おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

散る。アウト  盛田隆二

2011年08月08日 | ま行の作家

 

散る。アウト 盛田隆二著 毎日新聞社    

 

 帯によれば、「熱狂と、静寂、切なさに満ちた圧巻のラブストーリー」だそうだ。まぁ、確かに大掛かりなドラマである。ごくごく普通の地方都市の堅実なサラリーマンだった男が、先物取引に手を出したことをきっかけに借金を重ね、ホームレスとなる。そこで、暴力団にスカウトされ(?)、国際犯罪に巻き込まれていくというストーリー。東京、ウランバートル、ウラジオストク、マニラを舞台に、カーチェイスあり、銃撃戦あり、純愛ありと、派手な要素は揃っている。これが、真保裕一が書いた小説なら、フジテレビが織田裕二を主演にして映画化しちゃいそうな勢いかも。(織田裕二は究極的にホームレス役が似合わなそうだけど…)

 

 しかし、何かが物足りない。帯にも「圧巻のラブストーリー」と書いてあるぐらいだから、純愛の部分が物語のクライマックスなのだろうが、どうも、ここが、あっさりしすぎているような…。いや、ラブシーンが淡々としているとか、恋に落ちた理由が分からないとか―そういうことにケチを付けるつもりはない。それよりも、理由もなく、適うはずもない恋に落ちる人間の無力感とか絶望感みたいなものが今一つ、伝わってこなかった。しかも、恋する人の死の受け入れ方があまりにもサラッと描かれていてかなり拍子抜け。

 

 個人的には、前半の「地味なサラリーマンがいかにホームレスとなったのか」の部分の方が圧倒的に面白かったし、リアリティがあった。冗漫がいいとは思わないけれど、でも、ラブストーリーで読ませるつもりなら、あと30ページ増やして無抵抗に恋に落ちていく絶望感を描いてくれないと、心震えない。

 

 「盛田隆二なんて作家は、初めてだなぁ…」と思いながら読んでいたのですが、74日読了の「身も心も」が、同じ作者でした。たった1カ月前に読み終わった作品の著者名も覚えていられないほど脳が劣化しているのか、それとも、微妙に私の記憶には残りづらい作品なのか…

 

 ちなみに「散る。アウト」は chill out 。こういう掛詞って、なんとなく、昭和な空気の匂いがします。

 



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