仕事、それに御偉いさんとの付き合いはもののふを自称するように苦手だけど。
一見豪快に見えつつも、パーティーとかの集まりでは紳士的な気遣いと振る舞いができる。
話す言葉は海軍と英国で実地教育された英国英語。
容姿は欧州では珍しい黒髪黒瞳で、かつ白人のとはまた違った白い肌に整った顔。
それで、豪快な戦士のような性格。
同時にただの脳筋ではなく、紳士的な態度と気遣い。
厳しいが仲間想いで、部下のためにその労力を惜しまない。
……あ、あれ。
冷静に考えれば何この超イケメンは?
考えてみれば見るほど、少佐にもてる要素しか見つからない。
ミーナが少佐を気にするのも無理もないな、これだから扶桑の魔女は……。
いや、まて。
我らがバルクホルンお姉ちゃんもイケメンだ。
何せ、妹の治療費のために給料を全て注ぎこんで…………あ。
「ああ、そうだな。あの子は、もう」
今はわたしがバルクホルンだ。
【原作】に存在するゲルトルート・バルクホルンは存在しない。
そして、バルクホルンを語るには妹のクリスティーネの存在が欠かせない。
けど、今は彼女はない。
文字通り、この世には既に存在していない。
クリスティアーネ・バルクホルン。
わたしのこの世界の数少ない肉親は、
客船『ヴィルヘルム・グストロフ』と共にバルト海の海底に今は眠っていた。