おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「日本国債」上・下 幸田真音

2010年10月28日 | か行の作家
「日本国債」上・下 幸田真音 講談社文庫 2010/10/19読了 

 実はこの小説を読むのは、もう5回目か6回目ぐらい。作品にそれほど惚れこんでいるわけではないのですが…その時々に、仕事がらみで再読せざるを得ない事情が生じ、そのたびに、ブックオフで必死になって探すことの繰り返し。

 ブログを通じて知り合った憂国の債券トレーダーたちが、財政再建に本気で取り組もうとしない借金まみれの日本という国家に警鐘をならすために、国債入札で札割れ(応札額が募集額に達しない状態)を起こすことを軸とした、ミステリー仕立ての経済小説。

 世間では諸悪の根源のように言われている財務官僚や、カネの亡者の烙印を押された証券マン-というのは、実は、マスコミが生み出した虚像。与えられた職務の中で、今よりもいい日本を次世代に残すために何ができるかを真剣に考え、思い悩む彼らの姿を描き出したことには素直に好感が持てるし、肩入れしたくなってしまう。

 でも、作品として洗練されているか-というと、それほどでもないなぁ。飛びぬけて文章が上手いわけでもないし、ミステリーとして深みがあるわけでもなし。ただ、金融機関の勤務経験があるだけに、「国債入札」という、普通の人が扱えないフィールドで勝負できることが、この作者の強みなのだと思う。

 ちなみに、作品の設定は2003年。その時点でも、日本はとんでもない借金大国だったからこそ、この作品が描かれたのですが… 残念ながら2010年の日本は2003年よりも新規国債発行額(新たな借金)も、国債発行残高(これまでの累積債務)も格段と増えております。

 さすがに、小説の中のように、トレーダーたちが意図的に国債入札でサボタージュを敢行することはないとは思いますが…でも、何かのきっかけで、国債価格が急落して、日本発の金融混乱が起こってもおかしくない状況にはあると思います。設定は過去ですが、なきにしもあらずの近未来小説として、一読の価値はあるかもしれません。でも、仕事がらみでなければ、再読する価値は見出せません-というレベルではあります。



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