「日本沈没」上・下 小松左京著 小学館文庫
恥ずかしながら、1973年の作品(執筆開始はなんと1964年!)を今さら初読する。子どもの頃、この映画が話題になっていたことはかすかに覚えている。でも、さすがに、まだ、こんな恐ろしげな映画を見る年齢ではなかったので、なんとなく「タイトルだけ知っている作品」のまま過ごしてきてしまった。
しかし完成から39年経った今読んでも、まったく古くささは感じない。それどころか、もしかして、小松左京という人は2011年の日本を見てきて書いたのではないか―と疑いたくなるような薄気味悪いぐらいのリアリティ。東京が震災に襲われる場面を読んで、3月11日の揺れを思い出して足がすくむような思いがした。そして、39年前よりも過密化が進んだ今、本当に直下型の地震が来たら、この小説の中で描かれている程度の混乱では済まないであろうことは容易に想像できる。
日本のSF小説の金字塔と言われているが、全くの空想小説ではなく、予見というか、警告的小説だったのかもしれない。さすがに、簡単に日本列島が沈没するようなことはないにしても、所詮は、プレートの境界に乗っている島に過ぎないという心構えでいなければ、
ちなみに、日本人のほとんどは当たり前のように地震とプレートとの関係を知っているが、その知識が広がったのは「日本沈没」がきっかけだったらしい。物語としての力があればこそ、人の心に知識を刻むことができたのだろう。