おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「なぜ、絵版師に頼まなかったのか」 北森鴻

2012年03月09日 | か行の作家

「なぜ、絵版師に頼まなかったのか」 北森鴻著 光文社文庫

  明治初期、文明開化の頃の東京・横浜を舞台にしたオムニバス形式のミステリー。松山から親類のツテを頼って上京してきた冬馬少年が、日本政府から招聘され東京大学で西洋医学を教えていたドイツ人・ベルツの給仕として働き始める。好奇心旺盛なベルツに引きずり込まれるように、2人で事件解決のための推理をするという運び。

  表題作でもある「なぜ、絵版師に頼まなかったのか」は、とにかくタイトルが秀逸。タイトルの意味を悟った時の「!!!」という感じは、なかなか爽快。行間からなんともいえない時代の雰囲気が漂ってくるのも、上手いなぁ…と思う。そして、ベルツ先生にしろ、冬馬少年にしろ、キャラクターとしての魅力も存分にある。

 しかし、ミステリーとして秀逸かと問われると、いまひとつ、切れ味鋭くないように思える。トリックはパッとしないというよりも、無理があるんじゃないか…。そんな感じ。

  解説を読むと、なるほど、とても凝った作品のようです。ベルツ先生はじめ、物語の登場人物は実在の人物が多く、しかも史実を下敷きにして創作している部分も多いらしい。そして表題作以外のタイトルも、海外の有名なミステリーのタイトルをもじるなどの工夫がこらされているなどなどなどなど。

  というわけで、歴史ファンとか、ミステリーオタクにはたまらない作品なのだろう。教養のある人にとっては、遊び心いっぱいで、作者と「ね、わかる人にはわかるんだよね~」とヒミツの会話を楽しむ悦びがあるんだと思います。ただ、教養もなく、単純に、ミステリーとしてのワクワク感に引きずり込まれたい私には、やや物足りなかった。



コメントを投稿