「円朝の女」 松井今朝子著 文藝春秋社 (10/04/30読了)
松井今朝子作品としては、イマイチでした。落語の三遊派宗家と言われる、歴史に残る落語の大名人・三遊亭円朝を描いた作品。円朝の付き人・円八が、妻、愛人、娘など円朝をめぐる女性について語ることで、円朝の人となりを浮き上がらせていく。
イマイチの理由のその①は、直木賞受賞作の「吉原手引草」と手法が似ているということ。しかも、直木賞の後に、オール読売で連載が始まっているのです。もしかして、編集者が二匹目のドジョウを狙いにいったのでしょうか…。「吉原手引草」は斬新な印象だったけれども、同じ手を短いスパンで続けて2回使うと、ちょっとがっかりです。
イマイチの理由のその②は、円朝というあまりにも有名な人物を取り上げながら、円朝の功績についてほとんど触れられていないこと。冒頭の方で「文七元結」「芝浜」など数々の名作を残しているとは書かれていましたが… それだけでした。
せっかく、円朝という大名跡を取り上げるのであれば、なんで円朝は数々の新作を残せたのか、創作の原動力はなんだったのか-そこを語ってほしかったです。これだと、なぜ、わざわざ円朝を取り上げたのか、今一つはっきりしない作品でした。
おりおんさんの仰るとおり、円朝の業績についてはほとんど触れられず、存在そのものが薄いですねえ…。女たちとの愛憎をテーマにしたのは面白い話もありましたが、最後は急に「戦争反対」みたいな、芸人世界から離れた話になっちゃったのが残念です。