おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「サヴァイヴ」 近藤史恵

2011年08月18日 | か行の作家

「サヴァイヴ」 近藤史恵著 新潮社 

 

もうちょっと長くこの面白さに浸っていたいのに…奥田英の「我が家の問題」に引き続き、あっさり一晩で読み切ってしまい、「ああ、もったいない」。

 

プロの自転車ロードレーサー白石誓(しらいし・ちかう/通称チカ)を主人公とした「サクリファイス」「エデン」の2連作からのスピンアウト作品。チカのチームメイトやライバルを主人公にした短編集。前作の人気便乗商品かと警戒したのは杞憂でした。面白い!本編2作に負けず劣らずに面白いです。

 

まずは、なんと言っても自転車のロードレースという競技の面白さがキッチリと伝わってくる。個人競技なのに、チーム力が問われること。エースとエースを勝たせるために競技に加わるアシストとの心理バランス。落車による怪我や死の恐怖との戦い。体力や技術だけではない駆け引きや知的ゲームの一面。一度、じっくりこの競技を見てみたいなという気持ちになる。その競技の面白さをベースに、人間ドラマが重なっていくのだが、かつての青春モノ、スポーツモノに特有なウェットな感動を誘う感じはなくあくまでも淡々としている。そこが、またいい。結末を書きすぎないで、かなりぶっきらぼうな終わり方をしているけれど、その方が読み手の妄想の余地が広がるし、余韻が楽しめて好き。簡潔でリズム感のある文章もいい。

 

近藤史恵さん、かつては歌舞伎を題材にしたミステリーを書いていて、その時は、設定の甘さとか、まだらっこしい表現が気になってしまったけれど、ロードレースシリーズは圧倒的にいいです!



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