おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「晴天の迷いクジラ」 窪美澄

2012年04月07日 | か行の作家

「晴天の迷いクジラ」 窪美澄著 新潮社 

 本屋大賞で2位だった「ふがいない僕は空を見た」に続く、著者第2作目。(個人的には、大賞だった「謎解きはディナーのあとで」より、断然、よかった!)

 すごくいい。

文句なくスカッと素晴らしい作品―というわけではない。文章もいまひとつこなれていないような印象だ。決して楽しいストーリーでもない。それでも、読み終わった後に、ずっしりとした読み応えと、長い長いトンネルの先に陽の光が見えた時のようなホッとした気持ちがなんとも心地よい。

  破綻に追い込まれた東京の小さなウェブデザイン会社の女社長と、一番若手の社員。「もう生きてるのもかったるい」というところまで追い詰められた2人が、最後の力を振り絞って見に行ったのが、湾に迷い込んできてしまったクジラ。

 近隣の住民たちは、あの手この手で、なんとかクジラを湾の外に出してやろうとする。でも、結局のところ、クジラが自ら泳ぎ出さなければ、クジラは湾から出られずに死んでしまう。

 あまりにも直球すぎる比喩なのだけれど、そのストレートさが却って心に響く。迷い込んできたクジラに、迷える人たちを投影している作者自身が、迷い、悩みながらストーリーを展開させているからこそ、最後に、光が見えてくる。生きているのはかったるい、それでも、生きていかなきゃという当たり前のメッセージがしっかりと伝わる作品。

 

 



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