おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「鉄のしぶきがはねる」 まはら三桃

2012年04月07日 | ま行の作家

「鉄のしぶきがはねる」 まはら三桃著 講談社  

  北九州にある工業高校が舞台。機械科1年生唯一の女子・三郷心(みさと・しん)が、先生の差し金で「ものづくり研究部」に助っ人として引きずり込まれ、「ものづくり甲子園」とも呼ばれる高校生技能五輪を目指して奮闘する物語。

  物語の構造としては、極めて、ノーマル。もちろん、野球や、サッカー、テニスなどで大会優勝を目指す青春もののとはひと味違うけれど…でも、逆に、今さら、野球部の青春ドラマを描くのはハードルが高い。一歩間違えれば、陳腐過ぎてしまう。故に、「碁」とか「小倉百人一首」とか、ひとひねりした青春マンガが流行ったりしているわけで、「舞台設定はアブノーマル、ストラクチャーはノーマル」というトレンドにバッチリはまっているのかもしれない。ただ、そういう設定を狙って作り込んだわけではなく、「鉄」とか「モノ作り」に対する作者の暖かい視線が感じられて、好感が持てた。

  ただ、主人公の「心=しん」という名前が、どうもひっかかった。意味あって名付けられた名前なのだけれど、普通名詞である「こころ」という意味でも「心」が頻出するので、「普通名詞のつもりで読んでいたら主人公の名前だった!」ということが何度かあった。作者のキャラクターへの思い入れ、意味づけと、読者にとっての読みやすさのバランスって難しい。

  ちなみに、この作品は岡山県が主催する「坪田譲治文学賞」の受賞作なのだけれど、その選評が、なんとも時代を感じさせる。選者のお歴々は「工業」という言葉に感銘を受け、「現代のプロレタリア文学だ!」みたいなことを言っているのだけれど、何がプロレタリアなのか?? 赤貧でもないし、イデオロギーを語っているわけでもないし。純粋に、鉄の魅力、技術を磨くことの悦び、勝負の興奮を描いているのに、プロレタリアとかいう時代がかった意味合いを押しつける必要はあったのだろうか。文学の世界も、名実ともに世代が入れ替わるにはもうちょっと時間が掛かりそうな気がしました。



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