アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

仲良し家族…強盗も躊躇 

2009年06月23日 | Weblog
 倉本聰による7年ぶりの新作舞台「歸國(きこく…旧字体の帰と国)」・・・父の日のプレゼントで、「歸國」観劇とあいなった。富良野演劇工場へ向かう途中のこと… 田園地帯を走っている私の車の前を、路線バスが走っていた。

 バス停で、路線バスから一人の老婆が降りた。大きめの荷物を持ち、確かな足取りで、発車したバスを追いかける方向へ歩きだした。カーブにさしかかりバスは見えなくなった。その時、老婆は、いきなり車道に上半身を投げ出すように進行方向を見た。進行方向から、10歳ぐらいの少女が、両手を上げて老婆を迎えに駆けてきた。私は2人を追い越した。少女の家の前を通ったとき、家を見ると少女の母親が、窓からバス停方向をのぞいていた。
 ただこれだけの話ですが、「いいものを見せてもらった。『歸國』を観なくてもいいかな」とさえ思いました。

 還暦まで生きてきた私は、この老婆、少女、母親の今朝からの様子が手に取るように分かるのです。再現してみますと…
 老婆は、嫁いだ娘と孫(女の子)に会うために、路線バスで出かけました。車で送ってもらうのではなく、自力で行ける「路線バス」を利用…時代を遡上しているような懐かしさがあります。前日、孫への土産に、スーパーで袋菓子を数種類買った。「かりんとう」「かっぱえびせん」「板チョコ」…老婆の年代では、菓子といえばかりんとう。あと、今流行のかっぱえびせん。おばあちゃんでも、ハイカラなお菓子を知っているところを見せなければね。板チョコは…戦争を体験している老婆にとって、特別のもの。孫は必ず喜んでくれる。
 家を出る前に電話した。
「11時のバスで行くから」
 孫は、落ち着かない。老婆がバスに乗った時刻から、玄関を出たり入ったり。ワクワクドキドキ、すっかり有頂天です。
「まだ、着かないから!(家に)入ってなさい」母親が台所から叫んでいた。母親は、お昼に一緒に食べる料理の下ごしらえをしていた。日曜日の昼食は麺類が主体だが、この日は「イカメシ」を作ることにした。イカは昨日から、小ぶりで新鮮なものを用意していた。
 そして、少女の家の前をバスが通過していった。
「あ!バスが行った。婆ちゃん降りたね。迎えに行ってくる!」少女は、小走りにバス停へ向かった。母親も、台所から手を拭きながらでてきて、老婆(自分の母親)を迎えるべく窓から顔をだした。
 日本に、このようなあたたかい三代(母・娘・孫)がある。ぽつんと一軒だけある、裕福とは思えない農家。たとえ金銭的に貧しいとしても、この日はこれから世界一幸せな時間が訪れるのです。

 タイトルは忘れてしまいましたが、太宰治に次のような小説がありました。
 灯台守の家へ侵入しようとしていた強盗がいた。窓から中の様子をうかがうと、一家3人が楽しそうに食事をしていた。強盗は、「この楽しそうな空間を乱してはいけない」と、一瞬侵入をためらいました。そのとき、大波にさらわれ、強盗は死んでしまいました…。

 楽しい団らん、仲良し家族は、強盗にさえ犯行を躊躇させる力があるのです。
 私も強盗同様、「あたたかい三代」を乱すつもりはありません。嬉しかった。おじゃまして一緒にイカメシを食べたかったです。

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