おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「こっちへお入り」 平安寿子

2008年03月23日 | た行の作家
「こっちへお入り」 平安寿子 祥伝社 (08/03/22読了)

 大当たり!大当たり! 平安寿子(たいら・あすこ)さんの著作、初めて読みました。というか…不勉強ながら、存じ上げておりませんでした。浜松町の本屋で別の本を探している時になんとなく表紙が目に入って、面白そうな予感がしたのです。電車内をメインの読者場所とする私としては、基本的には文庫本しか買わない主義なので、単行本を買ったのはかなり久しぶり。でも、その価値ありでした!

 大学時代の友人の落語の発表会に付き合わされた江利ちゃん。カルチャーセンターの女性向け落語教室ゆえに…発表会といえども、所詮、素人集団。江利ちゃんの頭の中で展開されるカラクチな批判から物語はスタート。ところが、行きがかり上、付き合ってしまった発表会の打ち上げで、落語教室に参加している普通のオバちゃんたちが、下手さ加減にめげることもなく、「次の発表会には何をやろう」とワーワーキャーキャーしゃべっている様子を見て、「私、こんなに一生懸命、楽しそうにできることあるかな」と考えてしまうのです。

 ここからのストーリーの組み立ては、三浦しをんさんの「仏果を得ず」に似ています。健太夫(たけるだゆう)のリアルの世界の恋愛と、健太夫が語る文楽の演目に描かれる世界が縄をあざなうかのごとく展開していくように、「こっちへお入り」では、江利ちゃんの日々のよしなしごとと、落語ワールドがシンクロしていくのです。

 上手いなって思うのは、江利ちゃんが、とっても現実的に感じられることです。すごくいい人というわけでもない。年下の恋人ができた友人をやっかみ、弟の嫁さんにムカつき。でも、そんないいヤツになれない自分を不甲斐なく思っている。そして、落語を通じて、江利ちゃんは着実に変わっていくのですが、それでも、ドラマチックに展開するわけではなく、手探りで、理想と現実に折り合いをつけながら…というリアル感がいい。

 そもそも、私、この人の文章のリズムが好きかも。クドクドせず、軽やかにテンポいいのです。なんとなく30歳代ぐらいの作家さんをイメージしながら読んでいたのですが…経歴を見ると50歳代の半ば。そういう年齢になっても、こういう軽やかな文章が書けるって格好いい~! 

ただ、問題は、落語を聞いてみたくなってしまったということです。ちなみに、落語をちゃんと聞いたことは一度もありません。子どもの頃、父親が見ていた「笑点」の中で、やっていたような-という程度なんですよね。 「仏果を得ず」ですっかり文楽にハマりつつある私ですが、これで、落語にもハマってしまったら、忙しくなりそうです。