おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「翳りゆく夏」 赤井三尋

2008年03月15日 | あ行の作家
「翳りゆく夏」 赤井三尋 講談社文庫 (08/03/15読了)
 
ぐいぐいと引き込まれました。友だちとの約束に遅刻しそうになりながら、どうしてもページを閉じることができず、ギリギリまで読んでしまいました。実は、途中でカラクリはなんとなくわかっちゃうのですが…文章の上手さが勝っていて、多少の設定の甘さは「ま、いっか」という気分になれてしまうのです。

物語は、とある新聞社の内定者の中に、20年前の誘拐事件の犯人の娘がいることを、某週刊誌がスッパ抜くところがあります。「東西新聞」vs「週刊秀峰」のバトルは、朝日vs新潮をホウフツとさせて、ちょっと笑ってしまいました。被疑者死亡のために、なんとなくウヤムヤになっていたその誘拐事件を、当時のその取材を担当した記者が、もう一度、トレースする形で物語は展開していくのですが、「刑事の妻」「誘拐犯の娘を引き取った育ての親」とか脇役の描写が大変いいのです。なんか、味わい深い人柄がよく出ているのです。だから、物語にリアル感があるんじゃないかと思います。

ちなみに、作者はニッポン放送社員(現在はフジテレビ社員)だそうです。なるほど、マスコミ関係者なのかぁ。記者の姿、報道の現場の様子がリアルなのも、マスコミ関係者ゆえなのかと納得。それにしても、こういうスゴイ作家を抱えているというのは、フジサンケイグループ、奥が深い…。

ところで「翳りゆく夏」っていうタイトルだけが、いまいちシックリきませんでした。わざわざ「翳り」なんていう難しい感じをわざとらしく使った分、かえって安っぽいような…。でも、ストーリーは面白かったです! 



「最前線」 今野敏

2008年03月14日 | か行の作家
「最前線」 今野敏著 ハルキ文庫 (08/03/14読了)

 最近のケーサツ小説-今野敏と佐々木譲は安心して読めるというか…ハズレがないですね。サブタイトルは「東京湾臨海署安積班」となっていて、湾岸エリアを舞台に安積班のメンバー5人をフィーチャーしています。同じお台場が舞台でも「踊る大捜査線」の青島的な暑苦しい刑事が出てくるわけでもないし、オモシロおかしい事件があるわけでもなく、ある意味淡々としているのですが、その分、リアリティがあってよかったです。

 ちなみに6編からなる短編集です。個人的には、長編小説の方が好きなのですが、通勤電車で読むにはピッタリかも。
 
 ハルキ文庫、活字が読みづらい。文字の線が細いように感じるのは気のせい?


「扉は閉ざされたまま」 石持浅海

2008年03月13日 | あ行の作家
「扉は閉ざされたまま」 石持浅海 祥伝社文庫 (08/03/13読了)

 解説によると、これは「倒叙ミステリー(読み方はトウジョ?)」というものに分類されるらしい。要するに、物語の冒頭の方で殺人シーンの描写があるのです。読者は犯人も殺害方法も知った上で、別の登場人物が犯人と駆け引きをしながら、トリックを解き明かしていく様子を高みの見物できます。これも、解説の受け売りですが…古畑任三郎方式と言えば、わかりやすいかもしれません。

 またまた解説によると、単行本が出版された時点で、既に「そんな理由で、人は、人を殺すのか?」という疑問の声が上がったそうです。読者は犯人も殺害方法も知っていますが、殺人の動機だけは、物語の終盤でようやく明らかになります。私も、正直なところ「おいおい、そんなことで殺人はしないでしょ」と突っ込みを入れてしまいました。斬新なアイデアではあるけれど、でも、あまりにも非現実的です。あとになってみれば、「ああ、あれも伏線だったわけね」と思い当たる部分が幾つもあり、物語としてはちゃんと成立しています。でも、動機としてはバカバカしい。

 しかし、それ以上に、私が違和感を持ったのは、登場人物のセリフが回りくど過ぎる、情景描写が説明的過ぎる-ということです。セリフや情景描写は伏線を張るための重要なパーツであるのでやむを得ない面もあるとは思うのですが…それにしても、読みづらい。本来なら、スピードに乗って読みたいところなのに、文章のリズムが悪くて、何度も引っかかってしまう-そんな感じでした。

 帯に「WOWWOWでドラマ化(黒木メイサ主演)」と書いてありました。確かに、テレビの方がしっくり来るような気がします。可視的にすることで、過剰に説明的すぎるセリフ回しをシンプルにできるだろうし…。でも、やっばり、動機がイマイチかなぁ。

「幕末あどれさん」 松井今朝子

2008年03月12日 | ま行の作家
「幕末あどれさん」 松井今朝子著 PHP文庫 (08/03/11読了)
 
 読み応えありました。600ページ余の分厚い1冊。「一気に読めました!」と言えるほど軽くはないのですが、でも、ぐいぐいと物語の中に惹きこまれていって、気がついてみたら読み終えていたという感じです。

 「アドレサン」はフランス語で若者という意味だそうです(大学の第二外国語はフランス語だったけど、全く、記憶にない言葉…。)まさに、タイトル通りの幕末の青春群像劇。武家の次男に生まれたがために、家督を継ぐこともできず、武士としての誇りと忠誠心の持っていきどころがなくてもがく2人の“あどれさん”。一人は歌舞伎の作家に弟子入りし、町人同然の生活を送る。もう一人は陸軍に志願。何の接点もない道を歩む二人が、大政奉還、江戸幕府の終結という政治体制の大激動によって引き寄せられていくのです。正直なところ、幕末モノには何の興味もなくて一冊も読んだことはないし、高校の日本史の授業も実質・昼寝時間扱いだったので、幕末に関する知識はゼロ。でも、史実というよりも、歴史の波に翻弄される普通の若者たちにスポットを当てているので、それほど苦戦せずに読むことができました。それぞれの人生は、決して、ハッピーな方向に進んでいったわけではないけれど、でも、物語の最後の最後、ささやかな救いがあってよかった。

 ちなみに、松井さんの拍さんシリーズ(「一の富」などの並木拍子郎モノ)も、歌舞伎の作者に弟子入りするお武家さんを主人公にしていますが、こちらは、幕末あどれさんとは全く赴きを異にする軽妙な文章。疲れた頭をほぐしたい時におススメです。
 
 幕末あどれさん-ドラマ化したいと思っている人いるだろうなぁ…。2時間枠では足りないので、年末の「2日連続3時間」みたいなところですかね。2人のあどれさん-織田裕二以外の配役でお願いします!
 

「サウス・バウンド」 奥田英朗

2008年03月09日 | あ行の作家
「サウス・バウンド」 奥田英朗著 角川書店 (08/03/09読了)

 ああ、面白かった! 元・過激派の父に振り回される一家のハチャメチャ生活物語。子どもが主役のストーリーって、あまりに好きになれない(というか、歳が離れすぎていると共感できない…)のですが、これは、違和感なく読めました。ストーリーテラーは息子二郎クンなのですが、二郎だけの物語ではなく、元過激派の物語であり、妻さくらの物語でもあり、姉洋子の物語でもあって、子どもが主役であることを忘れてしまうような厚みがありました。

 豊川悦司&元宝塚女優(顔はわかるけど名前が思い出せない)で映画化されていましたね。その時は、何のキョーミもなかったのですが…今、思うと、豊川悦司って、絶対、ハマリ役!! 傍若無人なアナーキストって雰囲気がよく出ています。でも、いくら、アナーキストとはいえ、現実世界では、ここまでハチャメチャはありえないよなぁ-というぐらいハチャメチャ。子どもが小学校に通うことにまでイチャモンつけるのはやり過ぎのような気もするけれど…でも、“平均的”から外れるのが恐くて、堅苦しい思いをしながら平均であろうとする私たちの、密かな願望を代行してくれているのかもしれません。

 それにしても、奥田英朗って、面白い人です。なんか、作風が定まらないというか…色々な引き出しのある人なんですね。「空中ブランコ」や「インザプール」を書いた人と同一人物とは思えません。でも、やっぱり、私的にナンバーワンは「空中ブランコ」です。変人・伊良部に遭遇した時のショーゲキを超えるものはなかなかないでしょうね。


「舞台裏おもて 歌舞伎・文楽・能狂言」 吉田蓑助他監修

2008年03月07日 | Weblog
「舞台裏おもて 歌舞伎・文楽・能狂言」 吉田蓑助他監修 マール社 (08/03/04読了)

小難しい解説書ではありません。タイトルは「裏おもて」となっていますが、この本がステキなのは「裏」を思いっきり、気持ちよく見せてくれているところです。劇場に足を運べば(手抜きなら、教育テレビの劇場中継なんかでも)、舞台の上のできごとは簡単に見ることはできますけど、舞台が始まるまでの準備の様子がカラー写真付きで、克明に記録されているのです。「克明に記録」と言っても、淡々としたルポルタージュではなくて、ま、ちょっとしたファンの目線で楽しく見せてくれています。
私のお目当ては「文楽」の項目。監修は吉田蓑助さんなのですが、憧れの勘十郎さま(人形遣い)にスポットを当てて、舞台で使う人形に着物を着けていく様子が、何枚もの写真でちゃんとわかるようになっているのです。しかも、着付けのためのお道具袋の写真もあり。舞台での勘十郎さまはキレ味いい雰囲気でカッコイイのですが、舞台に上がる前も、たたずまいが美しく、ステキな人っ!!!! ってことが伝わってきました。
私の贔屓目もあるかもしれませんが、歌舞伎や能狂言よりも「文楽」の項目は、わかりやすく、楽しくできているような気がしました。

「真夜中のマーチ」 奥田英朗

2008年03月07日 | あ行の作家
「真夜中のマーチ」 奥田英朗著 集英社 (08/03/06読了)

 この1-2カ月ですっかり奥田英朗ファンになってしまった私ですが…初めての「イマイチ」でした。というか、なんとなく、波に乗り切れないまま、読みわっちゃったなぁ。恩田睦の「ドミノ」とちょっと似ています。次々と色々なことが起こるので、とりあえず、読み進みはするものの「で? だから?」みたいな気分。登場人物の誰の気持ちにもシンクロできなかったのかもしれません。
 こういうジェットコースターものよりも、ちょっと息苦しさを感じているサラリーマンの気持ちにスルリと入り込むような作品の方が奥田英朗の本領が発揮されるような気がします。

「仏果を得ず」 三浦しをん

2008年03月04日 | ま行の作家
「仏果を得ず」 三浦しをん著 双葉社 (08/03/04 再・読了)

 思えば、全ては、この一冊から始まったのでした。人間国宝・銀太夫の下で修行中の健大夫(たけるだゆう)の青春ラブストーリー。健の恋と文楽の演目を絡めながら、現代人には、ちょっと遠い世界である文楽への招待チケットのような小説です。昨年末、本屋でこの本を手にとったのは、全くの偶然でした。文楽を見たこともなければ、興味を持ったこともなし。漠然と「田舎のジジババの道楽」ぐらいのものと思っていました。

 ところが、この本を読んで、猛烈に、文楽というものが見てみたくなったのです。まず「ご忠義」や「心中」という、おどろおどろしげな世界の中にも、現代にも通じる普遍的な人間の感情が描きだされている-という作者の解釈に興味を覚えました。そして、ファミリービジネスである歌舞伎の世界と比べて、実力主義の気風が強く、外の血を受け入れ続けていることにも心惹かれました。

 そして、ついに、先月、国立劇場でナマ文楽を見てしまいました。興味を持って足を運んだものの…公演が始まるまでは「とはいえ、所詮、人形劇だし」と半信半疑の気持ちもあったのです。しかし、幕が開いた途端に、完全にその世界にトリップしてしまいました。大夫の語りに息を吹き込まれ、舞台の中の世界で逞しく生きる人形たち。情景をよみがえらせる力強い三味線の響き。何もかもが新鮮で、生き生きとして、ワクワクが止まらないという感じでした。その後、別の公演に足を運び、文楽を特集したテレビ番組にも魅了され…今は、早く、次の公演を見た~いというモードです。

 「仏果を得ず」は私を文楽に導いてくれました。そして、ほんのちょっとだけ、文楽の世界を覗き見て、改めて、読み直してみると、作者が、この本を書きたくなってしまった理由がわかるような気がするのです。そう、ジジババの娯楽にしておいたらもったいないような、めちゃめちゃに楽しくて魅力的な世界を、誰かにしゃべりたくて仕方ないって気持ちだったのではないでしょうか。

 ちなみに、三浦さんの「あやつられ文楽鑑賞」(ポプラ社刊)も楽しいです。こちらは、ノンフィクション。というか、三浦さんのミーハー文楽日記? かなり、笑えます。でも、これを読むと、健大夫の気持ちがちょっとわかるような気がするかも。

 再読して、またまた、文楽を見たくなってしまいました!!!
 見たこともない世界に、これほど、引きずりこむ力があるというのは、すごい。三浦さんの本はまだ3冊しか読んでいませんが、間違いなく、代表作になるべき本だと思います。


「西の魔女が死んだ」 梨木香歩

2008年03月04日 | な行の作家
「西の魔女が死んだ」 梨木香歩著 新潮文庫 (08/03/03読了)

 せっかちな私はゆった~としたストーリーにややイライラ。登校拒否に陥った主人公のまいちゃんがおばあちゃんとの生活を通じて、私自身に目覚める物語。「で、これって、大人が読む話でしょうか??」という思いでページを繰っていたのですが…梨木さんという方は他の作品で児童文学ファンタジー大賞を受賞されているんですね。子ども向けに書かれた本であるのならば、まぁ、納得。でも、いまどきの中学生って、もっと擦れているような気もします。


「邪魔」上・下 奥田英朗

2008年03月03日 | あ行の作家
「邪魔」上・下 奥田英朗著 講談社文庫 (08/03/02読了)
 
 今日は「上巻」だけで終わりにするつもりだったのです。しかし、完璧に、ハマッてしまいました。誘惑に負けて、「下巻の出だしのところだけ読もっかなぁ」と自分に言い訳しながら読み始めたものの、一章読むごとに「あと、一章だけ」と言い訳を重ねて、ついに読了。これまで「空中ブランコ」や「マドンナ」などの短編集を読み、「天才的短編作家」と勝手に称号を与えていました。だから、逆に、長編には大して期待はしていなかったのです。実際、冒頭からチーマー3人組のオヤジ狩りの話が展開していくところは、ちょっと退屈で「ガキんちょが主人公の物語なんてツマンナソウ」とやや冷めた気分でした。

 ところが、上巻の三分の一を過ぎた辺りから、俄然、面白くなってきました。平たく言えば、東京都下にある自動車部品メーカーの支社の放火騒ぎから、犯人が逮捕されるまでの物語。追い詰める刑事は主役級ではあるのですが、唯一の主役というわけでもなく…準主役が入れ替わり立ち代り登場し、同じ物語を、別の視点で何度もレビューしながら進んでいくような感じでした。しかし、決して、退屈というわけではありません。最後まで、ワクワク感が止まりませんでした。

 しかし、唯一、残念なのは、もしかして、登場人物の誰にも、明確な救いがもたらされていないということ。我侭な私はベタなハッピーエンドにはケチを付けたくなるものの、でも、救いがない結末っていうのもやりきれないのです。というか「で、恭子はどうなったの?」「2人の子どもはどうするの?」「九野は再婚するの?」-と疑問がたくさん残ったまま、忽然と終わってしまって、ちょっと、肩透かしくらった気分。でも、それは、作者が、ちょっとぐらいハッピーな結末を勝手に妄想する裁量を読者に与えてくれたものと-と勝手に判断することにします。

 次は、ちょっと、柔らかモノを読みたい気分。読んでいる間中、テンション上がった状態のままで、やや疲れました。