おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「仏果を得ず」 三浦しをん

2008年03月04日 | ま行の作家
「仏果を得ず」 三浦しをん著 双葉社 (08/03/04 再・読了)

 思えば、全ては、この一冊から始まったのでした。人間国宝・銀太夫の下で修行中の健大夫(たけるだゆう)の青春ラブストーリー。健の恋と文楽の演目を絡めながら、現代人には、ちょっと遠い世界である文楽への招待チケットのような小説です。昨年末、本屋でこの本を手にとったのは、全くの偶然でした。文楽を見たこともなければ、興味を持ったこともなし。漠然と「田舎のジジババの道楽」ぐらいのものと思っていました。

 ところが、この本を読んで、猛烈に、文楽というものが見てみたくなったのです。まず「ご忠義」や「心中」という、おどろおどろしげな世界の中にも、現代にも通じる普遍的な人間の感情が描きだされている-という作者の解釈に興味を覚えました。そして、ファミリービジネスである歌舞伎の世界と比べて、実力主義の気風が強く、外の血を受け入れ続けていることにも心惹かれました。

 そして、ついに、先月、国立劇場でナマ文楽を見てしまいました。興味を持って足を運んだものの…公演が始まるまでは「とはいえ、所詮、人形劇だし」と半信半疑の気持ちもあったのです。しかし、幕が開いた途端に、完全にその世界にトリップしてしまいました。大夫の語りに息を吹き込まれ、舞台の中の世界で逞しく生きる人形たち。情景をよみがえらせる力強い三味線の響き。何もかもが新鮮で、生き生きとして、ワクワクが止まらないという感じでした。その後、別の公演に足を運び、文楽を特集したテレビ番組にも魅了され…今は、早く、次の公演を見た~いというモードです。

 「仏果を得ず」は私を文楽に導いてくれました。そして、ほんのちょっとだけ、文楽の世界を覗き見て、改めて、読み直してみると、作者が、この本を書きたくなってしまった理由がわかるような気がするのです。そう、ジジババの娯楽にしておいたらもったいないような、めちゃめちゃに楽しくて魅力的な世界を、誰かにしゃべりたくて仕方ないって気持ちだったのではないでしょうか。

 ちなみに、三浦さんの「あやつられ文楽鑑賞」(ポプラ社刊)も楽しいです。こちらは、ノンフィクション。というか、三浦さんのミーハー文楽日記? かなり、笑えます。でも、これを読むと、健大夫の気持ちがちょっとわかるような気がするかも。

 再読して、またまた、文楽を見たくなってしまいました!!!
 見たこともない世界に、これほど、引きずりこむ力があるというのは、すごい。三浦さんの本はまだ3冊しか読んでいませんが、間違いなく、代表作になるべき本だと思います。


「西の魔女が死んだ」 梨木香歩

2008年03月04日 | な行の作家
「西の魔女が死んだ」 梨木香歩著 新潮文庫 (08/03/03読了)

 せっかちな私はゆった~としたストーリーにややイライラ。登校拒否に陥った主人公のまいちゃんがおばあちゃんとの生活を通じて、私自身に目覚める物語。「で、これって、大人が読む話でしょうか??」という思いでページを繰っていたのですが…梨木さんという方は他の作品で児童文学ファンタジー大賞を受賞されているんですね。子ども向けに書かれた本であるのならば、まぁ、納得。でも、いまどきの中学生って、もっと擦れているような気もします。