おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「まほろ駅前 多田便利軒」 三浦しをん

2008年08月09日 | ま行の作家
「まほろ駅前 多田便利軒」 三浦しをん著 文藝春秋者 (08/08/09読了)
 
「一弦の琴」が直木賞受賞作なら、「多田便利軒」も直木賞受賞作。意外と懐が深いなぁ…。

 まほろ駅前にある便利屋・多田クンの物語です。「まほろ駅」は架空の駅のようですが
、モデルとなっているのは町田と思われます。東京なのに神奈川県と勘違いされがちで、駅近くにハンズがあったり…。物語に登場する「ハコキュー(箱根急行電鉄)」≒「小田急」?「横中(横浜中央交通)」≒「神奈中(神奈川中央交通)」? -などと神奈川県民ならではの楽しみ方もできてしまいました。

 正月早々、多田くんが、「横中バスの間引き運転状況を調べよ」という妙な仕事の依頼を受けるところから物語はスタート。その仕事の帰り道、偶然、遭遇した高校時代の同級生・行天クンが多田便利軒に転がり込んできて、奇妙な同居生活が始まるのです。同居するからには、二人は高校生の時からの仲の良い友人かと思いきや…高校時代には一度も口をきいたこともなく、その後、一度も会うこともなかった遠い存在。そもそも、行天クンは、多田クンのみならず、誰ともしゃべらず、同級生と交わることのなかった大変人。変人のまま大人になった行天クンは、多田便利軒に転がり込んだあとも、居候に相応しいしおらしい暮らしぶりをするでもなく、非常識な言動、奇行を繰り返し、多田クンにとっては「ちょっと困った」存在。

一見、大人・多田クンが大きな子ども行天クンの保護者となって立派な社会人に育てるストーリーのようであり、でも、実は、過去の悲しい出来事を機に社会に対して心を閉ざしてしまった多田クンの成長記録でもあるのです。途中、ちょっと冗漫だなぁと思った部分もありましたが…読み終えてみると、一つ一つのエピソードが多田クンや行天クンのバックグラウンドを形作るために不可欠のものであることがよくわかります。そして1年がめぐり、多田クンは再び、横中バスの間引き運転を監視する仕事を依頼され、今度は、偶然ではなく、必然に行天クンともう一度めぐり合う。

パステルカラーの表紙が似合うような透明感のある文章を書く、ありがちな流行の女性作家とは、やっぱり、一味違います。秀作です。でも、やっぱり、私の中では「仏果を得ず」がダントツ・ナンバーワンです!


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